読書感想文「本所おけら長屋」 畠山 健二 (著)
毒にも薬にもならない,ただただ眺めていられる話しがある。最近の時代劇だと,NHK「小吉の女房」,「大富豪同心」なんかがそう。安心して眺めていられる。この本もそんな一冊。
下町の長屋が常に舞台。通りを面した12世帯と大家が繰り広げる短編集なのだが,決まって飛び出した案件を,そっと片付ける役が,浪人・島田鉄斎。このお侍さんが,格好いい。問題は必ず解決する。しかし,大家をはじめ,その活躍を知る人はごく僅か。分をわきまえつつ,出しゃばることもない鉄斎。いいねぇ。
下町を生きる庶民の粋や心意気,そして了見を味わうことのできる本所おけら長屋。それぞれの短編では,会話が主なのでスイスイと進む一方で,情報量は多いから,じっくりと楽しめる。
シリーズ最新号が13巻。何を読もうか,と思った時に「おけら長屋」があったなと思い出せば,いつでも気楽にお江戸の世界へと飛び立てる。そう安心させてくれるシリーズの1冊目。この後,じっくり楽しませてもらえるな,の期待感である。
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