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海外大学院の選択肢に悩んだとき、考えておいたほうがいいこと

イタリアとベルギーでそれぞれ一年ずつ、修士課程に在籍した形になりました。進学を志したときから、数ある選択肢に悩み。これまでの反省も踏まえて「もっと事前に心がけておけばよかったかも」と感じた部分をまとめてみたいと思います。

きっかけ・経緯

昨今の情勢で、物価高、円安、高まる授業料…。一口に海外大学院といっても、けっこう悩まれる方が多いのではと。奨学金に受かれば負担は軽いですが、そうでない場合は不安が付きものです。その上あまりある選択肢の中から、進学先をどう選定すべきか? プログラム内容はどうなんだろう、リサーチテーマはどうしたらいいか、現地国での生活とフィットするだろうか…。考えるだけでも、相当な要因で悩むことと思います。

そんな中、コスパの良さの面で、欧州圏の大学院がしばしば注目されます。ただメジャーな北米・イギリス・オセアニア等と比べて情報が少ないのかも?と思い。私も悩み続けた結果、紆余曲折を経てイタリア・ベルギーという非英語圏の院にたどり着いたことから、今さまざまな候補地を考えている方にとってのひとつの参考になれば…と思い書いてみます。

▪️大学院の雰囲気を感じ取る。

まずは、気になったところのリサーチから。お世話になっている教授や先輩におすすめを聞いたり、公式ホームページを読み込んだり…。

インターネット上でだいたいの情報は得られるが、「実際の様子」はどうなのか? ここが最初の引っかかりではないでしょうか。国内ならまだしも海外だと、気軽に事前調査に行けるわけもなく。どうしたらいいか。

私が思うには、その大学院プログラムの「雰囲気」を曲がりなりにも、どうにかして読み取ることです。例えば公式サイトを見ていて、何か足りないものはないか?本来書かれるべきものが、載っていなかったら?…… 講義のシラバスは徹底しているか、各講義を担当する講師のプロフィールは公開されているか。彼らの経歴(LinkedInとかで調べてもいい)は、その講義を全うするのにふさわしく、真に納得できる時間を学生たちにもたらしてくれそうだろうか?

プログラムを担当する責任者(head coordinator)は明確か? どのような人物か? ひとりか、二人以上いるか? Youtubeの公式チャンネルに載っているプログラム紹介動画で、そのコーディネーターは顔を見せているか? どのような話し振りか? excitedな様子が伝わってくるだろうか? 複数人だった場合、彼/彼女ら同士の掛け合いは、良さげな連帯感を感じさせるだろうか?

また不明確な点、あるいは自分がもっと知りたいと思う点を、メールで問い合わせてみる。返事は明確かつ論理的で、納得感を十分に感じさせる内容/文体だろうか?

…以上、オンラインだけでもそこそこ判別できる要素はあります。というのも、上記に掲げたのはほぼ実体験で「あ、地雷だな」と感じたのが、実際に割とその通りだったからです。

公式HPの講義シラバスの作りが粗い → 入学後、教員不足で実際に開講されなかった。
教授の経歴と講義内容が見合っているか → プロフィール上、高齢な人で何十年も同じメディア学部に所属。かなり古い文献を読まされ、現代テクノロジーの議論やリテラシーがほとんど無かった。
Youtubeの紹介動画の話し振り → 顔を出さずに淡々と説明口調のコーディネーターは、実際に入学後もほとんど存在感を示さなかった(内容・質も微妙)。対してペアで意気投合した雰囲気の二人のコーディネーターは学生との関わりも活発で、(教員同士の連携がスムーズなことから)プログラムとしての統合性もしっかり取れていた。
メールの返事 → 質問した内容に明確に答えず、一文しか返ってこなかったコーディネーターのプログラムは、文字通り実際に雑だった。一方で、納得感の得られる回答を丁寧に返事したコーディネーターのプログラムは、実際に質が高かった。

また、実際に通う/通った人に思い切ってコンタクトを取り、所感を聞いてみるのも手です。Xplane(海外大学院留学支援コミュニティ)のslackチャンネル、Twitterで大学院名を検索、Facebook で現地の学生グループに入ってみる、noteで体験談を探してみる…。それらしい人に見つかったら、直接メッセージを送ってみたり。返事が得られない/断られる可能性もありますが、やってみて損はないと思うので、相手方に迷惑がかからない範囲内で、試す価値は大いにあると思います。(※お礼は忘れずにしましょう!)

