「楽しい」算数・数学への違和感
私は20年以上、シュタイナー教育を仕事にしています。専門は算数・数学。
算数・数学って好きですか?
楽しいですか?
算数を学ぶことは喜びですか?
「はい!」って答えた人は「マイノリティ」少数派だと思います。はい。私もマイノリティです。お仲間ですね。笑
好きじゃないし、楽しさもわからないけれど、算数ができないと困るから勉強しないと!・・・って思っている人はとても多いと思うのです。
「楽しい」算数への違和感
よく算数の教材とか、算数の教室とかに「楽しい」っていう形容詞がついていることがあります。私も、弊社e-waldorf の算数クラスIDEAL(イデアール)とか、シュタイナー算数について話す時「楽しい」という言葉をつけることも多いです。「楽しい」のは事実なので。
でも、実は、この「楽しい」という言葉に、私はとても違和感を感じるのです。「楽しい」にも色々ある。私が思う「シュタイナー算数の楽しさ」と、一般に「楽しい算数」で意図されている「楽しい」には、変なギャップがある気がしています。
「楽しい」教材の工夫
教材には「楽しく」するための工夫がいろいろなされています。「簡単な言葉を使う」「流行語を使う」「ジョークを入れる」「漫画やキャラクターを使う」も、「楽しく」するための努力・工夫。教材作るひとたち、頑張ってますよね。算数を好きにさせるために、必死なんでしょう。
でも、こういうのは内心「やめてよね」って思います。だって、どれも「算数の本質」を面白くするための工夫ではない。算数そのものが楽しいのに、算数そのものを楽しく伝える工夫ではないところで、子ども達をなんとかひきとめておこうという涙ぐましい努力。その努力の結果、こどもたちは本来の大事なところから意識をそらされた上に、国語力まで落ちる。
誤解のないように言っておきますが、日本の教科書は優秀です。ここまで満遍なく、学年の学習内容を網羅した上で、興味を引かせるようなトピックスもたくさん載せて充実している教科書は、世界中探してもなかなかない。
だからこそ、子どもを惹きつけるための小手先のこども騙しはやめて欲しいと思うのです。そんなこども騙しに、子どもはだまされないし!
「楽(ラク)」ではない楽しさ
一般に「楽しい」という言葉で暗示しているのは、「簡単」「楽(ラク)」な算数の印象をつけようとしているところも、私のもやもやの理由の一つ。算数は嫌われ者。算数は難しいと思っている人も多い。だから、「簡単」「ラク」と言って、子どもたちをやる気にさせたいのでしょう。
シュタイナー教育をやっていると、体を動かして九九を覚えたり、算数の授業なのに絵を描いたり歌を歌ったりして、とても楽しいです。私もシュタイナー学校で、こんなふうに学びたかった。
でも、シュタイナー学校の学びは決して「ラク」ではないのです。
ラクしたかったら、プリント学習でひたすら計算練習しているほうがずっとラクです。ものを作ったりするのは、行動力いりますし、工夫もしなきゃいけない。材料もいるから準備や後片付けも大変。手も頭も心も使わないといけないので大変なのです。計算練習だったら、紙と鉛筆でちゃちゃっとできる。こんなラクなことはありません。
でも、ラクだから、力がつかないのです。ラクだから一面的で、力にならない。記憶にも残らない。体も育てないどころか、退化する。
算数の楽しさって何ですか?
みなさんは算数をどう学んできたでしょうか。どう教えられてきたでしょうか? 教科書があって、それに書いてある通りのことを先生が説明してくれて、それを理解して(理解したつもりになって)覚え、それを使って問題を解く。
私はそれが勉強だと思ってきました。そういう勉強を小中高12年間やってきました。
だから、シュタイナー教育を知って「青天の霹靂」だったんです。
シュタイナー教育で、たくさんの手作りや体験、アクティビティをします。体を動かしてリズムに合わせて動いていると、いつのまにかそこから九九が出てきたりします。九九を習う前から、九九の数字の仕組みを体で感じ取って理解していく。まさしく「体得」していく。習う前から、「わかる!」ようになる。
リアルの社会や生活のなかで算数をたくさん使います。そうやって体験をしていると、「あれ?」「えーーーどうしてこうなるの?」「わーー、すごい」という発見や驚きがたくさんあります。「こうしたらどうなるかな?」「不思議ーー」「他のパターンだとどうなる?」「やってみよう」って、頭が勝手に考え出して、やらされるまでもなく、こどもたちが自分から行動して実験しはじめる。
そうやっていくうちに、算数で学ぶ色々な定理や決まりを、こどもたちが自分で見つけていく。つまり、シュタイナー教育では、「定理とか決まりとかを教えられる」のではなくて「体験を通して自分で見つける」プロセスがあり、そのプロセスがあるから、感動もするし、楽しいし、本当に理解できる。
学びそのものが活発です。自発的です。「教えられる」とか「やらされる」とかではなく、活動そのものへの衝動が子どもの中から出てくる。
この学びは「楽しい」けれど、決して「楽(ラク)」ではない。ラクではないから、そこに本当の「学びの喜び」があります。
だいたいねえ、簡単にできちゃうことって、達成感なくてつまらないと思いませんか?
こどもは・・・というか、人間には、向上心があるんです。できなかったことができるようになったり、前より上手にできるようになりたいという「欲求」があるのです。「できるようになって嬉しい!」「知れて良かった!」「面白い!」という喜びを満たしてくれるようなもの。
こどもは、そういうものを求めています。
決して「楽(ラク)」なものを求めているんじゃない。
そういうものに出会った時のこどもの表情。
きらきら輝く瞳。
シュタイナー教室では、こどもたちのそんな表情に溢れています。
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