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日本の食料安全保障は大丈夫か!? 自給率が低い仕組みを紐解く

日本の食料自給率

 日本の食料自給率はカロリーベースで38%、日本への輸入がSTOPするとカロリーが不足し、乱暴な言い方をすると約2/3のヒトが餓死してしまうという驚異的な数字です。食料自給率の推移を見てると、日本は長年対策を取らず、食料自給率をまともに上げようとしていないことがわかります。

農林水産省HPより

さらに解像度を上げて、都道府県別にみてると、東京・大阪の自給率は驚異の1%、北海道と東北以外は大変なことになりそうです。皆さんのお住いの地区の自給率はいかがでしょうか?

出典:農林水産省「都道府県別食料自給率の推移(カロリーベース)平成26年度」より作成

 ウクライナ侵攻が発生したことで、中国の台湾への侵攻もまったくないとは断言できない状況です。日本のシーレーン、海上の貿易ルートが塞がれると輸入食料が滞るリスクが現実味を帯びてきました。

 そもそもなぜ日本の食料自給率が低いのか、理由として以下の3点を上げさせて頂きます。

自給率低下の原因①洋食化


 アメリカが第二次世界大戦後に余剰となった穀物在庫を減らして販売するため、長期的には占領国の食料供給先を握ってしまうことで、日本へのプレゼンスを高めるため、学校給食の洋食化(米からパンへ)、洋食の方が栄養価が高いというプロモーションなどを行いました。その結果、肉や小麦を主とする食事の機会が増加し、日本人の一番のエネルギー源である米の消費量が低下していきました。洋食に使用する食材は日本の気候には適さないものが多く、輸入量、品種共に大きく増え、日本固有の食材は減少していきました。

自給率低下の原因②補助金が少ない


 2013年の時点で、農業所得に占める国の補助金の割合は、スイス「100%」、フランス「95%」、イギリス「91%」でした。それが2013年にスイスは「100%」、フランス「95%」、イギリス「91%」、アメリカ「40%」、これらに対して、日本はせいぜい「10%」くらいとなっていることがは驚きです。さらに関税も食材によっては欧米と比べて低く、まったく国からの保護がない状況です。日本の農家は小規模経営で効率が悪い、農協が非効率なシステムを作っているなどの批判もありますが、そもそも海外と比べて補助金が少ないために生産者が儲からない、安い海外産の食料に負けてしまっているのです。

 日本が輸入する小麦、とうもろこし、大豆、牛肉などの主としたカロリー源は、同盟国であるアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入が多く、輸入がすぐに止まることはありません。つまり、日本は食料安全保障よりも工業品の輸出を優遇し、経済やGDPを上げることを選択し、国土を豊かにしてきた歴史があるのです。簡単に言うと、日本は農業を捨てて、お金を儲けをしてきたとも言えます。

自給率低下の原因③農業に適した平地が少ない


 なぜ海外へ農業を売り飛ばしてしまうようなこととなったのか、根本的な原因は、日本には大陸のような農業に適した平野が少なく、大規模農業がやりにくいため、コストが高くなってしまうと考えています。
 日本ですべての農産物を生産しようとすると、国土面積の1/3、現在の耕地面積の2.5倍が必要となりますが、そんな広大な土地はどこにあるのでしょうか?

資料:農林水産省「食料需給表」・「耕地及び作付面積統計」、財務省「貿易統計」、FTO「FAOSTAT」

さらに日本の農地は41%が傾斜地の多い山間地域で、農地も分散しており、北米やオーストラリアで行われるような大規模な設備、機械で広大な土地を経営する農業ができないため、農地面積、所得、生産量でまったく歯が立ちません。

リコー研究所 r米国農業の「光」と「影」 時事通信社デジタル農業誌Agrio・菅編集長に聞く

 つまり、自由貿易の恩恵が受けられる日本の現状であれば、食料自給率を上げるよりも、海外の安い食料を輸入に頼った方が経済合理性が高かったので、政府も口では食料自給率の低下を嘆いておきながら、実際にここ数十年は具体的な対策を本気で実施しなかったとも言えます。

本当の食料自給率は13.9%!?

 まだ隠された議論が残っています。それが種、肥料、飼料の問題です。日本の野菜の自給率は79%となっていますが、野菜の種の90%以上が海外から輸入しているです。効率がよくて栽培しやすいF1種は、人件費が安い海外で作った方が安いため、海外から日本も含めて世界中へ輸出されています。よって、もし日本が種を輸入できなくなると野菜の自給率は10%以下となってしまいます。

 日本の肥料はほぼ100%海外に依存しています。特に三大肥料の窒素、リン酸、カリウムの日本の肥料消費は、世界の消費量の0.5%しか占めておらず、価格や供給への影響は無いに等しいです。世界の肥料の25%を製造していたロシア、ウクライナの影響で供給がひっ迫し、大きな値上がりをしただけでなく、今後は原料すらが手に入れられない状況が危惧されています。

(出所)農林水産省「令和2年度 食料・農業・農村白書 コラム 肥料原料は大半を輸入依存」

 飼料はとうもろこし、大豆が原料で、広大な土地がある大陸での大規模農業が向きます。こちらも輸入が75%となり、お肉の自給率49%、乳製品の自給率61%は見せかけの自給率とも言えます。

