伝説のこどもたち けんちゃん
肢体不自由児施設で働きはじめて数年経った頃、
感覚統合療法の講習会後、しばらくして感覚統合療法室を作ってもらいました。
私がデザインした滑り台、運動発達のおくれたこどもたちを介助しながら滑ったり、四つ這いで登らせたりするためのものです。未だに、同じデザインのものを今の職場で使っています。そのほかにも、ブランコ、小豆のプール、バネ付きブランコいろいろなものを自分で作ってこどもたちとあそんでました。
わたしは、こどもたちに教えられて今の仕事を続けています。ほんとにやる気のない、いい加減な私をささえてくれたのは、いろんなこどもたちでした。
そのお話をしていこうと思います。
今から30年ほど前こどもたちのしんどさも、お母さんの苦労もよくわからないまま、仕事をしてました。
軽い麻痺と知的な遅れを伴ったけんちゃんは、訓練室にいます。
けんちゃんは、棚から絵本を引っ張り出し、輪投げのポールを倒し、トランプの箱から、カードを引っ張り出しバラバラにしてそれをふみつけながら、、積み木を箱からだして… と、四つ這いでうごきまわっています。
絵本を読んであげようと思ったわたし、輪投げとはこうするものだを見せてあげようとした、トランプは、こんなふうに並べるんだよ…そしてつぎには、…ねえ、ねえけんちゃんってば…
全然みてくれないので、置いてきぼりになった私は、お母さんと楽しくお話をしながら、絵本を棚に戻し、ポールに輪投げをいれ…とお片づけを、毎回くりかえしていました。
お歌を歌ったりすると、嬉しそうに真似をしようとしていましたね。
「じゃあ、またね。バイバイけんちゃん」と、手を振って、今日の訓練はおわりです。
けんちゃんは、元気に楽しそうに、お母さんに抱かれています。
こんなかんじだったんです。
何をすればいいのか? これでいいのか? そんなことも、あんまり考えてなかったのだと思いますり
その日は、来年1年生になるので、学校の相談を受けていました。
お母さんと話し込んでいる間、けんちゃんは、ほったらかしでした。
ふと、けんちゃんを見ると、輪投げの輪をじっと見ています。
しばらくすると、それを置いてトランプのカードを1枚、箱に入れようとしました。
でも、うまくいかないで放り出し、そのあとも、いろんなものをひっぱりだして…… 振り出しにかえってきました。
そして、輪投げの輪をふりまわし… トランプのカードを何枚か持ち…入れようと
「ああ、そうだったんだ!
「この子の遊びかたは、ちがうんだ!」
と、やっと気づいたんです。
私たちは、ひとつの遊びを続けないといけないと思い込んでいます、10くらいは遊ばないといけないと思ってしまうんです。(ここでいう、10というのは、時間であり、工程であったりします)
でも、けんちゃんは、1遊ぶんです。そして次に行って、また1遊ぶ。
つまり、普通は、ひとつの遊び(おもちゃ)で10遊ぶ。しかし、けんちゃんは、いろんなおもちゃを1ずつ遊ぶんです。
1やって、1やって、1やって… と、そしてふりだしにもどり、つぎにはそのおもちゃのつづきの2.つぎのおもちゃの2.…2.そして、またふりだしにもどり3、3. 3 … と。
しかし、わたしは、1. 1. 1.のつぎを、0にしていたんです。(片付けていたから)
1. 1 .1.… 0あれ?
だから、毎回、1だけだったんです。
「お母さん、今度から片付けるのをやめよう。
けんちゃんの遊ぶのを見てようよ」
そして、わたしは、ほったらかしにすることにしました。
そうすると、どんどん、いろんなことができてくるんです。
「わたしが、教えてあげよう!」なんて思ってはいけなかったんです。
面白そうなものを用意して、そばに置いておくだけで、ちゃんと気づいてくれるんです。
わからなかったり、手伝ってほしいときは、チラッとこちらをみます。そこから、どんどん伸びて行きました。
私も、楽しくなってきました。おもちゃの準備も、ワクワクしました。
しかし、わたしの最初の先生は、1年生になってすぐに、突然亡くなってしまいました。
100年経ってる古いお家で、お線香をあげに伺ったけど、私は、けんちゃんに「ありがとう」を言ってません。
すごいことに気づかせてくれたのに、まだ、それがすごいことだとも、気づいてなかったんです。
(伝説のこどもたち は、以前はてなブログにて発表していますが、今回はそれに加筆や訂正を加えています)
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