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世界最先端のリベラルアーツカレッジで教えていること

長男が学んだ米国ニューヨーク州にある私立のリベラルアーツカレッジ、バード大学は、リベラルで革新的な教育で知られ、長きに渡り米国の教育界をリードし続けています。2015年のプリンストンレビューでは、数ある米国の大学の中でも最も質の高い教室体験を得られる大学に選ばれました。リベラルアーツの伝統的良さを継承しつつも、今の時代に合わせた教育を実験的に作り続けるバードでの新しい授業はアメリカのみならず、世界の教育界のこれからの在り方に一石を投じています。1975年、若干28歳で校長に就任し以来43年に渡り同校の校長を務めるレオン・ボットスタインは、「リベラルアーツ教育のチャンピオン」と呼ばれるほど、全米の教育界に多大な影響を及ぼしています。

資産家のジョージ・ソロスは、つい先日、自身の設立した基金から、新しい時代のための開かれた大学教育の連携機構を作ることを発表し、そのネットワーク構築に100億円を投資するということで話題になりました。そのネットワークの中核的パートナー、そして旗振り役としてもバードの学長であるボットスタイン氏が任命されています。

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こうした一連の流れも、バードがリベラルアーツとしてできることを探り続けてきたことに依ります。

バード・プリズン・イニシアティブという刑務所内でバード大学の教育が受けられるプログラムを開始し、受講者である受刑者がハーバード大学の学生とのディベートで勝利したニュースは全米を驚かせました。リベラルアーツ教育は知識としての教養ではなく、同時に答えを追い求める教育でもありません。ここでも「問いを構築してゆく力」というものが徹底して鍛えられるのです。アメリカには理想があります。背景の違う、多様な人々が集まり国を、社会を共に創っていくという理想です。若い国であるがゆえに、国自体が理想に基づいて作られた国です。その理想を保ち続け、実践しているところが、大学であり、その中でもリベラルアーツカレッジなのです。「リベラルアーツ」とは、その語源や発祥を辿っていけば様々な説があるのかもしれませんが、現代におけるリベラルアーツはアメリカで育まれた教育哲学だと言えます。一人一人の見る世界に対する深い尊敬と信頼、その違いを感受し、受け入れること。その教育哲学はアメリカという社会が掲げる理念を大きく反映しています。


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長男の卒業式のゲストスピーカーは、先日亡くなられた公民権運動のリーダーであったジョン・ルイス氏でした。”Black Lives Matter”が全米、世界に広がる中、キング牧師とともに黒人参政権の獲得のために尽力し、何度も投獄された経験を乗り越え、国政の場で変化を訴え続けてきた方です。オバマ前大統領をはじめブッシュ氏、クリントン氏と歴代の大統領が葬儀に参加したことからも、その存在の大きさがわかります。ルイス氏の卒業生に向けたスピーチは、「君たちは、豚や鶏を育てた経験があるかい?」という問いかけから始まりました。スノビッシュに見える学生たちに向けたユニークな始まりであり、同時に実際に活動すること、体験することの大切さ、また彼の生い立ちを表すものでした。社会の不条理や欺瞞に出会った時、それに挑戦するために「必要なトラブル」を引き起こすことを恐れるな、というメッセージは強く学生に響いていたようでしたし、トランプ政権に変わった直後の父母父兄にも力強いメッセージとして届いたことを覚えています。



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レオン・ボットスタイン:指揮者であり教育者。シカゴ大学、ハーバード大学で学び、専門は音楽史。シカゴではハンナ・アレントに手ずから教育を受ける。23歳の時にフランコニア大学の学長となり、アメリカの歴史の中で最も若い大学長となった。現バード大学学長。指揮者としても世界各地で活躍し、アメリカン・シンフォニー・オーケストラのディレクター、第一指揮者も務める。(https://www.leonbotstein.com/#conductor)

バード・プリズン・イニシアティブ:ニューヨーク州内にある刑務所に囚役している人々がリベラルアーツ教育を受け、囚役中に学士を取得することができる全米唯一のプログラム。二千一年に開始され、現在は6の刑務所で、350人を超える生徒がいる。(https://bpi.bard.edu/)



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