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ESGとUX・ビジネスの両立を目指す、米国Aspirationの金融サービス

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先日の4/22はEarth Dayでした。まさにその日、DISのAssociate Product ManagerであるSayakaが、デジタル社会で自然への影響を感じることの難しさと、だからこそ出てきた新たなプロダクトのアプローチについて、こちらのエッセーで触れてくれています。今回はそのなかでも、エコフレンドリーな金融サービスとして良く知られているAspirationについて紹介します。

Aspirationとは

決済/貯蓄口座、デビット/クレジットカードから投資・保険などの金融商品までカバーしているネオバンクです。創業は2013年でカリフォルニアに本拠地を構え、2021年初旬にSeries C後のVenture Roundを行い、これまで合計$250Mを調達しています。銀行免許を持たないネオバンクですが、パートナーバンクを通じて預金はFDIC-insuredとなっています。また、環境・社会に配慮した事業活動を行っているB Corporationの認証を得ています。

彼らの興味深いところは、消費者向けのひと通りのデジタルバンキングサービスを提供しつつ、一貫してエコフレンドリーさを追求したUXを提供していることです。それでは以下、詳しくみていきましょう。(それぞれのキャプチャは、Aspirationのサイトまたはアプリからの引用です)

なぜエコフレンドリーと言われているのか?

提供するバンキングサービスの各所でエコフレンドリーを意識した設計となっています。サマリすると以下です:

・環境に配慮した買い物に対してキャッシュバック
・おつりで植樹
・自動車排ガスを自動でカーボンオフセット
・自分の支出から環境への影響を算出してスコア化
・環境に優しく資産運用
・預金は石油パイプラインや採掘会社の支援には使われない

● 環境に配慮した買い物に対してキャッシュバック
彼らが提供するデビットカードを用いると、環境に配慮した買い物に対して最大5%のキャッシュバックを受けられます。これはConscience Coalitionというプログラムで、Aspiration Impact Measurement(AIM)というスコアを用いて企業を分析し、その高いスコアの企業が対象となります。執筆時点では、TOMS・Warby Parker・Blue Apronなど20社超がありました。

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● おつりで植樹
「おつりで貯金」「おつりで投資」などはこれまでの金融サービスでもありましたが、植樹ができるのは新しいですね。このPlant Your Chngeという機能は、モバイルアプリから任意でopt-in/outできます。仕組みとしては、買い物での支払い毎に1ドル以下が切り上げされ、その度にAspirationがパートナープロジェクト経由で1本の木を植樹するものです。30・100・500本〜など、まとまった本数になるとキャッシュバックも受けられます。

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興味深いのは、彼らはこのプログラムを以下のように別のサイトに切り出してもいます。よく読むと、Make Earth Green Again, LLCというAspirationの子会社が独立して運営しているようです。社名はなんだか聞いたことあるフレーズですね(笑)。Aspirationアプリ内でも、このプログラムはAspirationのカードを使う事もできるし、全く別の金融機関が発い行したカードをリンクさせて使う事もできます。つまり、Aspirationとは別で疎結合にこの事業を運営しているわけです。

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● 自動車排ガスを自動でカーボンオフセット

Planet Protection機能は、カード利用明細からのガソリン購入額から使用量を算出し、Environmental Protection Agency(EPA)のデータに基づいてCO2排出量を計算し、そのオフセット分を自動でAspirationが購入します。購入を通じて支援するプロジェクトは、執筆時点ではCool Effect3Degrees

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● 自分の支出から環境への影響を算出してスコア化

先ほどご紹介したAIMを用いて支出先の企業をスコアリングしているとともに、ユーザー自身のスコアも算出し、自分の支出からの環境への影響を簡単に教えてくれます。

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● 環境に優しく資産運用

彼らはAspiration Redwood Fund(Ticker: REDWX)という投資信託を運営しており、アプリからこれらへの投資を行い資産運用もできます。

