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小説家の私が読後の違和感にツッコむ。注意⚠️ネタバレです。【殺戮にいたる病/我孫子武丸:著】

先日購入、本日読了しました!ぜひ!お勧めしたいです。
猟奇殺人、イカゲーム好き、またはグロいシーンに耐性ある方なら。

買った当初はAmazonレビューから、最後にびっくり!な展開ということは知っていましたが、それを(数日しか経ってないのに)すっかり忘れていて、最後のページで「ほえええ?」と目を丸くした七赤金星です。

七赤金星はとにかく、九星の中で一番、忘れっぽいですから。
しょうがないです。怒らないでね。

さて、そんな私は何者かというと、過去に文庫本六冊を大手出版社さんから出版し、その他数社さんより電子書籍合わせて十数冊上梓しております。
一応、本を書く経験もあるということで、上記の作品を私なりに分析したいと思います。
(noteの文は、自由に書きたいので、文章変なところもあります。ご愛嬌)


すごく気になるところは、二箇所。

今回、素晴らしい我孫子氏の叙述トリック作品を読み終え、見事に
「おおーー」と驚かされ、その後、急いで伏線という伏線、ネタバレをネットで検索した上で本作品を再読。

すると、叙述トリックを完成させるために必要だったのはわかるけれど、これ、私が担当編集者だったら、「先生、ここはもう少し違う表現をされた方が」とか、「ここは違和感がありませんか」ってどうしてもツッコミたい箇所が二つあったので、書いておきます。

さて、ここからネタバレ全開なので、作品をまだ読んでいない方は、またのお越しをお待ちしております!
それではいってみよう!



「2.前年・稔」

蒲生稔が初めて人を殺したのは、雅子が不審を抱き始める三ヶ月もの前、前年の十月だった。

殺戮にいたる病:我孫子武丸著(講談社文庫)

まずここ。この章の冒頭の一行目です。
誰視点でしょう?
章のタイトルには、必ず誰の行動かわかるように、名前が見出しにあります。
一応、ここは稔の行動が描かれる章なので、視点は稔のはずですが、語り口は全体的に三人称なので、読者視点でしょうか。
すると、変なのは、稔自身は、最後の殺人未遂まで自分が家族に疑われているなんて全く思っていないのです。
なので、雅子が不審を抱いていると表現するのは、自分の母親(同居中の実母)と、雅子を読者に勘違いさせておくためのトリックだとは思うのですが、ちょっとずるいなと思います。
そして、次に続く同じ章のトリックの核心、

もしこのことを知ったら、母さんはきっと気が狂ってしまうだろう——実はそう確信していた。そしてそれはあながち的外れではなかったにしろ、実際彼女が後の犯罪に気づいた時には、事態は彼にとって思いもよらない方向へと向かっていったのだった。

殺戮にいたる病:我孫子武丸著(講談社文庫)

問題:この「実際彼女が後の…」の、彼女は誰を指しているでしょう。
と、国語のテストで出たら、この代名詞の直前に出てくる「母さん」が正解じゃ無いでしょうか。
しかし、この「彼女」は、トリックの一つで、最初の行の「雅子」だと思わせるものなのです。国語が得意な読者さんは、「違うだろ」って突っ込みたくなりませんか?それに「母さん(稔の実母)」が犯罪に気づいているという表現は本作品中ひとかけらも出てきません。
むしろ、最後の殺人(未遂)で、ホテルに息子が乱入してきますが、この時初めて稔の気持ちとして
——全て気づかれていたのだ
と記述されるのです。これ、息子にね。雅子や母親じゃありません。
なので、この「2.前年・稔」は、再読した人には違和感しかない章だと思います。
これ、私が編集者だったら、「先生、ここまでしなくても大丈夫です。十分読者さん騙せます」って、せめて最初の雅子の一行は削除したいです。

野本や警察の初動捜査がおっそい。(クライマックス)

