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「カッパフィールド」#7

トンネルを抜けた電車は、田んぼの中を走っていた。田んぼの中にぽつりぽつりとみえる雑木林は水田に浮かぶ島みたいだ。
「なんかこの辺、ウチの近くに似てる」
見覚えのある景色を見てちょっとだけ安心した。

遠くには堤防らしきものがずっと続いている。そしてしばらく進むと緑の橋が見えてきた。
「ブチ見て、あの緑の橋!」
「かずちゃん、あの緑の橋っていつも散歩にいくとこにかかってる橋だワン」
「あの橋が見えたって事は、もうすぐ駅だよ。そこでこの電車から降りよう」

電車は踏み切りに差し掛かった。その時、踏み切りを待っている少女と一匹のワンコが一瞬見えた。
「あれ?あの女の子、私にそっくり!あのワンコもブチそっくり?!?」
「っていうか、あれってオレとかずちゃんじゃないワン?」
いったいどういう事なんだ?

踏み切りを過ぎればすぐに駅に着くはずなのに、電車は全く速度を落とす気配がない。
「この電車、駅に止まりそうにない感じだね。各駅停車じゃないのかな?」
「かずちゃん、カワタロウが電車を降りる時に何かするって言ってなかったワン?」
「もしかして、この葦の草笛を吹けばいいのかな?」
私は葦の草笛を思いっきり吹いた。

 ブッブーーーーーーーーーーーーーーー♪

カワタロウに言われたとおり、葦の草笛を吹いたにもかかわらず、電車は、全く速度を落とす気配がない。
その代わりに、電車の座席がいきなりポヨンポヨンしはじめた。座席がポヨンポヨンするせいで体が弾んでしまい、ちゃんと座っていられない。
ポヨンポヨンはどんどん激しくなっている。電車の天井にぶつかるんじゃないかというほど、飛び上がってしまう。
「ブチ、これってどういうこと?」
「オレにも全然分からないワン」

私はとりあえず、ブチと離ればなれにならないように、ブチをギュウッと抱きしめた。
天井に激突しそうなほど激しく弾かれた瞬間、電車の天井がパカッと開いた。
そして私とブチは、大空に大きくほっぽり出されてしまったのだ。

ヒューーーーーーーーーーーーーーーー

私とブチは、電車から大きく弾き飛ばされてしまった。大空に向かってどんどん高く飛んでいく。
「かずちゃん、オレたち飛んでるワン」
「一体どこまで飛ばされちゃうのかな?」
私とブチは雲を突き破ってさらに高く昇っていく。
「やったー、オレが一番高く飛べたワン。カエルくんバッタちゃん見たか!オレがナンバーワンだワン」

「ブチ、下に雲が見えるよ」
「本当だ。下に雲があるって何か変な感じだワン。空が逆になったみたいだワン」
ブチが言うように、雲よりも高い所に自分がいるなんて変な感じだ。雲の上の世界ってこんな感じなんだなぁ。カワタロウって、いつもこういうところにいるのかな?

雲の上には輝く太陽があるだけで、他には何もなかった。どこまでも青い世界が広がっている。
「限りなくブルーな世界だね、ブチ」

私とブチはまだまだ上昇を続けていた。昇っていくスピードはどんどん速くなっている感じがする。いったいどこまで飛んで行っちゃうんだろう?
「かずちゃん、下を見てワン!」
「大地が丸く見える。これって地球だよね。やっぱり地球って青いんだね!それにしても私たちこのまま宇宙に行っちゃうのかな?」
その時、ふと脳裏に不安がよぎった。
もしかして、私とブチは肉体と幽体が離れてしまったのかな。その場合ってどうなっちゃうのかな?
このままずーーーーーーっと、宇宙空間を漂い続けてるとか?!

「そんなのヤダーーーーーーーー!」

「かずちゃん、落ち着いてワン」

「ブチ、早くおうちに帰って、お母さんのおいしいごはん食べたい。それからふかふかのお布団で寝たい!」
「オレだってお気に入りの棒っきれをハムハムしたいし、お気に入りのボロ毛布に包まれて寝たいワン」

“あゝ地球に帰りたい。3次元の世界に戻りたい”

すると突然、私とブチは急下降をし始めた。それはそれは、もの凄いスピードで!
「ぎゃーーー!ブチ、助けてーーーーーー!」
「そんなこと言われても、どうにもならないワン」
あっと言う間にどんどん下に落ちていく。このままでは、大地に激突して、

「死んじゃうよーーーーー!」

「かずちゃん、このリュックのヒモ、今こそ使う時だワン」
「ブチ、それいいアイデアだよ!私はブチを抱っこしてて手が塞がってるから、ブチ、口を使ってこのヒモを引っ張ってくれる?そのあいだに、私が一生に一度のお願いをするから」
「分かったワン、じゃあヒモを引っ張るワンよ」

“どうかブチと私が無事に元に戻れますように!”

