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飛べない谷のバイト

この世界には、2種類の人間がいる。

今日みたいな、飛石連休の谷間の日に
会社を休める人間と、休めない人間だ。

僕は休めない側の人間なので、朝になると
もそもそと、王蟲のように起き上がる。

休みから休みへと、飛び移ることができないで。
日曜と祝日の間の谷に落ちてしまった僕たちは。

夢も希望もない顔で、通勤電車に揺られてる。

休みと休みの間の街はまるで谷底にいるようで。
心なしかいつもより、人は少なく風は強い。

休みから休みへと、飛ぶことができた人は今頃、
夢と希望に包まれて、布団で眠っているだろう。

空の青さが恨めしくて、鳥の速さが羨ましくて。
風の強さに心が折れて、立ち止まってふと思う。

もういっそのこと「飛んで」しまおうか。
バイトが急に来なくなるという意味で……!

そんなとき、心の中で声が聞こえる。

「大丈夫。怖くない」

飛べない谷で生きる僕らはみんな
心にナウシカが住んでいる。

「落ち着いて考えたらただの月曜なんだから……
 ラン、ランララ、ランランラン」

歌う彼女に励まされ、僕らは今日も高らかに
タイムカードを打刻する。

飛べない谷のバイトだから。