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ベビーカステラが食べたくて

2020年9月1日。
今年の夏は、コロナウィルスの影響でお祭りがなかった。

地方の新興住宅で育った私には、お祭りの屋台というのは非日常で特別な存在だった。夏の公園で開かれる地域の子供フェスティバルでも屋台はあった。それは、誰かのお父さんやお母さん達がボランティアでお店を出してくれて、ジュースやかき氷を売っている。とても温かい雰囲気で、優しかった。でも、子供ながらにそれでは物足りなかった。

熱気であふれ、ギラギラした生命力を感じる本物の屋台。
どぎつい色で、独特な字で書かれた看板。祭りがない日は一体何をしてるんだろう?と思わせる強面のおじさんが焼きそばを焼いたり、まごまごしていたら「早くしな!」と怒られそうなスーパーボールすくいのおばさん、かき氷を売る金髪のお兄さんやお姉さん。そんなやんちゃそうな大人たちに、手を伸ばしてお金を渡し、「おじょうちゃん、まいど!」と言われてドキドキする感じ。子供の私にとって、その神社のお祭りこそ年に一度やってくる夏の楽しみだった。だから、大人になっても祭りの屋台には特別な思い入れがある。

そうか、今年は祭りがないのか。そう思うと、ベビーカステラのことが頭から離れなくなった。祭りがないということは、ベビーカステラが食べられないじゃないか。私が祭りにおいて、こんなにもベビーカステラを大切に思ってたことを、自分でも初めて知った。

ベビーカステラは、屋台以外に売ってるいるか?いや、ない。
日常で、ベビーカステラになど出会ったことは、ない。

もしや?と思って、ネットで「ベビーカステラ 作り方」と検索した。
ネットには同じような気持ちの人がたくさんいて、いろんなベビーカステラの作り方を載せてくれている。なるほど、たこ焼き器で代用可能なのか。
たこ焼き器なら、家にある!私の気持ちは一気に上がった。

いつかの友人の結婚式の引き出物カタログで選んだ、たこ焼き器がこんなところで活躍するなんて。いきなり棚の奥から引っ張り出された、たこ焼き器もさぞかし驚いただろう。

作り方はとても簡単だった。
ホットケーキミックスに牛乳を入れて、卵を入れて、みりん?をいれて、ハチミツを入れて、後は焼くだけ。

たこ焼きのようにクルンとその場で回すのではなく、半円と半円をひっつけ丸にする。1回目は量を入れすぎ、しかも、ひっくり返すタイミングも失敗。かなり焦げた。1回目で上手くいくなんて思ってないです、おこがましい。
そして、2回目は、まあ、ちょっと上手くはなった。3回目、4回目で、まぁ、なんとかベビーカステラっぽいかな?というところまでにはなった。
そして、そこでベビーカステラの素が尽きた。

夜店のベビーカステラのように、ツルンぽてんとしたかわいい形ではない。
つぎはぎだらけでボコボコしているし、丸の形もなんだかいびつ。
まぁでも、大枠でいえば、ベビーカステラかなと思った。

一口食べると、味はベビーカステラ意外の何ものでもなかった。
『これこれ』と嬉しすぎて、笑った。出来立てだから、熱々で美味しかった。素朴な味がたまらなかった。私の祭りへの欲は、ちゃんと満たされた。

2020年夏、いつもの祭りはなかった。
でも、私の人生で初めて、ベビーカステラを作った。
2020年の夏はベビーカステラを作った夏として刻み込まれた。

それは、今までにない特別な夏だ。

お気に入りのカメラで、記念に写真を撮ってみた。
被写界深度浅くすれば、この不格好なベビーカステラでもちょっとはいい雰囲気でとれるんじゃないの?と思った。撮れた写真をみて、思わず笑った。
なんじゃこりゃと。

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