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DSMという会社

はじめまして。オランダのサイエンス企業 Royal DSM の日本法人代表をつとめる丸山と申します。このたびnoteをはじめることになりました。

といっても、DSMなんて会社、日本の皆さんはご存じないですよね。ということで、今回はDSMという会社について少しご紹介させていただきたいと思います。

そもそも、DSMって何の略?

答:Dutch State Mines(オランダ石炭公社)です。

今から約120年前、1902年にオランダ南部のヘールレン(Heerlen)という田舎町に作られた、オランダの国営炭鉱が会社のルーツです。今でも本社ビルはかつての炭鉱の真上に立っていて、(地下に空洞があるので)最近建物が2mm傾いたとか、まことしやかに噂されたりしています(本当かどうかは未確認)。

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当時産業の少なかったオランダ南部に事業を起こし、産業振興に不可欠な蒸気機関の燃料を国産化するために作られたDSMですが、1900年代半ばにはオランダ産石炭は競争力を失ってしまいます。一方、社会の近代化に伴い、プラスチックなどの化学製品が広く求められるように。産業の近代化という当時の社会課題に応えるべく、DSMは炭鉱を閉山し、石油化学コンビナートの運営に乗り出しました。

その後2000年頃には、中東諸国や中国などの新興国がより大規模な石油化学コンビナートの運営を始めるようになります。そこで、当時のDSM経営陣は真剣に考えました。このままオランダで石油化学会社を続けていることが、会社のためにも、社会のためにも最も良いことなのだろうか?

結論はNoでした。DSMは売上の大半を占める石油化学事業をサウジアラビアの会社に売却する一方、当時オランダ最大のバイオテック企業と、スイスの大手製薬会社ロシュのビタミン事業を買収。それが、DSMという会社のもつ能力(ケイパビリティ)を社会的課題の解決に使うための最善手だという、思い切った判断でした。

日本にも100年以上続く老舗企業はたくさんありますが、社会課題の変化に合わせてこれほど大胆に事業ポートフォリオを変えてきた企業はあまりみないように思います。ヨーロッパ人ならではの合理性と社会性がなせる業なのかもしれません。

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それからさらに10年以上を経て、現在のDSMは、「栄養、健康、サステナブルな暮らし」の分野において、ビタミン等の微量栄養素をはじめとする食品や化粧品・動物飼料用原料、自動車や電気電子製品などに用いられる高機能材料などの事業を展開するグローバルサイエンス企業に成長しました。売上高は約80億ユーロ(2020年)、全世界の従業員数は2万人を超え、売上の65%以上はヨーロッパ域外のビジネスによるものです。

わたしたちの“Purpose”

“Purpose”とはあまり聞きなれない言葉かもしれません。学校では「目的」という意味と習いましたよね。

DSMではこの”Purpose”という言葉に、会社としての「存在意義」とか「使命」という意味を込めて使っています。私たちは何のために仕事をしているのか、ということですね。

私が子供の頃、1970年代の世界人口は40億人前後でした。最新の国連統計では77億人(2019年)、そして2050年には90億人を超えて100億人に迫ると予測されています。長い地球の歴史の中でも、たった80年でこれほど急激に人口が増えるのは初めてのことで、人間の活動が地球環境に与える負荷も加速度的に大きくなってきています。

近年急速に注目を浴びるようになってきた、サステナビリティ(持続可能性)の課題です。最近日本でもニュースで見ない日はない「気候変動(地球温暖化)」の問題や、急増する人口に対して栄養豊富な食事を十分に供給できるかという「食料システム」の問題などが代表的ですね。

10年以上前からDSMでは、私たちの持つ能力(ケイパビリティ)をフルに使って、人々と地球のサステナビリティ向上に貢献することを、会社の”Purpose”としています。

「仮に自分たちの事業が成功しても、その時社会が失敗していたら、成功したとは言えない」-サステナビリティをDSMの企業戦略の根幹に据えた、前CEO(現名誉会長)フェイケ・シーベスマの言葉が私たちの考え方を端的に象徴しています。

“People-Planet-Profit” または “Doing Well by Doing Good”

「サステナビリティが会社の”Purpose”ね、最近流行ってるよね、SDGsとかでしょ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

DSMがサステナビリティを企業戦略の根幹に据えたのはフェイケがCEOに就任した2008年頃のことです。化学をなりわいとする企業として、当時からサステナビリティを実現すべき責任ととらえると同時に、成長のチャンスであるともとらえてきました。

