【#2000字のドラマ】矢島くんは、月と太陽に優しく微笑みかける。
「へぇ、若月さんって書道家の一家なんだ。だから、書道部なんだね」
「うん、普段モヤモヤしてる時とか、悩んだときとかは、筆を持って何か書いてると不思議と落ち着いてくるかな」
「いいね、そういうツールを持っているのって」
「矢島くんは、何かそういうのある?」
「そうだなぁ、俺は禊かな」
「みそぎ!?」
「そう、禊。うち神社でしょ?小さい頃から境内にある池みたいなところで禊しているんだ。身を清めるって感じかな。子供の頃は嫌だったけど、最近は気持ちを切り替えるのにすごくいいなぁって」
白装束で禊をしている矢島くんを想像してみる・・これはヤバい・・。きっとすごい色っぽい・・、鼻血出そう。
最近は、休み時間に、隣の席の矢島くんとこんな風に、何気ない雑談をするようになった。
矢島くんは、勉強もスポーツもできて、おまけに容姿端麗というハイスペック男子校生。
休み時間は、本を読んでいることも多く、ワイワイ友達と騒ぐタイプではない。
地味な私は当初、話しかけるのも恐れ多い存在だったけど、ひょんなことからお互い本好きということが分かったことから、ちょっとだけ・・ちょっとだけ・・仲良くなったような気がする・・!
「宗介!!日本史の教科書貸して!!」
ガラッと勢いよくドアを開けて入ってきたのは、隣のクラスの朝日奈くん。
矢島くんとは、中学校の同級生らしい。サッカー部で明るくて、キラキラしているイメージ。地味女の私とは対照的だなぁ・・今日も眩しい。
「はぁ、涼太。そろそろその忘れる癖なんとかしないとな」
矢島くんはため息をつきながらも、教科書をポンっと優しく朝日奈くんに渡した。
「わりぃって!今度なんか奢るからさ」
いつも二人はこんな感じだ。そんな二人の仲のいいやりとりを羨ましくも思っていた。
「あ、そうだ。二人にお願いがあるんだ。来月の七五三の時期、うちの神社でバイトしない?人手が足りなくてね・・。若月さんには、御朱印の方を、涼太には、子どもたちの案内をお願いしたいんだけどどうかな?」
「宗介の頼みじゃ断れないなぁ!任せとけよ!!」
と、朝日奈くんは即答・・。
「若月さんはどう?無理にとは言わないけど・・」
「・・大丈夫です!やらせて頂きます!」
奥手の私が大丈夫かなと、ちょっと不安だったけど・・。せっかく矢島くんともっとお近づきになれるチャンス!
「よかった。じゃあ来月よろしくお願いします」
*****************
「若月さん、次はこの御朱印帳お願いします」
「は・・はい!!」
巫女さんから次から次に渡される御朱印帳・・。私は、目が回りそうになりながらも、筆を走らせていた。
大変だったけど、まさか当たり前だと思っていた「書を書く」ということが活かせるなんて、思ってもいなかった。
「若月さんお疲れ様。お、さすが書道部!いい感じだね」
そこに矢島くんが現れた。水色の袴・・その姿に、ほーっと見惚れてしまう・・。しかも、今褒められた!?うぁ!めっちゃ嬉しい・・!!!
「あ・・ありがとう・・」
「涼太も頑張ってるね。さすが、子どもの相手うまいぁ」
境内の方で、あっちこっちと動き回る晴れ着姿子どもたちを上手に誘導している。
「そろそろお昼休みにしようか。涼太も呼んでくるね」
私は、奥の部屋に案内された。
******************
「ふぃ〜〜!!疲れた!!」
と、朝日奈くんはどっかりと和室に座り込んだ。矢島くんは、「バイトを引き受けてくれたお礼」と言って、私達のお昼を買いに行ってくれた。
朝日奈くんとは、正直あまり話したことがない・・どうしよう・・。
「若月さんの家って、書道一家なんでしょ?字うまくていーなー!」
「・・あ、うん・・そう」
急に話しかけられて、辿々しい答えになってしまった。
「うちなんかとーちゃんはスポーツジム勤務だし、かーちゃんはママさんバレー一筋だし、もう運動バカ一家なんだよ。体動かしているのが日常って感じ」
「・・そうなんだ。私、運動ニガテだから、羨ましいけどな」
「そうかなぁ・・!宗介ともよく中学校時代からサッカーのパス練付き合ってもらってたんだ。あいつスポーツも勉強もなんでもできるっしょ?でも、神社の手伝いがあるから帰宅部でさ。時々、無理矢理、連れ出してやってんだー」
矢島くんと朝比奈くん、二人の確立された世界があって・・。そこには入り込めない雰囲気になんだか・・チクっと心の痛みを感じた・・。
ヘヘッと柔らかく笑いながら矢島くんのことを話す朝日奈くん・・・。ん・・?あれ・・?もしかして・・???
「朝日奈くんって、もしかして矢島くんのこと・・・」
あ、ヤバい!声に出してた!!ハッと自分の口を手で覆う。
朝日奈くんは、ビックリした顔でこっちを見た。と、みるみる顔が真っ赤になっていって・・
「え・・!いや!!あの・・・!!えっと・・・宗介には言わないでくれると助かる!」
と、パチンと目の前で手を合わせて、ものすごい勢いでお願いされた。
「・・うん、分かった・・。言わないから大丈夫だよ・・」
再度、気まずい空気か漂った時、襖がスッと開いた。
「お昼買ってきたよ。ん?何かあった??」
私達の不穏な雰囲気を感じ取ったのか、矢島くんが不思議そうにこちらを見つめていた。
どうやらライバルの出現らしい。しかも、強力な・・。果たして私は二人の間に入り込めるのだろうか・・?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?