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【連続小説チャレンジ】 不思議なノート#10

【星の子村祭り】
家に着くと、夫の一夫が、星の子村祭りに行く支度をしていた

一夫:温泉どうだった?
良子:ソソラ ソラだった
一夫:???
良子:楽しかったってこと
一夫:そっか、月光は、先に星の子村に行ったから、僕たちは、もう少ししてから行こう
良子:なんか、カズッチ、張り切ってない?
一夫:そうかもな、なんだか分からないけど、ちょっとウキウキしてるかも
良子:いいじゃない、ウキウキ

私たちが、星の子村に付く頃は、辺りも暗くなって、星空がやけに近く感じられた。

村長の大川;お待ちしていました。さあ、中へ

教室の壁を取り払った大広間に通された。既に沢山の人が居り、それぞれ気ままにくつろいでいる雰囲気に、良子も一夫も自然と顔が和んでいた。

村長の大川:さて、そろそろ始めますか、では、天窓を開けてください。

広間の天井の窓が電動で開いた。窓が開き切ると部屋の電気が消され、一瞬真っ暗になったようだが、天窓から薄青い光が差していた。天井の窓からその光を辿って天を見ると、大きな満月が輝いていた。


良子:あなた、満月、見て、きれいだわ
一夫:ああ、

二人は、初めて月を見つけた生き物のようにポカンと口を開けて見上げていた。

村長の大川:では、皆さん、ゆっくり、床に横になってみてください。

村長の言葉に従って、みんなその場その場で仰向けに身体を寝かせた。

村長の大川:では、静かに月の光のリズムに合わせて呼吸をしてみてください。

「月の光のリズム」いったい何のことだろうか… 一夫も良子もそう疑問に思いながら、ただただ 静かに呼吸した。

村長の大川:それでは、これから我々は、星の子に戻って、遊び、祭りを楽しみましょう。

裏庭に吊るされたランタンが、一斉にライトアップすると、何処からか、子供たちが出てきて、木登りやら、焚き火やら、缶蹴りやら、木に掛けたロープなどで遊び始めた。

一夫:痛たっ、

気付くと吸盤みたいなゴムが先に付いた矢が、一夫のおデコにくっついた。

良子:インディアン…?

良子の指差した方角から、可愛い子供インディアンが襲ってきた。あっという間に、一夫は捕らえられて、庭の木に縛り付けられた。良子は、はしゃぎながら逃げ、反対側からやって来たカーボーイ姿の子供らに救助された。そして、おもちゃの銃を渡されて、インディアンをやっつけるように促された。試しに打ってみると、玉は、小さなペンキ玉で、当たると色が付くようになっていた。良子は、何とか、一夫を救済しようと、身体を隠しながら、一夫が縛り付けられている木にまで近づくと、ロープを解き一夫を逃がした。

良子:あなた大丈夫?ここは私に任せて!あのブロックの後ろに逃げて!
一夫:分かった

良子は、一夫がインディアンに捕まらないように、銃でチビッコインディアンを打ちながら、逃げるのを援助した。星の子村祭りは、そんな具合に盛り上がっていった。子供も大人もみんな一緒に我構わずに、はしゃいでいた。最後に、大きな焚き火を囲んで、みんなで色んな歌を歌って、踊って、祭りは終了した。

一夫:ヨシ、月光は、何処にいたんだろう…
良子:そういえば、見なかったわ
:母さん、父さん

声の方を見ると月光が黒い上下の衣類をまとって、顔にまで黒い絵の具を塗って出口に立っていた。

月光:母さんと父さんをずっと影で、見守っていたんだ。何かあったら、飛んでいって助けようと思ってさ。
一夫:そ、そっか。
村長の大川:林原さん、ちょっとお時間ありませんか? 月光君は、後片付けを済ませてもらっていいかな、じゃ、こちらへ

村長が一夫と良子を自分の部屋に通した。

村長の大川:本日はお越し頂いて、ありがとうございました。きょう来られた他の方々のことを少しお話して置こうかと思いまして、月光君がここで、どういったことを学べるか是非知って頂きたいもので。先ほどの皆さんは、この星の子村のボランティアスタッフで、子供たちと、子供たちの親御さんとのコミュニケーションを活性化させることに力を注いでいます。彼らとは、家族支援センターで知り合った方々なのです。

一夫:家族支援センター?
大川:病気や事故で家族を亡くした人達が、支え合っていく会なんですが、彼らは、私と同様に子供を亡くした親御さんたちが殆どです。
良子:亡くされたって、大川さん
大川:そうなんです。もう、随分前になりますが、私には、不治の病を持って生まれた息子がおりました。5歳になる前に世を去ってしまいましてね。妻は、そのことで自分を責めて、息子の後を追って自ら逝ってしまいました。何もかも失くした時に、この支援センターで、多くのことを学びました。失ったものの尊さは、失ってから初めて気付くものです。出来れば、尊さを失う前に、私たちは、自分たちの経験を生かして、多くの人にその尊さに気付いて欲しいと考えて、彼らと供にこの星の子村を立ち上げた訳です。彼らと「子供がもう一度自分のところに帰ってきてくれたら、一番に何をしてあげたいだろうか」と話し合ったことがあるんですが。殆どの者が、ただ一緒に遊んであげたい、一緒に笑い、一緒にいるだけでいいとそれだけを望んでいると思っているんですね。今を楽しむ事が一番なんですよ。自分より大切なものが居てくれるのですからね。こんな幸せはないですよ。そのことを楽しまなくては勿体無いですよ。
一夫:そうですね。仰るとおりです。大川さん大川:では行きましょうか、これから、月光君の力をお見せします。
一夫と良子:??

