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NY留学90’Sストーリーその14

12月になって冬休みが始まりました。正規の学生達は各々実家に帰っていき、また留学生だけがキャンパスに残されました。僕は同じ歳の日本から来たタカシ君や2才年下のヒロシとよくつるんでいました。ある日カフェテリアで2人が訊いてきました。「カズは大晦日どうするの?」僕はシティーのライブミュージック付きのレストランでカウントダウンをしようと思っている事を伝えました。「ああ、いいね!オレ達も一緒に行っていい?」「いいけど、乾杯シャンペン付きで1人100ドルだよ。」「いいよ!」

とういう事で大晦日の当日、僕達3人は寒空の下電車に乗ってシティーに繰り出しました。他の乗客もパーティームードではしゃいでいて車内はとても賑やかです。シティーに着いてウエストサイドの21丁目のレストランの前に行くとすでに列が出来ていました。僕らも並んで待っていました。すると黒人の男が近づいてきて言いました。「おい、お前らチケット買わないか?オレ達も行く予定だったんだけど、急に用事が出来てしまって。丁度3枚あるんだ。一枚100ドルのところ90ドルずづでいいぞ。」僕達は顔を見合わせて一瞬考えましたが、10ドル安いのならその方がいい、という事でその男からチケットを購入しました。

さあいよいよ入り口に到達してドアの前に立っている係の男にチケットを見せました。彼は怪訝な顔をして、「おい、これどこで手に入れたんだ?」僕はドキッとして適当に「タワーレコード」と噓をつきました。「だめだ、これは偽物だ、中に入れる訳にはいかない。」まんまとさっきの男に騙されてしまいました。あいつはどこだ?辺りを見回すとその男がまだいました。「おい!お前ちょっと待て!」僕らは彼を追いかけました。しかし、キーッと映画の様に車が現れ彼はそれに飛び乗って逃げられてしまいました。

「くそー!」と悔しがっても後の祭り。貧乏学生の僕達にはもう100ドル出して中に入る余裕はありません。僕は気を取り直して「よーし、こうなったらブリーカーストリートまで下りて、無料で入れるバーで飲もう!」と提案しました。運よくバーカウンターに3つ程席が空いていました。僕らはそこを陣取り、がぶがぶ飲み始めました。無事カウントダウンも終わり、みんないい気分です。バーの奥の方でローリング・ストーンズのカバーバンドが演奏していました。僕はコートを席に残してそこでずっと気持ちよく踊っていました。しばらくして席に戻ると二人の姿が見えない。おまけに僕のコートも無くなっている。僕はブルブル震えながら、外に二人を探しに行きましたが、どうしても見つからない。「もしかしたら先に帰ったのかな。でもなぜ?」僕はなんとかグランドセントラル駅までたどり着きましたが、まだ早朝で駅が開いていない。外で寝ているホームレスの人たちに紛れて始発を待ちました。

ようやく電車に乗り込み、ホッとした僕は眠りこけてしまいました。ハッと目を覚ますと一駅乗り過ごしていました。あわててその駅で飛び降り、また寒さをこらえて大学の寮まで歩きました。寮に入るといたいた二人が。コーヒーでも飲みながら談笑していました。「おお、カズ!無事だったか!」僕のコートもそこにありました。「無事だったか、じゃないよ!」二人は僕が奥で踊っているのを知らずに、僕を探してバーの外に出て、ぎりぎり最終電車に乗って帰ってきたらしい。「もう疲れた。寝る。」僕は自分の部屋のベッドに倒れ込みました。(続く)

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