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NY留学90’Sストーリーその10

日本では学業やビジネスの1年の始まりは4月ですが、アメリカは学業に限っていえば9月からスタートです。新入生もやって来れば、長い休みの間に旅をしたり、どこかでバイトをしたりしていた上級生達もキャンパスに帰って来ます。留学生だけでシーンとしていた夏がまるで噓の様に、とても賑やかで活気が溢れています。

僕は寮の部屋はずっと一人でしたが、アメリカ人のロブというルームメイトがやって来ました。彼は僕より2歳年上で学年でいえば4年生のシニアで今年で卒業です。(アメリカの大学はフレッシュマン・1年生、ソフォモア・2年生、ジュニア・3年生、シニア・4年生、という呼び名がある。)しかし、ひとつ問題がありました。僕は当時喫煙者で部屋でタバコを吸っていました。彼はタバコが大嫌いでした。タバコは外に出て吸うか、あるいは違う部屋に移ってくれ、と言われました。今では室内禁煙は当たり前の事ですが、当時はまだバーでもレストランでも普通にタバコが吸えた、喫煙者の方が多かった時代です。どうしようか、一瞬迷いましたが、せっかくアメリカ人のルームメートと巡り合ったのにこの機会を失うべきではない、と思い、タバコは外で吸う事にして、彼との共同生活が始まりました。

最初の夜にロブは僕に訊きました。「日本の家族が恋しいかい?」僕は答えました。「いや、まだ2か月ぐらしか経ってないから、そんなに。」すると彼は言いました。「じゃあ今から2世紀ぐらい経てば君はようやく家族を恋しいと思うのかい?」これは一本取られたと思いました。君が何かを恋しいと思う基準はあくまでもどれだけ時間が経ったかという事で測られるんだね、という訳です。僕は、ハハハと笑い始めました。彼も笑い始めて、「僕が言った事わかるかい?」と言ったので、僕は頷いて、しばらく二人で笑っていました。(続く)

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