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実話:「やめないで、もっと」 少年の心を踏み躙った、悪魔の所業

まず、始めに断っておきます。
エロい系の話では無いです。
エロさを求め開いてしまった方、申し訳ない。

心を抉られるような…
辛く、悲しく、そして恐ろしい
とある人物から打ち明けられた実話話です。

私はこの話を聞いた時、憤りから
涙が溢れそうになりました。
口惜しく、許し難い…悪魔の如き所業です。

同じ思春期を過去に過ごしたことも
ある身として、少なくとも…私は許せません。
コレから語るのは、そういうお話です。


話を打ち明けてくれた古い先輩で有り友人…
仮にA氏…としましょう。

コレは彼の体験談です。

彼の無念さを心に刻み、人々の心からも
忘れ去られないようにとの思いを込めて、
この場にて記録する事に致しました。


エロ系を求めた方、悲しみ耐性の少ない方は
ブラウザバックを推奨致します。

以下、本題です




時は平成の初め、まだ20世紀の出来事。

少年だった頃のA氏は
至って普通の…どこにでもいるような、
ちょっとマセた中学生だったそうです。

プレステがどうたら、ミニ四駆がどうたら…
友達と家に集まって皆で遊ぶのが好きな子でした。
持ち前のひょうきんさで、友達も多く
クラスでも人気者な中学校生活を送っています。

「大人になったら人の役に立つ人間になるんだ!
医者とか、弁護士とか、政治家とか…」

そんな、有り余る夢を友人らに語る事も
有ったとか無かったとか。

未来を背に、希望も両手一杯に抱え
世の穢れも、卑怯さもまだ知らぬ、
…そして、人を疑う事も知らぬ…


そんな一人の…
無垢な少年であったと言います。




…ただ彼には、親にも友達にも言えない、
一つ、隠された趣味がありました。


多感な時期です。
隠し事の一つや二つは男女に問わず
抱えているものです。

だが…その隠し事によって
彼は生涯忘れえぬ、忘れたくとも忘れられない
心の傷を抱えて、その後の人生を歩む事と
なってしまいました。


とっぷりと陽も暮れ、
人々が床に着くそんな時間…

夜な夜な、家族の皆が寝静まった
頃合いを見計らって
自室のベッドを抜け出すと、
一階のリビングにあるテレビに一人、
電気も付けずに向かい合う昔日のA氏の
姿がそこにはありました。


静寂の中
暗闇の中…

誰にも気付かれないよう、
誰にも邪魔されないよう、

気配を殺して…布団をほっかぶって。


近くに誰の気配も無ければ、
家族が起き出す様子もない事を確認した彼は
寝巻きのポケットからあるものを取り出しました。

黒く…長いイヤホン…有線のやつです。

それを手慣れた手付きでテレビに差し込むと、
電源をつけました。

しかし、そのイヤホンをすぐに装着しません。

「プロは音漏れレベルの確認も怠らない」

今日(こんにち)の彼の言葉です。

中学生当時の彼も、天性の才能で、

「ジャックにちゃんと挿さってなくて
実は音がモロ聞こえだったぜ!」

みたいなミスはおろか
僅かな音漏れによる家族バレさえをも
誰に教わるでも無く、未然に防いでいました。
生まれながらの才能を、幸か不幸か
持ち合わせていた様です。

音量調整に抜かりのない事を確認すると、
漸くイヤホンを装着し、人知れず、
テレビまでをも布団に覆って
思う様…愉悦の時を味わっていたそうです。


真夜中のテレビ鑑賞…

当時のテレビ番組は無法地帯。
昨今ではコンプラだなんだと大騒ぎになる様な
放送ギリギリな事をどこまでやれるかを
競い合っている様な時代だったそうで、

そんな時代のましてや深夜帯…
視聴者、特に殿方のニーズに応える
プログラムも多々放映されてたそうです。

今では考えられない過激な番組・企画
に対する興味を抑えきれず、A氏は
いつからか魂を奪われて、こうして人知れず
夜中に鑑賞する様になった…と
静かな調子で私に語っていました。


