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空想短編小説:真夜中の温泉

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人生に疲れたぼくは、ひなびた温泉宿でおかしな男と出会う。男は、大草原にアルマジロがたむろする光景を想像してほしいとぼくに頼むのだった。スランプの作家と青年が、閉じ込められた露天風…
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2023年10月の記事一覧

空想短編小説:真夜中の温泉9

「おい……お前、よく見ると、菅田将暉にも瓜二つだな。髪型もう少し変えたほうがいいぞ」
横に並んだ男は、さっきとは打って変わり、死んで生き返ったように顔を蒸気させながら、ぼくの頭をちょいと指差した。
「うん、トム・クルーズにも若干似ている」
「適当なお世辞はやめてください」
ぼくは、この植木川賞作家は、なぜ県知事選挙に持ち上げられ、さらにこの男がこの場所に今なぜいるのか、全くもって意味が分からなくて

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空想短編小説:真夜中の温泉8

「君、知ってるかい? ペンギンは骨格の構造上、つねに立ちながら空気椅子をしている状態なんだよ」
ぶるぶると震えながらも、男は落ち着き払ったような低い声でそうつぶやくと、にやりと笑った。
だが目は全く笑っていなかった。
「ふふふ……おかしいだろ。まさに今の俺は崖の上に佇むペンギン。ペンギン・ヒューマンだ。ふふふふふ……」
ぼくは男の肩を思いきり叩いた。
「そんなことだれも聞いていません。それより、あ

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