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【酒話】手紙〜拝啓 二十六の君へ~

 拝啓 友人の駿くん。お手紙書きます。

 先日、君と同じ名前の日本酒を見つけました。
 居酒屋のドリンクメニューに、君の名を確認したときにはもう、店員さんに注文を告げていました。
 まるで、仕事も足も速い、君のように。

 振り返れば、君と出合ったのは、僕らが法律的にも、身体的にも、まだ日本酒を飲めない18,9歳の頃でした。
 アルバイトの面接へ行けば落とされてばっかりだったし、合格して働き始めたと思えば数週間で辞めてしまい、全然続かなかった大学生の僕が、大学卒業まで続けられたアルバイト先で君と出合いました。
 続けられたのには、いろいろな理由がありましたが、君という存在に出合ったことが大きいと言い切れます。
 僕が働き始めた頃には、君はすでに、「仕事」をしていて、身近な同い歳でそんなに活躍している人を見たのが初めてだったから、僕は衝撃を受けました。

 君は、僕が初めて出合った大人です。

 どこまでも子どもでいた僕に、大人になることを焦らせました。いま思えば、あの頃の君も随分と子どもだったのだけれど……

 それから僕たちは、いわゆる「にこいち」でした。
 たくさんの失敗をして、反省したかと思えばまた失敗をして、そんな繰り返しで、二人は成長しました。
 教育において、僕が大切にしていることの1つに、「どれだけ失敗経験ができるか」というものがあります。挑戦する大切さですね。
 あの頃の僕たちが、成長し得る僕たちが、身をもって感じた教育論だと思います。

 そうやって、いつまでも悪いことをしていたかったけれど、人生そういうわけにもいかず、君は早々に家庭を持ちました。

 そういえば、友人の結婚式に出席したのも、君のものが初めてでした。
 それまで、カッチョイイ君を何度も見てきたけれど、あんなにカッチョイイ君と出合ったことはありませんでした。

 やっぱり君は、僕が初めて出合った大人です。

 いつかの僕の誕生日に、君から日本酒をもらったな。なんてことを思い出しながら、このブログを書いています。
「純米吟醸酒 駿」は、僕たちの青春時代のような、大事を駆け抜ける君のような、そんな味が、景色が見えました。

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 最近は忙しく、なかなか会えていませんね。
 日本酒作家になった僕と、久しぶりに杯を交わしませんか?

 君は、きっと、これを読んでくれているはずです。

 そんな、お誘いを、お手紙にしてみました。
 これからも「にこいち」の駿くんへ。

 敬具

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