すると、次の瞬間、
バッサーーーという大きな音と共に、カッパの甲羅形リュックからパラシュートが広がった。
そして、私とブチの落下スピードはとても緩やかになった。
「このリュックの中身って、パラシュートだったのかー。カワタロウの奴、やりやがったな!」

パラシュートの操縦の仕方が、はじめのうちは慣れなくてとても大変だった。
「こんな事なら《かもめのジョナサン》を最後まで読んでおくべきだったな。そしたら旋回の仕方とか上手くできたかもしれない」
「かもめの飛び方とパラシュートは別だと思うワンよ、かずちゃん」

どんどん地面が近づいてきた。自分の住んでいる町が地図のように見える。
「あれって体育館っぽいな。あそこ小学校だ!隣りにお寺もある」
「ウチはどこワンか?」
「あの青い屋根んとこだよ、きっと」
「屋根にぽつんって見える点さ、ミケ姉さんだワン」
「ミケっていつも、屋根の上でお昼寝してるもんね。ブチ、よく気が付いたね」

「ミケーーーーー私たちここだよー」
「ミケ姉さーーーーーん、こっちみてワン!」

川の原っぱも見えて来た。あそこに着陸しよう!
初めてだけど上手く着地できるかな?
着地まで、

50メートル
40メートル
30メートル
20メートル
10メートル

無事に着地できると思いきや、このまま落下したら、土手の階段に激突しそうだ、やばい!
しかもその階段には、一人の女の子とワンコが一匹座っていた。
「危ないから、どいてーーーー」
「逃げてワン、逃げてワン」
「キャーーー、もうダメだ。ぶつかっちゃうよーーーーー」



がくっ
ぴくっ

「あっあれー?ここはどこ?私は誰?」

何で目の前に川があるんだ?
これって、もしかして三途の川じゃないよね?



「ワン、ワンワンッ」
「ブチも一緒だったんだね。ってことはここは?」

どうやら、いつも散歩に来ている川のようだ。
なぜか私は、土手の階段の所で眠ってしまったらしい。
「ヤバっ、すごくヨダレたらして寝てた。でも、なんで私、こんなとこで寝ちゃったんだろう???」

足がすごく冷たい。お気に入りのプーマのスニーカーがビチョビチョに濡れている。
「思い出した!」
昨日の大雨で原っぱが水浸しになっていたにも関わらず、ブチが原っぱに飛び出していったせいだ。
「ブチのせいで、スニーカーがビチョビチョになっちゃったじゃん。ブチ、もう帰るよ!」

ブチがどこからか、フランクフルトのようなものを咥えて走ってきた。
そして、そのフランクフルトのようなものを私の足元に置いた。
「ワン、ワンワン、ワン」
???
これで遊ぼうって事かな?
よく見るとフランクフルトのようなものは、ガマの穂だった。
私はそのガマの穂を拾い上げ、遠くに投げた。するとブチは怒っているみたいにワンワン吠えた。
そして、そのガマの穂を慌てて取りにいった。
そしてそれから、ブチはそのガマの穂を大事そうにずっと咥えている。
やっぱり犬の考えていることは、よく分からない。

「さあ、おうちに帰るよブチ」
家に向かって帰ろうと歩き出した瞬間、足に何かがぶつかった。

カラン カランカラン

どうやら、落ちていた空き缶を蹴ってしまったようだ。
「誰だ?こんな所に空き缶捨てたのは!カッパに見つかったら怒られるぞ。なんてね」
私は空き缶を拾った。近くにある公園のゴミ箱に捨てて帰ろう。

ブチは相変わらずガマの穂を大事そうに咥えている。
「そういえば、ガマの穂のフランクフルトみたいな部分って一体何なんだろう?」

???

!!!

「そうだ、これだ!」

夏休みの自由研究は、ガマの穂について調べることに決めた。そうと決まれば、今日の午後にでも早速図書館に行って調べてみようっと。
「ブチのおかげで夏休みの自由研究を何にするか決まったよ、ありがとうブチ」
そう言うと、ブチはガマの穂を下に置いた。
「ワン、ワンワン」
ブチの鳴き方がとても嬉しそうだった。
そしてそのガマの穂は、夏休みの自由研究の大事な資料として私が持って帰ることにした。

朝散歩に出た時は、空は曇っていたけれど、いつの間にか青空が広がっていた。
夏休みの初めの頃に比べると空が高く感じる。

今日の空にはいろんな雲があった。夏の雲と秋の雲といろんな形の雲がいっぱい。
「ブチ見て、あの雲の形おもしろいよ!なんか雨ガッパを着た子が手を振ってるみたい」
ブチはワンと鳴く代わりに、しっぽをブンブン振っていた。
まるでその雲に手を振るみたいに。









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