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#3 わたしは人類

止めて止めて止めて
止めて止めて
進化を止めて
止めて止めて止めて
止めて止めて
止めないで

――やくしまるえつこ「わたしは人類」より抜粋

昨年行った展覧会の中で最も印象に残っているものの一つは、臨月に大きなお腹を抱えて行った、森美術館の『未来と芸術』展だ。倫理観や道徳観念に激しく訴えかけてくる作品が多くて、展示の足を進めるにつれて徐々に不穏な空気が漂う作品へと変化していったことがとても印象的だったのだけれど、その何とも言えない「不穏感」を決定づけたのがやくしまるえつこさんの「わたしは人類」という作品だった。

「微生物シネココッカスの塩基配列を元に楽曲を作り、それをDNA変換して再度その微生物に組み込んだこの作品を、音源と遺伝子組換え微生物で発表(引用元:https://wired.jp/special/2016/dear-synechococcus/)」したというもので、私のつたない理解だと、要するに人類が滅亡してからも、「かつて人類がいた」という記録を、DNAコードを使ったこの楽曲を通して残せるのではないかという試みの作品。発想の壮大さに鳥肌が立った。

ところで、ご存じの方も多いと思うが、先日黒人男性が警官に窒息させられて亡くなるというとても悲しいニュースがあった。私がアメリカに住んでいた頃は、異なる肌の色をした違う国の友達がいることは当たり前だと思っていた。けれど、そんな当たり前の日常の中でも私が小さいながらに感じた違和感のようなものは時折あり、それこそが私たちアジア人に対してのものも含めて存在していた人種差別の問題だったのだということが大人になってから分かった。

とりわけ、アメリカにおける黒人に対する人種差別の問題は本当に根深い。かつては奴隷として使われていた人々が自由を得、一人の人間として尊重されるまでの歴史は本当に長かった。中学生の時の英語の授業で聞いたキング牧師の”I have a dream”演説には心動かされたし、オバマ前大統領が大統領に就任した際は「とうとう人類はここまできたのか」と嬉しくなって涙を流したのを今でも覚えている。

だからこそ、政権が変わり、今まで隠されていた白人至上主義の思想が露呈した昨今は本当にアメリカに失望したし、今回の事件も本当に悲しかった。反面、著名人をはじめ多くの人が声を挙げて今回の出来事を今までと同じように風化されてしまうのを防ごうとしていることはとても素晴らしいと思う。

ただ、それと同時に違和感も感じてしまった。

Instagramでは私がフォローしている著名人の投稿がこのニュースと無関係だった際、コメント欄にたくさん「なんで声を挙げないんだ」という批判が入っていたり、逆にFacebookでは私のかつてのアメリカの友人が「今まで同じことがあったときは黙っていた人たちがなんで今更声を挙げてるの?トレンドじゃないんだから」といった趣旨のことを発言していた。はたまた、別の著名人は「声を挙げない傍観者は迫害者と同罪」といった言葉を発信していた。これでは何をしても批判されてしまう!と思って皆正しいことをしたいと思っても、どこかで間違ったことをしたんじゃないかと引け目を感じてしまい、自分たちが取ろうとしていた行動をストップしてしまうのではないか。

私としては、この事件をきっかけに差別と迫害の歴史についてたくさんの人が知る良い機会になればいいと思う(もちろん、私も含めて)。それで、個々人が感じた気持ちを大切にして、それをもとに行動をすればいい。世界を変えなきゃ!とデモに参加するのもよし、何も特に発言せずとも、「自分は人を差別しないようにしよう」と思うだけでもよし。対応の取り方は個々人の自由であって、他人が決めるものではないから。ただ、無関心でいるよりも、一人でも多くの人が「知ろう」という気持ちを持ってもらえたら世界はより良い方向に進むと思う。

ちなみに、私はやっぱり小さいころから変わらず、いろんな人種の人たちがいるから世界は面白いと思うし、金子みすゞさんの言葉通り、「みんなちがって、みんないい」と思う。なので、私一人で世界は変えられなくても、せめて自分から小さくても発信できることはしていきたい、という想いで今回こんなnoteを書いてみた。これが今の私にできること。

そして何より思うのは、大きくいってしまえばみんな人類という点では全く一緒だから、小さな違いで優劣を争っていること自体がとてもばかばかしいということ。だって、人類が滅んでしまって、いつかあの曲が別の生命体に解読される日が来たら、きっとみんなひとくくりの「人類」にされてしまうんだから。

◆本日引用した曲
やくしまるえつこ 「わたしは人類」

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