気候変動の問題を例にとると、国際研究プロジェクトである経済と気候に関するグローバル委員会が2018年に発表した「ニュー・クライメイト・エコノミー(新しい気候経済)」報告書では、「低炭素成長(低炭素化)は、30年までに保守的に見積もって26兆米ドル(約2756兆円)もの利益をもたらす」とみています。また、国連開発計画(UNDP)は、SDGsが生み出す市場機会は30年までに年間1200兆円と見積もっています。

地球や人々にとって良いことを事業の目的とする、それによって事業の利益も上げることができるはず。そうすれば、さらに永続的にビジネスの力でサステナビリティを推進していくことができる。

DSMではそう考え、過去10年以上にわたって実践してきました。これを社内に浸透するための「合言葉」が ”People-Planet-Profit”、あるいは “Doing Well by Doing Good”(良いことをして利益を上げる)です。簡単なことではありませんが、社員一同の共感を得て、これまでのところ成功を収めてきています。2008-2020のフェイケのCEO在任期間にDSMの企業価値が約3倍に増加した事実は社員全員の誇りでもあります。

2019年11月、CEO退任を前にフェイケは社内外のステークホルダーに対して一通のビデオレターを公開しました。彼自身の言葉で、どんな想いでDSMという会社を変革してきたかを語っています。約5分、日本語字幕付きですので、よろしければご覧いただければと思います。

サステナビリティ経営の先駆者として

DSMでは私たちの能力(ケイパビリティ)を使って、人々と地球のサステナビリティに貢献できる領域として、「栄養と健康」「気候とエネルギー」「資源と循環経済」の3つの分野に集中して事業を展開しています。

SDGsでいえば、「2飢餓をゼロに」「3全ての人に健康と福祉を」「7エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「12作る責任、使う責任」「13気候変動に具体的なアクションを」。これらの社会課題の解決に貢献するとともに事業成長の機会を見出そうと頑張っています。

それぞれの分野で様々な面白い取り組みを行っていますが、それは今後のお楽しみ。将来このnoteでもご紹介していきたいと思います。

世界的にもかなり早い時期から、事業を通じたサステナビリティ推進で具体的な成果をあげてきたDSMは、いわゆる「サステナビリティ経営」の先駆者としてメディアで取り上げられることも増えてきています。

例えば、米国のFortuneという雑誌では2016年から毎年「世界を変える企業」ランキングというのを発表しています。DSMは開始当初2016-2018年の3年間リストされ、2017年にはアップルやノバルティスなど錚々たる大企業を抑えて2位にランクされました。何事にせよ、DSMのようなB to Bの会社がアップルよりも上にランクされることなどめったにないので、当時社員一同純粋に喜びました。

>>参考:Fortune「Change the World」


ESG投資の重要な指標である Dow Jones Sustainability IndexやMSCI、Sustainalyticsでも業界リーダーにリストされたりAAAレーティングを頂いたりしています。

日本でも、私たちの活動が少しずつ認められてきています。大変ありがたいことに、最近も日本経済新聞や朝日新聞、Newspicksなどのメディアで取り上げて頂きました。

>>参考:

また、PwC Japanの坂野さんと磯貝さんの共著 「SXの時代 - 究極の生き残りをかけたサステナビリティ戦略」の中でも弊社事例をご紹介いただくとともに、丸井の青井さん、三菱UFJ FGの亀澤さん、メルカリの山田さん、サントリーの新浪さんといった、錚々たるCEOの皆さんに交じって、DSMのサステナビリティ経営について私のインタビューを掲載していただきました。

>>坂野 俊哉、磯貝 友紀 著「SXの時代」日経BP出版

もう一度、DSMって何の略?

今はもう石炭は掘っていないDSM。でも社名は Royal DSM*のままです。

もしも、全世界に2万人いるDSMの社員にお会いする機会があれば、「DSMって何の略?」と聞いてみてください。みんな、うれしそうな顔でこう答えてくれるはずです。

「それはね、”Do Something Meaningful”(何か有意義なことをしよう)の略なんだよ!」

私たちは、未来の地球がよりよい場所になるように、未来の人々がよりよい暮らしを送ることができるように、志を同じくする世界中の仲間たちと、日々もてる力を尽くして頑張っています。

(*オランダでは、創業100年を超える優良企業に対して、国王がRoyalの称号を与える制度があります。弊社もその栄に浴していますので正式名称はRoyal DSMとなります)

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@maruyama_kaz
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