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#8 ラオス、バイク旅、徒然なるままに

バンコクのスクンビット。
僕は、白人が集まるバービアで、シンハービールを片手に
アメリカンフットボールの試合を観戦していた。

BTSナナ駅からアソーク駅周辺は、日本人をはじめ外国人旅行者が集まってきます。
白人が集まるバーならアメフトも観れるだろう。と踏んだ僕は、まんまとベストポジションをゲットし観戦し始めました。

今日の目玉であるアメフトの決勝戦スーパーボウルは、
ほぼ試合が決まってしまい、残り20分近くを残しながらも
観客のほとんどはもう試合を見ていない状況でした。

実際、僕も苦手なビールが半分以上残っている状態で、
Google mapを開いて次の移動先を考えていました。

バンコクに滞在して早数日。
都会の喧騒に当てられ、少し落ち着いたところに行きたいと考えていました。
無難に海沿いの街かなー、なんて考えていると肩をちょんちょんと叩かれました。

『Hey~、一緒に座ってもいいかな?』
黒髪をポニーテールにしたタイ人女性が話しかけてきた。

「いや、ごめん。そんな気分じゃ...」
この界隈は夜の街でもあり、この時期は日本人観光客が少なく、昼にもかかわらず営業で声をかけてきたわけだ。

『いーよいーよ、暇だし。あなたが地図見てたから気になっただけ』
彼女は僕の断りをさらりとかわし、隣の席に腰かけた。

『どこか行くの?』
僕のスマホをぐいっとのぞき込み訊ねてきた。

「海沿いがいいかなーって。ホアヒンとかトラートとか落ち着いたところ」

『ふーん。海好きなんだー』
僕はホアヒンとトラートどっちがいいかな。とリサーチしていた。

『私も海好きだな。私の地元ナコーンパノムで海が遠いから』

「ナコーンパノムってバンコクの隣でしょ?そんな遠くないじゃん」
バンコクから車で50分くらいの隣県。なにいってるんだという感じで言い返した。

『ははは(笑)それはナコーンパム。私の地元は”ナコーンパム”!』
大げさに笑った彼女。僕からスマホを奪い取り、検索し始めた。

『ここだよ、イサーンなんだ。川の向こうはラオスだよ』
Google mapの画面をポンポンと叩き、説明を始めた。

『ここはあなたが言うような静かなところだよ(笑)何もないけどね』
タイ東北部イサーン地方のナコーンパノムか。初めて聞いた街だし、静かなところというフレーズに惹かれた。
さっそくAir Asiaで片道を調べると、Promotion約2500円で3時間後の出発便が空いていた。
僕は彼女に言う前に予約を済ませていた。

「アドバイスありがとう。」
ハッピーアワーのビール代60Bと彼女に100Bを渡してバーを出る。

『ちょっと!』
彼女の言葉を振り切り、僕はドンムアン空港に向かった。

ナコーンパノム対岸の街タケークへ

ナコーンパノムに到着して、さっそくまずいことになった。
ナコーンパノム空港に到着し、泊まれるところを探したが、
電話をしても『Full』の回答。なぜかすべて満室で途方に暮れていた。

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ナコーンパノム中心地のホテルが軒並み全滅で、なんとか10kmほど離れた郊外の1泊約1,000円のモーテルが確保できました。
このモーテルも今日の1泊のみで、明日からの宿確保が危ぶまれている状況でした。
困ったなー。と地図を見ていると街の川向こうにタケークの文字。

タケークはどうだろう。と検索してみると、多くのホテルが空いている状況でした。
ラオス側タイ国境の街タケーク。しょうがない、行くか。
バンコクで出会った彼女の地元ナコーンパノムはわずか一日の滞在で終了した。