…そして…この悪癖が悲劇に繋がる
キッカケ、始まりだったとも…
何か思い詰めた調子でグラスを煽り、
溜息を吐いたのち、また私に告白を続けました。


彼は…A氏は、続けて言いました。

次第に…欲望が抑えきれなくなった…と。

ドス黒い欲望の塊が彼を覆い尽くしていき、
まともな刺激では満足出来なくなり、
ついにはこう…渇望し出したそうです。

「もっと…もっとだ…!
もっと刺激的なものを見せろ…!!!」


ネット社会となった今とは違い、
それは当時の中学生である彼には
大変に得難い欲求でした。

書物…映像記録…

当時、大変なリスクと大金を持ってしなければ、
彼の望むものは手に入らなかったのです。

渇望しながらも手にする事は出来ず、
僅かな水を啜る様に夜な夜なテレビと向き合い、
暴れだしそうな己の渇望を抑えつけていたのです。


しかし…そんなある日に、
偶然彼は出会ってしまった。

紛う事無き悪魔のセンテンスに。



「やめないで、もっと」



電流が走った。

A氏はその文言を目にした時の事を、
そんな言葉で表現していました。

彼が件の一文を見つけたのは、
新聞の番組表の中。

AM3:00〜「やめないで、もっと」

何一つ、具体的な事は書かれていない、
本当にコレだけの短い文字だったそうです。


だが、身を焼かれる様な抑制を
強いられ続けた彼には…この悪魔の囁きが
この上なく魅力的で甘美な文言に見えてしまった


コレだ。オレの望むものは。
ついに手の届くところに来た。

この機、逃しはしない


いつもの見慣れたプログラム…
今やウォーミングアップにもならない
番組はam1時頃には終わる。

更に己を追い込み、
自分史上未到の3時まで耐え切れば
オレは更なる高見の景色を眺められる。




最早…誰にも彼は止められませんでした。

今や勝手知ったるルーティン、
深夜にベッドから起き、周囲を警戒し、
イヤホンを差し込むと、A氏は問題無く
テレビと布団にくるまりました。

目の前に広がるのはいつも通り…
見慣れてしまった筈のヤワな刺激。


けど、あの時のオレにはいつもと
別の感情が混ざっていた
…と彼は言います。

遊びじゃない、この先は。

高揚するのに恐怖も感じる。


今まで感じた事の無い、
未だ名称の無い感情に包まれながら、
いつもの番組が終わると、彼はひたすら待ちました

2時から3時までは一切の補給(エロス)も無し。
変な通販番組みたいのを見ながら
ただ、じっと、その時を待ちました。

永遠にも感じる様な、長い、長い…
今迄の生涯で、最も長い1時間を耐え、


ついに、待ち焦がれていた
「やめないで、もっと」は始まりました。

海外映画…

洋モノか…まあまあ…
で、一体どうなっちまうんだ。

どいつだ、この姉ちゃんが…
或いはあの姉ちゃんが…

なんなら…全員か…!?

やめないで、もっと…ってか!?


眼前に広がるビーチの霞んだ映像が、
さながら桃源郷にでも映ったことでしょう。

じき…遠からぬ未来には、
そこが酒池肉林の世界に変わる。



彼の興奮を他所に、至ってまともに
ストーリーは進行していきました。

彼はこのストーリーに関しては
余り多くは語りませんでしたが、
日本のドラマで言うと、昔あった
「サマーバケーション」みたいな感じ…確か。
…とだけ記憶していました。

それどころじゃ無かったのかも知れません。



30分が経過しました。

濡れ場はおろか、未だポロリすら皆無です。
…と言うか、まるで「そんな感じ」に
話が転んで行きそうな気配すら皆無。

誰がどうしたやら、ドジったぜ残念(笑)みたいな
平々凡々とした風景が続くのです。


茹った頭のA氏も、
流石におかしいと思い出しました。


なんか…ストーリー部分長くね…?


でもきっと…焦るな。
なんか古い感じの水着着てる姉ちゃんが
あんな目やこんな目に…



1時間が経過…



1時間…半…





「信じられるか?終わったんだよ、そのまま。
何かハッピーエンドでした…みたいに。」


「え、そんなバカな事って…」


「なんなら「やめないでもっと」要素すら
どこの事だったか分かんねえよ。」


「嘘だ…嘘だって言って下さいよ」


「嘘じゃねえよ。現実だ。なんかちょっと
コメディっぽいサマバケだった。
それ以上でもそれ以下でもねぇ。
騙されたんだよ、オレは。邦題に。
…あー、ホントは「ビーチパーティ」って
映画だったんだな。今知ったわ。
…なんで…なんで…やめないで、もっと…
だったんだろうな…邦題が。」

「1時間半じゃ…終わって5時前じゃ無いすか。
中学生には余りにも…
…え、それってまさか週末ですよね!?
週末ですよね!」

「…次の日…フツーに学校だったんだわ」


「ああああぁ!!!」


「…未だに…忘れらんねえんだ。
この「やめないで、もっと」って文言が。
多分生涯…死ぬまで忘れらんねえよ。
今か今かってよ…準備しながらよ…」


どんな気分で…後半見てたんだ。一体A氏は。
思いを巡らした途端に私の胸は詰まりました。

一体…どんな気持ちでその後学校に行ったんだ。

いや待て、その前に聞きたい事がある。


「準備……って言いました?」

「あ?あぁまあ…色んなことをな」

「パンツは…履いてたんですよね…?」

「まあそこは…準備だよ。
どんな準備かは想像に任せるわ。」

「……いつからです?」

「あ?…まあまあ序盤からだな…」

「うわあああぁぁ!!!」


私は許せない。

A氏の渇望を裏切り、中学生の彼を
半裸で1時間半も正座させた邦題の悪辣さを。
そしてそれを3時などと言う、妙になんか有りそうな
時間に放映するという狡猾さを。

叫んでいて本当に口惜しさで目頭が熱くなった。


だが、最後にA氏は笑い飛ばしながら
こう私に言うのだ。


「まあ、こうやって飲みの席でよ、
話のタネになってくれたんだから、
無駄じゃ無かったんだよ。あの1時間半は。」


聞いたか、「やめないで、もっと」
A氏は、世界は慈愛に満ちているぞ。

だが私はA氏ほど優しくは無い。
私はあなたのことを許さない。

あっていいのか、こんな事が。
否。断じて。
あってはならないんだ。

だから書いたんだ、私は。
忘れてはならないんだ。

この非道も…ありし日のA氏の半ケツもだ。

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