▪️「授業料」は授業以上の価値に払っている

大学院の選定において、授業料も大きく決め手となり得る要因です。特に奨学金に依らない場合はそうですね。特に大陸ヨーロッパ圏の国々を考える方は、気にされているのではないでしょうか。

ただこの授業料という概念が、少しトリッキーに感じます。私が社会科学出身という視点に限って言えば、ぶっちゃけ講義で得られるような大抵の情報は、他の媒体で既に得られる(と感じる)からです。

Courseraでは調査手法や理論ベースの知識を一流大学から得られるし、Udemyでは実践ベースのビジネスツール・デザインスキル等をいくらでも学べたり。Youtubeですら、質の良いビデオはそこそこ出揃っています。むしろ講義に大して時間や熱意をかけないアナログな教授と比較すると、分かりやすさの面でも入念に作り込まれた後者に旗が上がるケースが全然少なくないです。

オンラインの外部講座が、丸々大学院のコースで使われることもあります(例えば、私が受けたデジタル・マーケティング講座ではGoogleの認定コースがそっくり使われました)。

では、なぜ大学院に「授業料」を納めるのか? 大学院の「授業」ではなく「ネットワーク」を買っていると思うほうが、潔いのではと感じます。アカデミックな興味を共有し、関連業界・同様のキャリアを目指す人たちとつながれる、目的とするロールモデル像を見つけて励みにする、OG/OB訪問ができる。大学院名の固有名詞が銘じられた、そのブランド的環境を24時間365日活用できる権利が付与される、とも言えるでしょうか。

例えば「オックスフォード大学院の修士課程で調査をしているのですが」と言えば、内外問わずにそれなりの立場の人とも話をしやすくなりそうです。水戸黄門の印籠みたいな役割(?)でしょうか。大学院のreputation具合にも寄りますが、そこで「自分のモノにした」固有名詞をいかに活用するかが、「授業」以上の価値として問われるのではないでしょうか。

また余談ですが、授業料の低いところは、質も低い…という個人的な印象があります。北欧やドイツ等の国は実体験がないので分からないですが、私が経験した範囲内だと、授業料数十万円程度のプログラムでは、教員側のモチベーションが低く、カリキュラムの作り込み具合も甘いように感じました。熱意が強くて金銭的余裕さえあるのなら、高い買い物をするほうがベターではと思ってます。

▪️「ミクロなプログラム」から「マクロな街/都市」も意識する

ネットワークを買う…。ミクロで見れば大学院やそのプログラムですが、マクロで広く捉えれば「街」や「都市」がそうです。

人口規模は?どんな文化が根付いている?人生で年単位の期間を過ごすであろう、大学院のある街・都市も調べてみるといいと思います。というのは、現地の空気感と、アカデミックな雰囲気とが連動してることもあり。

例えばフライブルク(独)はグリーンシティとして環境科学が栄えたり、シカゴ(米)は大都市化の歴史から社会学が発達したり。(私見ですが)カトリック圏は「遅くて重い、感性的な」古典アートや建築が、プロテスタント圏は「速くて軽い、効率的な」金融やITテクノロジーを、それぞれ得手としているイメージがあります。

私個人の体験を話すと、ベルギーのルーヴェンという学生街がEUから近いため、メディア系統の学問をやってもGDPR(個人データ保護規則)だったり、新技術に対してのルールメイキングをどうするか的な話が目立つように感じます。実際授業でもEUのpolicy makeに携わっている人がゲストレクチャーで来ました。

それはそれで楽しかった反面、理論重視な環境下で、キャリア的な実践部分が弱く(米国発の新しいテクノロジーに懐疑的な空気があるような)。もっといろいろ試しながら学びたいんだけどな、、と落胆するところも。なので実務的に必要なスキル・経験は結局ほぼ独学で穴埋めする形となりました。

もうひとつ私が受かっていた進学先に、ミラノ(イタリア)のサクロ・クオーレ・カトリック大学とミラノ工科大学がありました。高額な授業料から断念してしまったりですが、SNSを見ると頻繁にデザイン系のイベントを世界各国からゲストを招いて開催しており、「行きたかったな、、!」と感じました。同系統のメディア・コミュニケーション分野とはいえ、リサーチ重視の前述大学院だと、ほぼこういう機会がなかったからです。

ミラノはファッションでも有名なように、「デザイン」へ注ぐプライド・熱意が
、街全体に漂う空気感
があります。世界中の優秀なデザイナー候補を惹きつける集積効果として働き、他の都市では作れない「何かの価値」を生み出している。大学院での実践的な追究にも、その空気感が丸ごと反映されているようです。そんな環境に1年、2年かけて自らのネットワークを構築していく…という目線も含めれば高額な「授業料」を払う価値があったのではないか。今でもそう考えることがあります。

その土地にOB・OGがおり、彼らが入った/創り上げた組織が、現地の企業や組織として「その国(土地)の社会」を構成している。ロンドンの大手メディア(BBCやロイター、Financial Times)はLSEやUCL卒とか、ミラノのデザイナー企業はポリテク(ミラノ工科大学)出身とか、ブリュッセルの欧州委員はルーヴェンでの元インターン生とか。街と大学はオーガニックな連動があり、ざっくりとでも「こんな生き方したい」願望が、その土地にある人のライフスタイル、組織文化、空気感がマッチしているか。ちょっと大げさかもしれませんが、そんな目線で見てもいいのかなと思います。