● 預金は石油パイプラインや採掘会社の支援には使われない

顧客からの預かり金は、石油パイプライン会社や採掘会社の支援には使われないことを明言しています。

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エコフレンドリーと両立されたUX

これまで紹介したように各所にエコフレンドリーさを追求したプロダクトですが、金融サービスとしても競争力のあるUXが提供されてます。

● タイムラインのようなファーストビュー

宣伝やお知らせ・自分がアクションすべきことがひと通りあった上で、自分の口座情報があり、その後に資金移動や保険・投資などの金融サービスへの導線が出てきます。重要なお知らせ系は、Newsなどのメニューに飛ばすのではなくここで見せるようにしてるのは斬新でした。また、保険・投資などの金融サービスにシンプルかつシームレスにアクションさせるところが良くできてるなと感じました。

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● 大手銀行を超える無料ATMロケーション

ATMネットワークのAllpointと提携しており、米国全国で55,000を超える箇所のATMがフィー無しで現金を引き出すことができます。

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● デジタル・モバイル体験に適したカードプログラム

ユーザーのメインの利用シーンはデビット/クレジットカードとなるわけですが、そこでも以下のような便利機能がアプリで提供されています。特にデジタルカードの機能は、そのままモバイルでコマースを使う時に便利ですね。

・物理カード発行時の状況トラッキング
・カードのアクティベーション、紛失時や海外旅行時のレポート
・デジタルカードの発行と番号のコピー
・ウォレット連携

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● 年利1%を実現する預金口座

貯蓄口座(Saving  Account)では最大1%の年利が適用されます。これは米国でのナショナルレートの約20倍であるわけで、他の大手銀行や金融サービスと比べてもハイイールドな預金口座を提供しています。

ライフタイムバリューの向上

さて、これまで色々とサービスや機能をみてきましたが、彼らはビジネスとして成立させているのでしょうか?ここで紹介するフィーチャーは、彼らがレベニューソースにしていると考えられる部分です。

● サブスクリプションサービス

Aspirationのサービスは下図のような2段階になっています。Plusの方は$7.99の月会費がかかる分、買い物に対してのキャッシュバックが最大10%となったり、貯蓄口座で最大1%の年利が適用されるようになります。

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ちなみに、Plusでない方のPay What Is Fairは、以下のように自分で本当に月会費を選ぶことができます。

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● 投資・保険といった金融商品

先にも触れましたが、Aspirationのモバイルアプリから投資をすることができます。同社が運営しているAspiration Redwood Fundへ投資ができ、通常の投資信託投資に加えて、米国の個人退職口座であるIRAとしての資産形成もできます。つまり、エコに関心のあるユーザーを銀行口座を通じて集め、エコに関心のある投資商品を自ら運営し、そこに送客をしている構図になります。

ちなみに、これに投資する際には、ファンドのマネジメントフィーもPay What Is Fairで選ぶことができます。

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他にも保険商品がアプリでそのまま契約することができます。

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まとめ

このように、サービス全体を一貫してエコフレンドリーに設計しつつも、金融サービスとして一通りの機能を揃えており、なおかつ優れたユーザー体験を実現しています。こちらのエッセーであったように、これからの世代のユーザーはデジタルサービスであっても、自分のお金がその先でどのように使われているかまで関心がある層が増えてくるかもしれません。Aspirationはそういった意識の高いユーザーを獲得しつつ、うまく自社開発の金融商品へと送客し、ライフタイムバリューを高める工夫がなされています。エコとビジネスはトレードオフに考えられることがありますが、Aspirationはうまく両立させていると言えるでしょう。

また、このサービスの裏側では、パートナーバンクと組んで預金をFDIC-insuredとすることや、Plaidを用いた他金融サービスとのAPI連携など、fintechで典型的と言えるパターンで開発されています。こうした基礎は既存金融機関や最新テックを使って機動的に実装し、自分たちの訴求したいUXや金融商品にしっかりと注力することは、新サービス開発のあり方として興味深いところではないでしょうか。

DISではこういったfintech領域のサービス開発のトレンドや最新テックを継続的に調査し、それらを活用した新規事業創造を支援しています。


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