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(88) あなたをつくったのは?

消しゴムがチビて来た。
一年半使い続けている。
noteを書き始めた一年半前、百均で原稿用紙・鉛筆と共に買った、袋に入った複数の切り落とし消しゴムのまだその一個目だ。子どもの頃は、買ってまだ一ヶ月も経たないうちに消しゴムをよく失くしていた記憶なのに・・・。チビて来たけど、一年半お世話になった。

その消しゴム、私はカウンセリングの折に、”消しゴム”という言葉をクライアントによく使う。「消せるよ!」という場面で、過去の辛い出来事・過去そのもの・失敗・忘れたいことなどにである。
「えぇ?本当ですか?」
などと、クライアントに驚かれる。

人は「こんな私なんか」とよく口にする。決して良い意味で使われてはいない。自身をかなり値引いていて、卑下した表現なのが悲しい。その上、「こんな私」と言う時に、時間の流れの通過点に過ぎない”今”といった考え方がないことが悲しい。「これで決定」という訳でもなければ、「何とも手の施しようがない」訳でもないのに、「こんな私」と固定的にレッテルを貼ってしまっている。”消しゴム”と私が言うのはこんな時だ。

役者ではない私たちは、”自分の人生”を自分独自の”脚本”で生きる。もちろん主人公はあなた自身であり、誰かの”脚本”を演じる訳ではないのだ。不都合なら、思うように”脚本”をその都度書き替えたらいい。”脚本”は良し、としてそのように演じられないなら、どんな自分になればいいのか考えることが出来る。人は自由に自分の”脚本”で”自分の人生”を生きられる。「誤解・思い込み」さえなければ、ではあるが。

絵を描きたいと思った時、画用紙でもキャンバスでも好きなものに描けばいい。下書きなら気に入るまで”消しゴム”で消して描き直したらいいのだ。何度も色を塗り重ねて、好みの色や造形に仕上げたらどうだろう。何度でもやり直しは出来るのだ。”人生”も同じだ。「何を思うか・望むか」だけは大切である。

三十一歳、大手企業の受付、女性。
「こんな私をつくった両親のことを許せません」
が口癖で、毎回のカウンセリングで怒りに満ちた発言が続いた。半年、私は辛かったがそれを聞き続けた。

「消しましょう」
「消すって?どうしたらいいのですか?先生!そんなことが可能なんですか?」
「あなたは画家だとしましょう。依頼主・・・例えばあなたの両親から下描きを貰い、これに色を付けて絵を完成させてください、と依頼されたとしましょう。あなたは画家として、その下描きが気に入らなかったら、どうしますか?」
「はい、両親にこういう様に修正して描きますと告げて、私流に描き替えますね。そうでないと私らしい絵が描けませんから」
「そうそう、あなたにとって依頼を受けた絵とは言え、最後には画家としてサイン入れるわけですから当然あなたらしく描き替えて正解ですね」
「先生、この話の先、どうなるかわかる気がします」
「ご両親からこんな娘であって欲しいとの強い願いに沿って、あなたは生きなければならなかったのかも知れません。ほとんどの子どもたち、私も含めてですが、親から愛されたいから・・・そう生きてしまいますよね。しかし、一定の年齢になり、”自分の人生”をどうしようかと考える頃、あなたが先程言ったように、私流に人生脚本を描き替えるはずですよ。考えてみると、今のあなたをつくったのは、あなた自身なんですよ。両親のせいではありませんよね」

「その考え方、凄いですね。私、泣けてきました。そんなことも気がつかず勝手放題言いました。恥ずかしいです。本当に先生の考え方、凄いと思います」
”考え方”、ではありません。式を立て計算して解答を出しただけです。その解答のように思える人間でありたいと願っているだけですよ」
「先生、もう少しカウンセリングに通っても構いませんか?私、この秋結婚するんです。それまでにもう少し大きくなりたいんです」

昨年の秋、彼女は結婚、その後ご主人と二人で来所、今は二人を担当することとなった。彼女たちの面接は今も継続中である。


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