▪️雰囲気 (=空気感)が与える影響

少し被る話ですが、プログラム内の「雰囲気(=空気感)」があります。個人的にはモチベーションを保つ上でだいぶ影響を受けたため、重視したいポイントです。

例えば、他のコースメイトがどんな動機でやってきているか?講義の外でも、院生同士で自発的な議論が生まれているか? 学部生と違い、それなりのお金・時間をかけてまでわざわざ院に通うのは、ある分野への関心・興味があって、自発的に突き詰めてみたいことが、何かしらあるからだと思います。

学部で取り組んだアカデミックなことを、もっと磨いてみたい。社会人を何年かしたけれど、何かある部分で課題意識を感じ、突き詰めてみたい。似たような経験・キャリア感を抱き、共通のモチベーションに裏付けされた人たちで集ったプログラムは、自発的な交流が発生しやすく、実りある体験を得やすいと思います。

ただ、「とりあえずエスカレーター式に入ってきた人(正直そんなに深い興味がない)」と「2~3年でも実践に携わり、その業界特有の課題感を肌で体験してるような人」の混在具合が大きいと、だいぶギャップが生じて、プログラム全体の空気感が若干淀んでしまう気がします。(=やる気が徐々に失せていく)

人は、内在的な文脈が似ていれば似ているほど、親しみを自然と覚えます。相手に話しかけたくなり、雑談をしていたら、気がつくと議論し合っており…というサイクルが本来一番望ましいです。しかし、知的好奇心を互いに磨き合うというより「教授から与えられたワークを一緒にこなすだけ」の学部生的なマインドの延長線でプログラムの空気が支配されると、自主的なモチベが高くてやってきた人は多少とも落胆してしまうと思います。

私のケースだとメディア・コミュニケーション分野という幅広い枠組みなので、それなりにギャップを意識しました。自身のモチベーション的には、学生会議に参加してメディア報道を議論したり、国際機関で広報インターンをする中、「メディア(媒介)テクノロジーの構造が世の中を左右してる」という直感に至り。企業でも政治でも、あらゆる組織形態に影響を及ぼしそうな流れなため、多少ともまとまった知見を養っておきたい…的な思いがありました。

興味・関心が同系統だから、院生同士で話も盛り上がりそうかな…と期待していた割には、実際にそこまで話が合う人が少なかったり。食堂にいる際、話の中心になるのが家族とか旅行の話とかで「なんか違うな」と感じるときも。

コミュニケーション科学をひとつ取っても、社内コミュニケーション、PR・広報、ウェブマーケティング、心理学的手法、ソーシャルメディア分析、マスメディア、編集デザイン、etcと幅広いのもあるためか、プログラムとしての一体感が思ったより出なかった印象です。(特定の事象/課題に触れたいというよりは、流行りの業態でキャリア的に有利になるから来てるだけでは…的な感覚を正直受けてしまったり)

なので(完全にひとつの私見ですが)、ある学術分野の中でもさらに下位分野まで、ざっくりとでも深掘った興味対象を自覚できた上で、それをプログラムの内容と見比べた方がいいかもしれません。「流行り」の抽象的ワード(メディア、パブリック、インターナショナル、etc)を含んだ大枠プログラム名の場合、大学院側の経営的事情を暗に感じるケースもあるからです。新しさ・人気さを演出させて、できるだけ多くの国から留学生を入れ、国際性の指標を高めた上で大学ランキングも上げる…というような。少数精鋭でプログラムの質を根本的に意義深いものにする(ガチで通用する人材を育成)というよりかは、ブランド名で大規模経営的に人を集めて消費を拡充し、それらしい「雰囲気」でビジネスとして成り立てばいい、というややドライな印象を個人的に受けたりもします。

▪️長期的な自分像(キャリア)を思い描く

このようにいろいろ考える要因があるわけですが、最終的には何を決め手としたらいいのか? 大学時代の恩師に受けたアドバイスで、私が的を得ているなと思うのは、「30代、40代という自分がどうなっていたいか」を軸に据えることです。

中堅的な年代を想像し、そのキャリア/人生を実現させるために、修士や博士がどう役立てられるのか。候補となる大学院が適切な選択肢に見えるか。個別具体的にどんな企業・組織・研究機関に身を置くか等は決まっていなくても、ある程度「こうなっていたらいいな」というビジョンさえ部分的に思い浮かべることができたら、その姿を叶えてくれそうなところへ進むのがいいかと思います。

学費や生活費の高さを鑑みて、負担の軽い進学先にするか。あるいは先延ばしにするべきか。それとも今あるモチベーションを捨てずに、さっさと海外へ行ってしまうべきか。自分も相当悩みを繰り返してきましたが、もし直感で「良い!ワクワクする!」と強く感じさせられた先があれば、妥協せずにある程度の年数をかけてでも行く価値があるんじゃないかな、と思います。というのは、ちょっと疑問を感じさせたり、「向こうの顔が見えなくてなんかモヤモヤする」ような印象のところは、実際に行ってみても割とその通りだったりするからです。逆に直情的にここだ!と感じられた進学先・プログラムは、長いスパンで見ても価値ある出会い・考え方・ロールモデル等をもたらしてくれる可能性が見込めるので、大切にする価値があると思います。

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