読書感想文「起きたことは笑うしかない!」松倉 久幸 (著)

 期待せずに手に取った本がとんでもなく面白いことがある。これはそんな一冊。老人が過去を振り返ることが中心だから、どうしたって昔話になるし,懐古趣味っぽくなる。ただ,それだけじゃないんだ。抜群に面白い。笑いという人間だけが持ち得ている特殊な情緒反応を生業とする当事者でありながら,そのものを作り出す側ではない立場ゆえに,笑いとの距離感もある。そりゃあ,深くなる。
 松倉会長が,戦前と戦後の志ん生師匠を比較し「人が変わるんじゃない。もとからある別の面がはっきりと面に出たんです」という。生死の境でも人は笑いで自分を取り戻す,とも。そして,人間はつらいときこそ笑いを求める。笑いによって人が救われる,と語る。
 「へ〜,俺が胃がんになったか!」「これで人並みになれたな」と自分自身すら笑え,という松倉会長。いま,大河ドラマ「いだてん」をリアルタイムで眺めるとき,手元に置いておくべき一冊である,と断言しておこう。


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