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泣きたい時に読む小説「知恵の実をかじる私」vol.4


前回のお話 ↓


第3章 試練の時


ある日の昼過ぎ、私のスマホが鳴った。相手は凛からだった。

「もしもし、ごめん。突然だけど、緊急事態なんだ」

ドタバタとした声の凛に、私は不安を覚える。何があったのか聞いてみると、父親が倒れて病院に運ばれたとのこと。

「大丈夫?具合は?」

「高熱が出て意識がないんだ。俺一人じゃどうしていいのか分からない」

パニックに陥った様子の凛に、私は駆けつけることを申し出た。

「わかった。今から病院に行くから。落ち着いて」

「ありがとう。本当に助かる」

凛の父親を心配し、私は病院へ急いだ。

病院に駆けつけると、凛が院内でうろうろしていた。私を見つけると、少し安心した表情で近づいてくる。

「ありがとう。本当に助かる」

「大丈夫よ。お父さん具合はどなの?」

凛に尋ねると、まだ高熱が下がらずに意識が戻っていないとのこと。医師からも病状が悪化する可能性を指摘されているという。

「私、付き添おうと思う」

私は自分でも驚くような事を口走った。

「うん、ありがたい。本当にどうしていいのか分からないんだ」

看病の申し出を受け入れた凛は、少し表情を和らげたように見えた。

その後、二人で病室に向かう。ベッドに横たわる凛のお父さんは思ったよりも痩せていた。

「最近は食事を抜くことが多かったんだ。体調を崩しやすかったんだと思う」

凛が情報を提供してくれる。私はお父さんの体温を測ったり、点滴の量を確認したりと、看病に努めた。

時折、会話を交わしながら看病を続けるうちに、徐々にお父さんの熱も下がってきた。

徐々に熱が下がってきたお父さんだったが、まだ意識が戻る気配はなかった。

「お父さん、大丈夫ですよ」

時折声をかけながら、私は凛とともに看病を続ける。疲れた様子の凛に代わり、定期的にお父さんの体温を測ったり、水分補給のため口腔ケアをしたりしていた。

「本当に助かった。ありがとう」

労いの言葉をかけてくる凛。その度に私の胸はドキドキとするのだった。

看病を続ける中で、二人の距離も自然と近づいていった。ふとした時、私は凛の手を握った。

「大丈夫。必ず目が覚めるから」

声をかける私に、凛は戸惑う様子だった。

2人でお父さんの看病を続けているうちに、次第に意識が戻ってきた。容態も安定してきた。

「ふぅ......よかった」

ホッと胸をなでおろす凛。私も安堵思いだった。

そして、看病を終えることになった。

それから数日後、退院の手続きを済ませ、お父さんは自宅で静養することになった。

「本当に感謝している。ありがとう、夏希」

「ううん。これからも体調に気を付けてあげて」

そう言葉を交わし、病院を後にする。



そして2人で歩いていると、私のスマホが鳴った。呼び出しを確認すると、旦那からだった。

「はい、どうしたの?」

とりあえず電話に出る。

「ごめんね、ちょっと用事が入ってたの。すぐに帰るから」

事情は詳しく話せない。ごまかす言葉を並べる。すると「そうか、わかった」と言う。変わらぬ口調だが、何となく罪悪感がよぎる。

「うん、じきに戻るわ」

そう伝えて電話を切ると、しばらく言葉が出なかった。凛が「大丈夫か」と声をかけてくる。

「うん......。でも家に戻らないと」

旦那からの突然の連絡に、私は戸惑いを隠せなかった。

「ごめんね、凛。わたしには家庭があるんだ」

「そうだな......。本当に助かったよ。ありがとう」

凛は寂しげな表情だったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

私も少し淋しい気持ちだったが、現実と向き合うしかない。これ以上、旦那を心配させることもできない。

「じゃ、行くね。体調管理はちゃんとしてあげてね」

「うん。また連絡するから」

そう言葉を交わし、2人はそれぞれの道を歩み出した。胸の内では、凛との思い出が蘇る度に、旦那や息子のことがよぎるのだった。



泣きたい時に読む小説「知恵の実をかじる私」vol.5 最終話
第4章 運命のはざまで へ続く…

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