風川さんの日記

風のように、川のように、感じた思いは、とりとめなもなくささやかで、気づいた時にはそこに…

風川さんの日記

風のように、川のように、感じた思いは、とりとめなもなくささやかで、気づいた時にはそこにはない。 そんなささいな日常のできごとを綴っていきます。 風川さん 都内に住む30代の会社員。ほんとに実在するか、しないかは風のみぞしる。

最近の記事

せいてはことをしそんじる

2020年12月1日夕方 私はものすごく焦っていた。 この日、私は人生で初めてシナリオを応募しようと思っていた。 中学校の時、私を支えてえてくれた一本のドラマがあって、そのドラマの脚本家が審査員をやるシナリオのコンペがあるのを見つけて、それに向けて脚本を書きはじめた。 その募集を見つけたのは半年前だった。それから、たまに忘れては思い出して書いたり、また忘れては思い出して書いたりを繰り返していた。一人でコツコツ書くと言うよりは、一人でコソコソ書いているという感じだった。 人生

    • 鍋ぶたの取っ手

      2020年12月12日。 流しに鍋ぶたを置いた瞬間、取っ手がとれた。 大きいものから順に、耐久性ガラス、プラスッチック製の黒い取っ手、プラスチック製の黒いドーナツ型のもの、ネジ一本、銀色の輪っか。 その5つの部品で鍋ぶたは構成されている。 さっきまで付いていたのだから、簡単に直せるだろうと思った。 だって、耐久性ガラスを除けば、部品は4つ。 黒の取っ手部分は上に絶対つけるものだから、組み替えるのはたった3つ。 それなのに、全然上手くいかない。 あーでもないこーでもないを

      • 駅の階段から落ちた。

        2020年11月24日。 駅の階段から落ちた。 その直前まで、私はナチュラルハイ状態だった。 クライアントから来た突然のヘビーな修正、明日の打ち合わせに向けてのあれやこれや、明後日の締め切りの資料もまとめないと。 いつも1本の電話やメールで、スケジュールがグシャッと崩れてしまう。 やばい、でも、できる。ヤバイ、デモ、デキル!絶対に。 「できない」に気持ちが傾かないよう、私は全力で「できる」イメージだけに集中した。そうして、駅の中を歩いていると、 「あ、」と思った時には、

        • ビニール傘

          2019年10月15日。 突然のお天気雨。 慌てて走る私の前に一台の車が止まった。 突然、車を降りてきたその人は、ビニール傘を私にパッと手渡した。 「お店でもらったやつだから、気にしないで」 そういうと、その人はさっと自分の車に乗って行ってしまった。 あっという間のことで、ありがとうございます、というのが精一杯だった。 50歳くらいの女の人だった。 青年だったら恋が始まっていたかも…いや、それはないか。 突然すぎて、彼女の顔も薄っすら思い出せるくらいだし、 どこかで会っ

        せいてはことをしそんじる

          ベビーカステラが食べたくて

          2020年9月1日。 今年の夏は、コロナウィルスの影響でお祭りがなかった。 地方の新興住宅で育った私には、お祭りの屋台というのは非日常で特別な存在だった。夏の公園で開かれる地域の子供フェスティバルでも屋台はあった。それは、誰かのお父さんやお母さん達がボランティアでお店を出してくれて、ジュースやかき氷を売っている。とても温かい雰囲気で、優しかった。でも、子供ながらにそれでは物足りなかった。 熱気であふれ、ギラギラした生命力を感じる本物の屋台。 どぎつい色で、独特な字で書かれ

          ベビーカステラが食べたくて

          意地悪そうな人

          2018年8月3日。 今日も朝から暑い。 仕事の打ち合わせのため、駅に向かっていつもの道を歩いていた。 駅に向かう道は、私が毎日通る道であり、そこにはたまに出くわすっていうか、すれ違うっていうか、ただ通り過ぎるだけの人がけっこういる。 ヤマトの自転車宅配のおばさんや隣の笹谷の奥さんに会った時だけは、互いに声をかけて挨拶する。 それ以外の人は、ただ通り過ぎるだけ。 そんな中に、朝の時間に出かけるとたまにすれ違うおじさんがいる。 50才くらいでタンクトップ。そこから出た痩せっぽ

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