空想短編小説:真夜中の温泉16
ぼくから視線をずらすと、男は今までで1番大きく目を見開いた。
「おい……なんで象がいるんだ……」
「象?」
ぼくには見えない。ただ生垣の周りの木の葉や雑草が、なんとも不自然に揺れ動くのが見えるだけだ。
「子供の象だな。まさしく子象(小僧)だ」
男は手で口元を抑えると、自分で自分がいったダジャレに笑ってみせた。
「どう、どうどう、ふ、ふふふふふ……」
顔から吹き出る汗をタオルで拭きながら、男は後ずさりした。
「こっち入ってきたぞ」
「え?」
あんな小さな生垣の隙間から、どうやっ