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未来思考スイッチ#00 まえがき

私は30年に渡り、家電メーカーに勤めてきました。

メーカーには、開発、製造、販売、アフターサービスといった多くのプロセスや職種が存在します。一つの会社の中でも、バラエティに富んだ経験は可能で、ある時は技術戦略、ある時はマーケティング、またある時はブランド発信など、様々な機会を得て、私は力量以上の貴重な経験を積むことができました。

そんな私の専門は、『デザイン』です。

『デザイン』を軸足に仕事をしてきたわけですが、『デザイン』の概念は広く、製品の色・形・素材を差すこともあれば、使い勝手といった操作性について語ることもあり、サービスのデザインという領域も拡大しています。『デザイン』という言葉が至る所で使われるので、逆に「デザインの意味が分からない」という人もたくさんいます。昨今、「デザイン思考」、「デザイン経営」という複合用語も目にするようになり、更にわかりにくくなっているのかもしれません。

私の『デザイン』。
一言で表すなら、それは『未来思考』です。

「未来予測」と『未来思考』は考え方が全く異なります。「未来予測」とは、過去から現在までのデータで変化量を読み取りながら、その先を推定する手法のことです。つまり、過去から現在の中に、すでに未来があるという姿勢です。

ところが、『未来思考』はあるべき/ありたい未来の姿を描き、その実現方法を考えていくアプローチです。理想のくらしや社会が先にあるため、「未来予測」とは逆の流れになります。描いた未来の中に新しい現在を生み出すという姿勢と言えるでしょう。

時代は大きなうねりを持って、常に変化していきます。激動の時代、私たちに必要なのは「未来予測」ではなく、未来を引き寄せる力、『未来思考』ではないでしょうか。

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『未来思考』には、イマジネーション力が肝になります。

イマジネーション力とは、「理想を思いっきり想像して、物語にする力、ビジュアライズする力」と私は考えています。皆さんもご存知のスティーブン・スピルバーグ監督の映画、「バック・トゥ・ザ・フューチャー(1985年)」では、空飛ぶスケートボード、靴紐を自動で調整するスニーカー、身体にフィットするジャケットなど、ワクワクする未来像が描かれていました。

トム・クルーズ主演の「マイノリティ・リポート(2002年)」では、ジェスチャーによるコンピュータの操作、自動運転のクルマ、虹彩による個人認証の社会がリアリティのある姿で展開されました。

数十年前のSFが現実のものになってきたことを考えると、映画の体験を通じ、私たちはクリエイターが想像した世界を記憶として持ちながら、知らず知らずのうちにその未来を実現させているのではないかと思うほどです。描かれた未来が先にあり、私たちはそこに向かって行動しているのです。

私たちを動かしているもの、
それを「未来の記憶」と呼びます。

『未来思考』の一番のポイントは、この「未来の記憶」をつくることです。未来を信じれば、私たちは無意識の力でその実現に向かって動き始めることができます。見えなかった世界に気づき、未来と現実にギャップがあれば、「何かが違うぞ」と気持ち悪くなって、人は理想に向かって行動を変え始めます。

行動を促す「未来の記憶」には、その未来が当たり前だと感じるほどの力強さが必要となりますから、無意識まで浸透させる物語性とビジュアル性がとても大切になるのです。

ビジネスを取り巻く「越境」という世界・・・

例えば、社会には業界と呼ばれる固有の領域があります。インフラ業界、自動車業界、不動産業界、小売業界、IT業界など、同じ産業に携わる人々の集合です。私は家電メーカーに勤めていますので、家電業界に属していることになります。昔はソニー、東芝などの同業他社としのぎを削っていましたが、今では異業種がライバルになるケースが増えています。自動車メーカーがエアコンをつくる、食品会社が調理家電を製造・販売するなど、業界の垣根は崩れ、すべての他社がライバルになる時代なのです。つまり、「業界越境」が起こっています。

更に、空間設計スキルとプログラミングスキルを融合させ、新しい舞台演出を創造する人。生物学の知見と街づくりのノウハウを組み合わせて、自然災害に強いコミュニティをデザインする人。このように得意分野の掛け算で新たな価値を生み出す人達が増えています。これを「専門越境」と私は呼んでいます。

また、これまでのビジネスでは、商品企画、設計、生産、流通、販売、アフターサービスなど、プロセス単位で役割を明確化し分業してきましたが、オンラインの時代では、メーカーが商品を顧客に直接販売する「中抜き」や、商品企画と販売(資金調達)が直結する「クラウドファンディング」、在庫管理から販売、物流までを一括して任せる「フルフィルメントサービス」など、ビジネスを加速する環境が数多く登場しています。まさに他の部門を領空侵犯する「役割越境」と言えるでしょう。

「業界越境」、「専門越境」、「役割越境」。デジタル化、グローバル化の後押しもあって、私たちの身の回りで起きているビジネスは、まるで無差別級・異種格闘技戦のようです。すべてが入り混じった世界での「未来予測」は極めて難しく、そのためにも「未来思考」を私たちの行動にインストールする必要があると思うのです。

そんな『未来思考』に決まったセオリーはあるのでしょうか。

実のところ、私にはわかりません。しかし、私は常に『未来思考』を意識しながら、これまでの仕事を進めてきました。住むだけで健康になる住宅、CO2を排出しない暮らし方、一輪挿しのように音を飾る新しい空間、珈琲を自分流に焙煎できる商品とその珈琲を流通できるコミュニティ、人生を輝かせる快眠システム、工場跡地などの遊休地の活用法など、特定の分野にこだわらずに『未来思考』で取り組み、メーカーが「モノを売る前に、夢を売る」ことをずっと考えてきたのです。その過程で生み出した様々な想像法が、いつも私に『未来思考』のスイッチを入れてくれました。

そんな想像法をこれから少しずつ紹介していきたいと思います。

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