タイ国境の街タケーク

縦に細長いラオスのウエスト辺り、キュッとしたところがタケークだ。
街中にはフランス植民地時代の建物が多く残る他、ベトナムとタイを結ぶ交通の要所としても有名だ。
タケークから東に約130km、山を越えるとベトナムとの国境が見える。
タイとの間には2011年に第3タイ・ラオス友好橋が架けられ、外国人でも国境を超えることが可能になった。
以前は船での越境のみだったそうだ。

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(※国境は2種類あり、外国人も利用できる国際国境と現地民のみ利用できる二国間国境があります)

僕は、タケークでは文字通り、何もしませんでした(笑)
朝起きて、街角にあるオープンカフェに入り、コーヒーを注文。
ホテルにある旅人が置いていった小説を読みながら、バケットをかじる。
何杯目かのコーヒーのあと、夕方のメコン川の川沿いを散歩して、ホテルに戻る。
次の日、同じカフェに通い、店員さんと『今日はどうする?』のやりとり。
こんな毎日を過ごしていました。

ラオスではフランス文化が残っており、街にはコーヒーのおいしいカフェやバケットを売っているお店が多くあります。
ただ物価はラオス対応で、低価格・高品質のコーヒーが楽しめました。

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(夕方のメコン川。右側の対岸がタイのナコーンパノムです)

この時期は、旅行者も少なく、カフェには僕一人という状況も多くありました。
同じカフェに通い始めて数日、オーナーらしき女性に話しかけられました。

『旅行で来てるの?』

「えぇ、まぁそんな感じです」
読みかけの小説の続きが気になり、そっけなく答えてしまった。

『毎日来てくれてありがとうね。でも本読んでるだけ?』

「静かなところでゆっくりしに来たんです」

彼女はふーん。という感じで、詮索はしませんでした。
とはいえ、この街の付近、もとよりラオス中部のことは何も知らない状況でした。

「この街、この辺りって何があるんですか?」

『なーんにもないよ。静かな街。』
予想通りの回答が返ってきた。

『本読み終わったら、バイクで街の郊外に散策に行けば?』

「バイクですか」

『毎日、本を読むだけより健康的でしょ。知り合い紹介してあげる』
親切心からか、毎日来るアジア人を不審に思ったのか、僕は彼女の提案に乗ることにした。

ラオス、バイク旅

タケークの郊外は、日本では見ることができないような光景でした。
一面は田園地帯で、遠くにはベトナムを隔てる山々。
中国寄りのアジアで見られる小高い丘は、一瞬で海外にいることを思い出せてくれます。

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郊外に出ると、商店はおろか民家も見えなくなりました。
行けるところまで行こうかな。と僕は東に進路を取り、走り出しました。
行けば行くほど人家ある雰囲気は消えていき、気づけは峠を2つほど超えていました。

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さすがに暑いし、水が飲みたいな。と思い、次の商店があったら入ろうと考えていました。

さらに走ること40分くらい、先の方にポツンと茶色い小屋が見えました。
近づくと、お店の様相。やっと買えるわ。と目の前にバイクを停めました。
こんにちはー。と入ると、お店の人は見当たらず無人でした。
さすがに無断では買えないわな。と思っていると、
奥からピョコっと女学生が出てきました。

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「水買えます?」
と聞くと、コクリと頷き手渡してくれました。

どうやら店番を頼まれているようで、彼女は会計が終わると勉強をし始めました。
ここの学生はたくましいな。と自分の堕落した学生時代と比べながら、
僕はバイクの隣で汗をぬぐいながら水を飲んでいました。

すると、女学生が近づいて、店の中を指さしました。
外じゃなく中で飲め。と気を使ってくれました。
申し訳ないなと思いつつ、ありがてぇとお邪魔させてもらうことにしました。

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女学生はかなりシャイだったらしく、しばらくするといろいろと話してくれました。
学校では英語を勉強しているらしく、英語でやり取りしてくれました。

