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会社でタトゥーのプレゼンをした話 #これからの仕事術

ある米国発のユニコーン企業で働いていた時のこと。

私は日本のマーケティングチームに属していたが、毎週APACのマーケティングメンバーとSanity check(サニティー・チェック)なるものがあった。

サニティー・チェックは本来IT用語で、ソフトウェアやハードウェアの動作確認を指すが、Sanityの和訳は「正気」なので「チームメンバーの精神面をチェックする場」とでも言おうか。

この会社ではチームメンバーが持ち回りでファシリテーターとなり、自ら決めたテーマで皆んなとコミュニケーションを図る、なんとも独創的な話し合いの場だった。

奇想天外な社内ミーティングの通知

初めて参加するサニティー・チェックの数日前、ファシリテーター担当からこんなメールが届いた。

今週のサニティー・チェックのテーマは「タトゥー」です。

タトゥーがある人はその意味や背景を、タトゥーをこれから入れようとしている人はどんなデザインを考えているのかを教えてください。タトゥーがない人は、タトゥーに関するあなたの意見をシェアしてください。

もちろん、参加は任意です。
皆んなのストーリーを楽しみにしているよ!

ん?

仕事とは全く関係ないのに、わざわざ時間を取って「おしゃべり」するの?この時間に一体何の意味があるんだろう。

というか、タトゥーって・・・ファンキー過ぎるでしょ。

不思議に思いながらも、気持ちが高揚したことも事実だった。なぜなら、私もタトゥー保持者だから。自分なりに意味を込めて入れたので、その想いを共有するのは面白いかもしれない。

多少の違和感を感じながらも、話す内容をまとめて当日に臨んだ。

共通の関心から生まれたもの

そして当日、国籍が異なる10人が集まり、各々にタトゥーに関するミニプレゼンを始めた。最初の2人が話終えた頃、私はあることに気付いた。

仕事とは一切関係ないけど、メンバーのストーリーを聞くだけで、その人の思想や人柄が見えるのだと。

タトゥーのデザインや工程について細かく話す彼は、結果よりも過程に重きを置き、ディテールにこだわる性質。細かすぎてついていけないが、彼の熱量が聞いているメンバーをグッと引き寄せていく。きっと彼はストーリーテラーなんだ。

また、「自分はタトゥーに興味なかったけど、母と姉から3人でお揃いのタトゥーを入れようと懇願されてさ」と笑いながらも嬉しそうに話す彼女は、家族を大切にする心温かい女性。実際、お母さんみたいな優しさと厳しさを持つ人だった。

こんな風に、皆んなのストーリーからは個々の人となりやユニークな部分を感じ取ることができた。

***

自分の番になり、タトゥーを入れた背景やデザインの意味、周囲の反応について語った。そう、「話した」ではなく「語った」のだと思う。

なぜなら、自分でも驚くほど熱意がこもっていたからだ。

私は日本にいる時、タトゥーがあることを公言することは殆どない。それは受け入れてもらえないからではない、周囲が反応に困ってしまうからだ。興味を持ってもらえたら話すけど、そんなことはごく稀なわけで。

だからこそ、こんな風に普通に話せるのが嬉しかった。関心を抱いてくれて、さらにそこから別の会話が生まれるのが嬉しかった。

でも最も心に残ったのは、あるメンバーからのフィードバックだった。

「あなたのこと心温かい人だと思っていたけど、やっぱりそうね。熱意があって、感情豊かで、本当に素敵な人なのね!」

普段一匹狼感があって、私が苦手意識を抱いていた彼女からの一言。

胸が熱くなった。

効能① 遠距離を近距離に

このサニティー・チェックには、2つの効能があるのかもしれない。

まず一つは、あえて業務時間内に仕事以外の話をするということは、普段深く関わらない人を知る機会でもある、ということ。

雑談は業務時間外でもできるが、話す人に偏りがあるし、話す内容は本人次第。1人で過ごす人もいるだろう。誰もが、自分が心地よいと感じる環境を好むのだと思う。

もちろん社内に苦手な人や嫌いな人がいるのは、ごく当たり前のこと。

でも、きっかけ一つでその人たちの見方が大きく変わることだってあるし、そこからコミュニケーションが取りやすくなることだってあるのだ。

前述の一匹狼感があった彼女と私もそうで、普段話すことはなかったけど、サニティー・チェックというきっかけのおかげで距離が縮まり、その後コミュニケーションが一気に取りやすくなったのだ。

効能② セルフブランディングの向上

もう一つは、セルフブランディング力の向上だ。具体的に言うと、自分の関心や思考、意見を発信する力を養うこと。

自分が関心あることについて発信すると、同じように関心を持つ人たちが集まってくる。そして、さらに発信し続けると〇〇と言えばマーケティングチームのxxxさん、のようにセルフブランディング化される。

自分の「好き」を自分の言葉で話せる人は、人だけではなくチャンスも引き寄せることができると思う。誰かを紹介してもらえるかもしれないし、新しいプロジェクトに携わる可能性だってある。

働き方が大きく変動している今、最も求められるものは学歴や職歴ではなく、このセルフブランディング力なのかもしれない。

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少し長くなってしまったが、私が考える #これからの仕事術 は、業務時間内に個人の「好き」「気になる」を磨ける場を設けることだ。

なぜなら、結果的にそれがチーム内のコミュニケーションを円滑にし、個人の魅力を最大限に引き出せるから。

だからこそ、私はこれからも個人の力を発揮させてくれる場に身を置いていきたい。

Photo by Brooke Cagle

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