大川は、二人を牛小屋に案内し、そして、影から中の様子を見るように告げた。

月光:ミルキー天、もう大丈夫さ、人間たちは、みんな帰ったよ。僕も帰るけど、また来るからね。

そう牛に話しかけている月光。すると、親牛のサクラが、足踏みし身体を揺らし、何か訴え始めた。

月光:え?どこだよ。

月光は、サクラの目をじっと見て、そして、今度は、棒のようなものを手に掴んで、子牛の傍にゆっくり近づいた。

月光:ミルキー天 じっとしてろよ。

そう言うと、月光は、子牛の傍に棒を向けて、また じっとしている

月光:そうだ、それがいい、僕が連れて行くから

一夫と良子は、いったい月光が何に話しかけているのか分からず、様子を伺い続けた。すると、月光が手にしていた棒の先に蛇が絡みつくのが見えた。月光は、石垣の近くにその蛇を放した。そして、今度は石垣のそばの木蓮の木に向かって、話し掛けてる様子だった。月光が振り向き、二人の姿を見つけ近寄ってきた。

月光:父さん母さん帰りましょうか。
一夫:月光、あの蛇…
月光:マムシです。この辺に時々出るようです。木蓮が、後の面倒見てくれます。
良子:木蓮って、あの木?
月光:僕もよく分からないけど、この辺りに住む生き物たちは、あの木蓮の言う事はよく聞くようです。お母さんお父さん、今まで、自分は、少し変なのかなって思っていたことが、この星の子村ではそうじゃないことに気付かせてくれました。僕一人にしか聞こえていなかった声が、ここでは、みんな聞こえるか、見えてるか。色んな形で繋がっているんです。

一夫も良子も、月光のギフトが、理解できたような出来ないような不思議な気分だった。星の子村祭りの帰り際に、大川がこう告げた。

大川:月光君のような能力は実は、我々みんなに元々備わっているもので、訓練次第で、社会に貢献することも出来ます。事実ある国では既に、植物人間になった患者さんとコンタクトを取る事に成功しています。この星の子村は、世界の各地で同じ考え方をしたものたちとネットワークを組んでいます。その規模は、ご想像以上のものです。また、折を見て、お話しさせてもらいますが、今日はご来場ていただいてありがとうございました。
一夫:こちらこそ、お誘いいただいてありがとうございました。これから、徐々に星の子村の皆さんのことを知って行きたいと思います。では、失礼します。

一夫たちは、家に向かった

家に着くと、電話に 朝日からのメッセージが入っていた。「明日、一平君とそちらに、夕飯ご馳走に伺います。都合を聞かせてください。」

良子;そっか、朝日の件もあったんだ。

【一平くん】
一平君が、我が家を訪れたその日、澄み切った青空が広がっていた。その空は、一平君の人柄を表現しているかのように思えた。それほど、彼の印象は、爽やかだった。朝日は、始終、笑顔で彼に話しかけている。その様子を見て、新芽を見つけたときのうれしさに何処か似ている喜びを良子も一夫も感じていた。

一平:僕は 朝日さんと温かい家庭を作り、その温かさが小さな波紋になって、周りへ広がって行くようにと願っています。僕は、彼女を幸せに出来るかどうか、分かりません。それは、彼女が、決めることだから、でも、僕自身は、自分より大切なひとが、目の前に現われ、しかも、僕のことを受け入れてくれて、とても幸せを感じています。この気持ちに、そして、朝日さんと出会えたことに、毎朝感謝しています。これは、ずっと忘れずにいようと思っています。僕は、まだまだ、未熟者です。でも、一つだけ分かっていることは、「描きたい」その感動を持てる人であれば、無名な画家でも 有名な画家でも、感動させる絵は描けるのだと信じていることです。朝日さんとの出会いで感じた感動をこれから、キャンパスに描き続けて行きたいんです。どうか結婚をご承諾していただけませんでしょうか。お願いします。
一夫:そうですか、分かりました。一平君、僕は、君のことをまだよく知ってはいないが、朝日は自分の信じたことは、とことんやるタイプだ。一平君のことを信じて、ラオスにまで付いて行く気でいる。良子も私も、娘を信じるしかないと思ってる。つまりは、一平君を信じることだ。まだ、よく知らない君を信じるんだ。一平君、私たちの描いてきた絵だって、まだ完成はしていないんだよ。面白いのはね、失敗しても描き続けて来れたってことなんだ。色を重ねてみると初めに塗った色が、後から どれだけ大切だったかってことも分かる時が来る。君のキャンパスには、汚れた色はないようだ。きっといい絵になるんだろうな。朝日のこと、頼みます。一平君
良子:そんなこと思ってたんだ。カズッチ…
朝日:お母さん泣いてる?
良子:ちょっとね、へへ

良子は、心の中で、ほっとしていた。この瞬間に、「自分は、夫を愛している」と実感できたからだ。たくさん色を重ねて見えなくなっていただけで、初めに塗った澄んだ色は、そこにそのままあったのだ。良子の中にも…
その夜は、良子ら夫婦の出会いの話やらで盛り上がった。良子が、携帯のメールに気付いたのは、次の朝だった。

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不思議なノート#11最終話
https://note.com/kaya_yan/n/n2695887021d2

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