「いつも一人で店番してるの?」

『いえ、いつもはお母さん。今日は特別なんです』

そのあとは、いろいろ学校のことなんかを教えてくれました。
数学が苦手らしく今日は友達と勉強する予定なんだとか。

「今バイクで旅してるんだけど、おすすめの場所とかあるかな?」
彼女はだいぶ困った様子で悩み始めた。
ちょっと酷な質問だったかと反省していると、彼女は社会の教科書らしきものを取り出してきた。

『南の方にラオスの世界遺産があるんです』
社会の教科書の記事を指さしながら教えてくれた。
教科書はラオス語で全く読めなかった。

「へーそうなんだ。なんて街なの?」

『えーと、Pakse
教科書を読みながら答えてくれた。

パクセーか。
僕は彼女にお礼を告げ、南に進路を取った。

ラオス南部、世界遺産がある街パクセーへ

ラオス南部の街、パクセー。
ラオス国内ではサワンナケートと並んで第二の都市と言われている。
現在は、近くにパクセー・ジャパン日系中小企業専用経済特区が設けられ、
日系企業の進出が著しい街だ。

パクセーの街はタケークと比べるとかなり大きい。
とはいえ、バイクで20分も走れば田園地帯が広がる田舎町。

僕はそんなパクセーの中心地辺りのホテルに滞在していました。
そこからの夕焼けは美しく、夕方はベランダに出て眺めていました。

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街の中心地から南に1時間くらい進むと世界遺産ワット・プーがあります。
ワット・プーはクメール人に建てられた建物で、元々はお城だったらしいが寺院として扱われたとのこと。
ワット・プーは小高い丘になっており、その丘から望む景色は格別でした。

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ただ世界遺産というのは一日あれば十分で、僕は相変わらずカフェでだらだらする生活をパクセーでも続けていました。

出会い、そして次の旅へ

パクセーに滞在して、数日。
僕はラオスを後にしなければいけなくなった。
金がないのだ。

酒もたばこもしない。
いかに安く旅をするかにこだわる僕は、ホテルも厳選しています。
ただ食事にはしっかりとお金をかける旅をしています。
ラオスキープとタイバーツが使えるラオスでは、その2つの貨幣でやりくりをしていました。
ホテルの受付に今日の宿代を払おうと財布を開けると、
そこには700B(約2,100円)しか残っていませんでした。

今日泊ってしまうと、ホテル代の400Bを支払い、残金は300B(約900円)ほど。
僕のクレジットカードはラオスでは非対応でした。
そろそろタイに戻るか。
僕はおばちゃんにチェックアウトを告げました。

パクセーからタイ国境へはバスで1時間ほどの道のり。
国境からさらに40分ほど走ると、タイの街ウボンラーチャタニーがあります。

パクセーからの国境バスは、僕を含めて10人ほど。
いつもすんなりいく越境は、タイ国境で足止めを食っていました。
どうやら麻薬密輸の検査か容疑かで、隅々まで調べられていました。
僕たちはバスの外で、検査が終わるのを待っていました。

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早く終わらないかなーと待っていると、男性に日本語で声をかけられました。

『日本人ですか?』
サバイバルハットに上下緑のアウトドアウェア。

「そうですよ。こんなところで日本人に会うとは思いませんでした」
『私もですよ(笑)』

同じバスに乗っていた我々は、自分たちの荷物が調べられるのを眺めていた。

『私の荷物あれなんですよ』
かなり大きい緑色のリュックを指さした。

「いやー大きいですね。長く旅してるんですか?」

『いえいえ、あの中身 ”石” なんです』
意外な答えにかなり驚いた。
どうやら彼は石を売り歩き、商談でパクセーにいたらしい。

『この石がすごくてですね!実は~』
その石の説明をしてくれた。あまり覚えていないが水を浄化する機能を持っているらしい。

『国境を超えた後はどこに行くんですか?』

「ノープランなんですよねー」
ふーん。という反応の彼は続けた。

『だったら私と一緒にバンコク行きますか?』

意外なお誘いだった。まだ彼の名前も、何もしらない。
ただ、何か面白そうなことが待っていそうな気がした。
僕はバンコク行きを決めた。


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