心理的安全性と責任
チームの生産性を高める力学的要素として、Googleをはじめ、世界的なリーディングカンパニーがその重要性を説いている昨今。「心理的安全性」という言葉そのものは誰しもが一度は耳にしたことがあると思いますし、僕自身も、その重要性は切に感じていて、人事責任者として今の会社にジョインしてからも、その意味を説き続けています。
今回は、そんな心理的安全性に関して、日々のHRアクションとして僕がどう活用しているのか(最近の新しい取り組みとして始めたばかりなので、具体的な施策とかその結果みたいなのは「実践編」としてまた別で公開します)、また言葉そのものは非常に広義な意味で捉えられがちで、人によっては全く異なる解釈をしているということも散見されたので、その辺を中心にお話したいと思います。
心理的安全性とは
まずは、この言葉の正しい意味を改めてお伝えします。
一般的には「対人関係におけるリスクをとったとしても問題がない、という信念が共有されている状態」と定義がされています。要するに「これを言ったら怒られるかもしれない」とか「何となく自分の意見はずれていそうなので今回は発言は控えよう」などの場や関係に対する恐れ、不安を排除した状態のことを指します。
コンフリクトなき調和を大切にしたり、空気を読むというような従来の日本的発想とは対照的なものです。
例えば、事業戦略会議の場でプランAとB、どちらでいくべきかのディスカッションをしている時、自分以外の全員はプランAという意見だが、自分はプランBの方がより効果的だと考えていたとする。この時に、はっきりと自分の意見はBだ、ということを発信できるか、また周囲もその意見に対して否定的、批判的ではなく、フラットに聞くことができるか。
この問いに肯定的なチームは、心理的安全性が正しく醸成されている(心理的安全性が高いチーム)という評価ができ、コミュニケーションがより活発となり、多種多様な価値観がフラットに交錯し、新たなイノベーションが創出されるなどのシナジーがうまれる(=結果としてチームの生産性が上がる)と言われています。
よくある異なる解釈
①プライベート的な仲の良さ
イメージとしては、「大学のサークル」とか「飲み仲間」という概念に近いです。つまり、気心が知れていて、言い争いや喧嘩はほとんどなく、ツーカーのような関係性こそが心理的安全性がある状態だと解釈されるケースが多くあります。ビジネスシーンでも、例えば同期とかよく飲みに行ったりする仲間など公私における時間や苦楽を多く共有した人だと、それと同じような関係性になりがちで、実はなすべき議論がほとんどなされておらず、でも仲は良いから心理的安全性は高い、と解釈されがちです。
正しいイメージとしては、「甲子園で優勝を目指す野球部」とか「花園で優勝を目指すラグビーチーム」という概念に近いと思います。チームとして達成したい共通の目的、目標があり、その達成のために様々な能力や経験、価値観を持つ人がそこに集まり、時としてお互いの主義主張がぶつかり合うようなこともありますが、あくまでも共通化した目的達成のためであり、それをお互いに分かり合えている。こうした状態こそが心理的安全性の正しい解釈となります。
②信用・信頼・尊敬
職場の信頼、尊敬する上司なので、仮に上司の意見に賛成できないことがあっても、まずは黙って言う事を聞いてやってみよう。ということはよくあることかと思いますが、これも心理的安全性がある状態とは言えないと考えます。対人関係において、相手を信頼したり、敬意を持つことは非常に大切なことではありますが、だからといって自分の意見を言わない、言う事は何でも聞く、ということには符号しません。
③ルール化
心理的安全性を高めるために、「意見のある人は必ず発言をすること」「どのような意見が出ても批判否定しないこと」などのルールを作るケースがありますが、これも本来的な主旨とは異なり、誤った解釈と言えます。
端的にいえば、形式知ではなく暗黙知という事が心理的安全性を考える上での正しい解釈となります。
心理的安全性だけを高めれば万事OKなのか
上述してきたような心理的安全性に関する正しい解釈をしたうえで、なるほどではさっそく今の組織における各チームの心理的安全性の状態をサーベイでチェックして、各チームのそれをどう高めていくのか議論をしていこう、と思ったのですが、「心理的安全性という観点だけで議論を進めてチームの生産性は本当に上がるのか」という疑問が湧いてきました。
先の疑問に対する結論から言うと、チームで成し遂げるべき目標とそのうえで果たすべき責任という観点をセットで考えないと、そもそも心理的安全性を高めたところで正しく機能しないのではないか、と思うに至りました。言い換えると、責任が伴わずして心理的安全性だけが高い状態ではチームとしての生産性は上がらないのではないか、ということです。
そして、こうした僕の疑問に対して非常にシンプルに答えへと導いてくれる考え方に出会うことができましたので下記に紹介します。
ゾーンで捉える
見たことがある方も多いとは思いますが、それぞれのゾーンの解釈は以下のとおりです。
・ラーニングゾーン
緊張と調和のバランスがあります。また身の丈に対して多少の背伸びをしないと果たせないであろう大きさの責任があり、だからこその成長を実感できてやりがいがあります。正しい議論ができており、互いの存在、意見がチームをレバレッジしている状態です 。これが一番良い状態であり目指すべきゾーンとなります。
・コンフォートゾーン
不安がなく、居心地が良い状態です。ストレスはほとんどない一方で、組織的成長はなく、つまり従来の仕事をやればよいだけの状態を指します。チームとしてはイエローフラグであり、雑談が多く、他責の傾向が強くなるともいわれています。
まずは、チームで果たすべき役割・責任を再度見直し、チーム目標とそれに付随する個人目標をアジャストすることが望ましいです。また、場合によっては心理的安全性のあり方も見直した方がよいと考えます。責任を伴わない心理的安全性は、時として、「よくある異なる解釈」の①で紹介したようなプライベート的な仲の良さに変貌している可能性があるからです。
・不安ゾーン
やるべきことは積み重なっている一方で相談や議論ができず、ストレス過多で精神的にも不安定な状態です。チームとしてはイエローフラグであり、心と体への負担が大きく、バランスを崩してしまうこともあります。
心理的安全性のあり方を再度見直し、マネジメント権を持つミドルが率先して発言しやすい環境や雰囲気を醸成するなど解決へと動くことが望ましいと考えます。また、こうした時こそ「よくある異なる解釈」の③で紹介したようなルール化に走りがちですが、焦らずに自分自身のチームに対するスタンス、マインドから見直すことで暗黙知としての空気を醸成していくことが大切であると考えます。
・無関心ゾーン
お互いに興味・関心がなく、コミュニケーションも希薄な状態です。 また本来チームとして果たすべき成果に対しても放棄してしまっており、チームとしては極めて危険な状態と言えます。
こういう時はチーム内の当事者同士での解決を促すよりも、異動などによるチームの組み換えや、第3者が介入するなどして解決へと動くことが望ましいと考えます。
さいごに
弊社では、ここまで紹介してきた心理的安全性とチームが果たすべき責任という観点を用いて、HRと各部門の部長/VPが、自部門は今どういう状態で、どこにプロットされるのか、という現状把握のための議論を進めています。
また、他部門から見た時にどうか、という客観的な意見なども取り入れることで、より自部門の状況をメタ化でき、新たな気づきがあるなど、議論の仕方次第ではいかようにも活用できそうな期待はあります。
運用から得た学びは「実践編」として、また別の機会に共有をさせて頂ければと考えています。今回は「理論編」ということで、人によっては退屈な内容だったかもしれませんが、少しでも日々の組織開発に活かせるような学びに繋がっていたら幸いです。
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