今年の石垣の夏は、いつもの年よりも過ごしやすく感じるのだが、それは三十度を越える熱帯夜が一日もなかったからだろうか。
外気のひんやりする深夜は、部屋の窓を開け放ったまま寝る。
月夜だと、窓いっぱいに藍色の夜空が見えて、流れて行く雲の様子もわかる。
今夜は新月まえ、外は真っ暗で何も見えない。
私の住んでいる所は市街地だが、よる街灯が消えたら街が暗闇に沈んで、天上に星や月が輝き出す。
満月の夜は明るくて、月明かりだけで外を歩ける、ということを知ったのは、島に住むようになってからだ。
離島の竹富島の旅館に泊まったとき、宿の人に貝採りに連れて行ってもらった夜も満月だったか。
月明かりだけを頼りに海岸を歩いて岩場にいる貝をすぐ見つけられたものだ。
新月の夜は闇になる。
都会にいた時は、いつが満月で新月なのか気にとめもしなかった。
いつも自然と肌身を接していられる幸せを忘れないようにしたい。
石垣に住むことに決めたのは、皮膚感覚で住めると感じたからだ。
実際に住んでみて、もしも住めなかったら、いつでめも京都に帰ろうという気楽な考えで移住生活をスタートさせた。
あれから十五年、ずっと石垣にいる。
石橋を叩いて渡るほど慎重な私が、そのときは初めて思考に頼らずに感覚だけを信じることができた。
しかし。
長年住んでいるとシガラミが増えてくる。
非日常が日常になって、初めの頃の感動が薄くなってくる。
いけない、いけない。
自然のある有り難さを忘れては。
そんなときは初心に戻る。
リーフと深海の境目に白い波の砕ける石垣島。
機上から初めて見たとき感じた胸を締め付けられるような郷愁。
「なんて美しい島。一生忘れない」
そう胸に刻んだことを、まるで昨日の事のように思い出している。
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