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栗本和紀│日本酒作家
2016年3月8日 22:20
連載小説【酒役~しゅやく~】の目次です。随時更新します。―――――第1升『はじまりの酒』 第1合『美女の涙は吟醸酒』 第2合『酵母は筆を誤らない』(越後鶴亀 純米吟醸酒 ワイン酵母仕込み) 第3合『宝石好きのイタリア人』(翠玉 特別純米酒) 第4合『わび酒』(千利休 純米吟醸酒) 第5合『添加の日本酒さま』(射美 吟撰) 第6合『酒も見た目が9割』(龍勢 特別純米酒
2016年3月8日 22:08
ゼミの飲み会は、大学近くにある格安居酒屋で行われている。 俺は、たまたまイタリア人女性の隣に座り、顔を赤らめている。決して照れているからではない。お酒を飲んでいるからだ。 留学生のソニアは成績優秀で、加えてスタイル抜群。立って並ぶと、彼女の腰の位置が、俺の顔の高さと同じになるほど脚が長い。「日本人は、あまり日本酒を、飲まないのですか?」「いぇー、いえす。おー、のー」 急に外国人に話し
2016年3月10日 17:33
イタリア人留学生ソニアに連れてこられたのは、大学通りに唯一ある酒屋さんだ。通学路なので、その存在は知っていたが、中に入るのは初めてのこと。お酒を買うなら、いつもスーパーやコンビニへ行く。「なんか薄暗いけど、この店、ほんまに大丈夫なん?」「坂倉くんは、中が明るいワインセラーを、見たことが、ありますか?」「たぶんない。というか、ワインセラーを見たことがないかな」「じゃあ、閉まっているときも
2016年3月15日 17:43
大学通りに唯一ある酒屋さんでは、老爺の店長さんがこの上ない笑顔で、僕たちに日本酒を試飲させてくれている。「さぁさぁ、お兄さん。次は、これなんかどうですかぃ?」 店長さんが、日本酒の瓶を冷蔵庫から取り出しながら、ソニアに微笑みかけた。 ソニアも微笑みに応じ、歳の差推定50歳のアイコンタクト劇場が、俺の目の前で繰り広げられる。 店長さんが新しいプラカップを取り出し、いま俺たちが手に持ってい
2016年3月24日 19:53
日本酒サークルのメンバーは、代表のソニアをはじめ8人。俺が加わったことで9人になった。これでいつでも野球ができる。 男女比は、男4:女5と、意外にも女性が多いことに驚く。 今日は、月に1度の全体ミーティングの日で、サークルのメンバー全員とは初顔合わせになる。 メンバーがみんな、「事務所」と呼んでいる日本酒バーは、平日の夕方だというのに満席だった。「日本酒って、人気があるんやな」 ソ
2016年3月31日 16:36
俺たち日本酒サークルが事務所として利用している、日本酒バーでは、30種類以上の日本酒が常備されている。「ところで、修三は、『純米酒系』しか飲まないの?」 あいかわらず馴れ馴れしい男前マスターの質問に、俺は口ごもった。質問の意味が分からなかったのだ。 そんなとき助け船を出してくれるのが、さすがに日本酒サークル代表のソニアだった。「日本酒は、水と、お米と、米こうじから、できていますよね」