 これらの数字を単純計算ですが、現在の肉・乳製品・野菜の項目の自給率へ掛け合わせて計算すると、実際の自給率は13.9%となってしまいました。

 すぐには海外からの輸入が止まることはないとはいえ、将来的に日本の食品へどんなリスクが高まってきているのでしょうか。

将来高まるリスク

グローバル化
 パンデミックスやウクライナ侵攻による突発的なアクシデントによって、日本も大きな食料価格の値上がりの影響を受けました。日本は直接的にロシアやウクライナから農産物を輸入している比率は少なかったのですが、世界の食料システムが密に繋がってしまい、金融システムと同じようA→B→C→・・・と連鎖が広がっていく信用不安によって、本来の需要以上の買いが発生し、バブルとも言える高騰が発生しました。食料という命をつなぐものが無くなれば、パニックとなるのは当たり前です。これも食材の生産地が一部の地域に依存され、地産地消でなくなったことで、投機的リスクが高まったことが原因です。
 アフリカは当初は先進国からの食糧支援によって穀物の海外比率が高まり、その後も海外の生産国からの安い穀物の輸入へ依存してきました。ロシアやウクライナからの食料システムが出来上がり、自国生産を諦めたことで、緊急時の穀物不足への対応が取れなくなっています。日本も他人事では済まされません。

 日米貿易戦争で中国に貨物コンテナの在庫が膨れてしまい、世界でコンテナ不足となって、物流コストが値上がるのはまさに茶番のように思えますが、グローバルなシステムがいかにレジリエンス(強靭性)に欠けるかを表している具体例と言えます。
 つまり、世界がグローバル化によって密に繋がったことで、食料システムはより大規模で集約化した効率的な生産を可能にし、多くの国へ分散して大量供給することができるようになった反面、海外のどこかが発生したアクシデントが世界全体へ大きな影響を及す頻度が増してきています。

気候変動
 気候変動による大規模な自然災害・異常気象も増えてきています。日本ではあまり報道されていませんが、パキスタンは去年8月の降水量が3倍となったことで、国土の1/3が洪水の被害を受けてしまい、経済破綻をきたしています。その影響は食糧不足だけでなく、失業と貧困、電力不足、海外への人材流出など、幅広い範囲へ大きなインパクトを与えます。特にCO2排出量が少ない途上国が被害を受けやすく、排出量が多い先進国とのギャップが分断を生み出しています。

欧州でも過去500年に一度の大干ばつが発生して穀物の収量は低下していますが、このようなニュースが多すぎて、日本でも知らない人が多いと思います。

 大陸よりも気候変動の影響を受けにくい日本でも問題は発生して始めています。日本で海藻の生産量が低下しており、海水温の上昇で海藻が生育不良となり、クロダイなど魚が水温上昇によって行動が活発化し、昆布や海苔を食べる期間が長くなっているのです。

 このように世界の多くの地域で、歴史的な干ばつ、降水量、台風などが多発しており、食料が安定供給できる基盤から壊れかけ始めています。

人口増加に伴う食料需要増加
 もっと長期的な話をすると、全世界の人口は2050年に90億人になると予想され、新興国のGDP増加による食生活の向上(肉食化)によって、2050年には2005年時のタンパク質の2倍の供給量が必要になります。これまでは農業の生産性の向上によって年々増大するタンパク質需要に対応できたが、今後はその伸び率だけでは吸収できなくなり、2030年頃には需要と供給のバランスが崩れるのではと言われています。

 つまり世界人口の食べる量が増えたため、需要と供給のバランスが崩れ始めていることも原因で、生産と消費の距離が離れていたり、政治的な問題などで生産と消費のマッチングが上手くいかなる頻度が増えていくことが予想されます。グローバルな食料システムは適度な余剰在庫がないと、世界全体に食糧を配分することは難しいのです。これがアパレルであれば、売り切れで済みまされますが、食の場合は売り切れでは済まされません。これまで食を資本主義、経済性のあるビジネスに乗せることで効率化は図っていましたが、食べ物があることが当たり前になり過ぎて、実は社会主義的な産業、インフラであることを忘れかけているのかもしれません。

日本での今後の対応

 ここまで紹介してきた食料システムの問題点は、グローバル化・複雑化してしまい、日本だけで単純には解決できる問題ではないことがわかります。
 よく言われるのが、地産地消、スローフードに戻していけばよいとの意見もあり、実際に食のローカライズされた取り組みが日本でも地域創生と結びつて盛んになってきています。ただし、まだ現時点において、生産のキャパシティは限られ、コストも高くなるため、すべての食事へ置き換えるというわけには到底できません。今の食料システムが押し付けている環境や健康負荷の隠れたコストが測定できるようになって上乗せされると、置換えへのメリットが出てくると思います。それでも大規模で集約した標準化された食品は以前として価格や供給面で有利であることは間違いないです。

 イーロンマスクが電気自動車で成し遂げていくのと同じように、テクノロジーで食糧危機を解決する、まさにフードテックを活用していくのも一つの手段です。ただし以前書いた記事の通り、培養肉はまだ遠い未来の技術、植物肉で利用される大豆やエンドウ豆の穀物は輸入に依存しており、日本には穀物を栽培する土地がないことから、根本的な解決には至らない可能性が高いのです。

 最初に取り上げた食生活の和食化や政府からの補助金を増やすことは一つの有効な手段だと思います。子供の頃からの教育も必要で、小学校の給食へ地元の有機野菜を使用する例も増えてきています。
 日本人にとっての食は、四季の変化からくる自然の恵みであり、大切にしながら感謝をするものであったのが、いつの間に忘れがちとなっているように感じます。もう一度、日本の伝統のある食文化へ少しだけ立ち戻り、地域農業や食の多様性を守り、環境負荷が小さく、ヘルシーな世界に誇れる「和食」と言われる食文化を普段の暮らしの中へ、現代風にアップデートして少しずつ取り戻していく必要性を感じています。