ちょっと、またマウントみたいになってしまいますが、小生、仕事とは別にミステリーも小説投稿サイトにて投稿したことがありまして、その当初、その作品は4週連続くらいで週間一位をキープしていました。
それを書くために、めっちゃ警察関係の資料、小説などを読みました。
大抵、どの刑事小説でも殺人現場の初動はほんと早いです。
それを踏まえて、創作という枠組みの中で突っ込みます。

8から12章にかけて、警察の動きが遅い
まあ、このクライマックスでさっさと警察が蒲生のうちへ先回りして逮捕したら、最後のシーンが書けなくなっちゃうので、仕方がないと思います。

警視庁捜査一課の野本え……。

まず、バーの鏡に、犯人である稔と接触したかおるが警察へ連絡するようSOSを口紅で書き残します。「連続殺人犯は蒲生稔」って。名指しやん。
もうこの時点で重要参考人捜索に捜査本部が動いてないですか?(知らんけど)

「10. 28日後午十一時二十五分・樋口」で遺体の身元判明せず

この章で稔の行動をずっと疑っていた息子が、ホテルに入った父を追って部屋に乱入してかおる殺害を止めようとし、逆に刺殺されてしまいます。

直後、稔は逃げますが、その現場に来た警察の調べが甘いと思います。
死体を見て、刑事ドラマでは真っ先に所持品から身元が分かりそうなものを見つけようとしませんか?
この時、息子だって家から公共交通機関使ってきたと思うので、財布くらいは持っていたはず。
学生証だって入っているし、本文にも雅子が言ってますが、レンタルビデオだって借りてます。そこの会員証もきっとあるはず。
なのに、いつまで経っても警察には「殺人…犯?なのか?」扱いです。
自殺だとも断定してないのに、結構みんな殺人犯、蒲生稔(だと思う)が死んでほっとしている雰囲気。
おいおい、その男を殺した犯人は別にいるだろうに!なぜ他殺を疑わない?
これも、最後の最後まで引っぱらなきゃいけないので、しょうがないっちゃしょうがないのですが。

しかも、同じ章で息子を追ってきた雅子が、息子の遺体を確認しているのです。
樋口も、雅子の苗字と殺人犯の蒲生稔の苗字が同じってショック受けているのだから、もう、早く捜査本部に連絡して!
捜一の野本いるじゃんそこに!
普通、中野署の所轄の刑事が蒲生家に確認しに行きませんかね!?
そこが、すごいもどかしかったです。

「12.29日午前零時五十分・樋口」で、まだ捜査員が来ない

とにかく、気が錯乱している雅子をパトカーで自宅に送る樋口。
殺人事件から1時間半ほど経っているのに、「蒲生稔逃亡中」とか無線連絡ないのかなと思いました。
しかも、自宅に着いた雅子が玄関の鍵を閉めてしまったので、話を聞こうとしていた樋口は、ドアを破るのにパトカーにいた制服警官に声をかけます。
すると、なんということか警官は「犯人はもう死んだんでしょう?」と躊躇するのです。
え、遺体が何者か、何にもわかってないのに、この決めつけスタンスって、警察としてどうなんだろう。
おまけに、樋口まで「殺人鬼は死んだはずだし」と思い込んでる。(作者がそう言わせてるのは分かります。最後のシーンの「溜め」だものね!!)
そこが、ちょっとくどかったかなって思いました。

それに、稔のモンタージュ出てるのに、最後に実母の上に乗っかって恍惚の表情を浮かべている、まで見てるのに「こいつが蒲生稔か!」って樋口に一言もなかったヨ……。

最後の最後まで、所轄は後手後手だった。


クライマックス。
実はこの現場で警察に通報してるのは樋口なんですよ。それは一番最初、この作品の一行目にあります。
その時点、通報されるまで所轄来てないんすよ……。
病院に搬送されたかおるから、多分犯人像を聞いているはずなんですけどね。犯人は中年の男だと。
なので、再読すると、すでに最初の章、一行目から違和感がありました。

蛇足:パリで起きた、人肉を食べた日本人事件の引用

これ、猟奇的殺人を扱った小説を読むと、ごくたまにこの実際に起きた事件が引用されているのを見かけます。
実は、私の勤めていた会社の上司は、その事件の連絡が入った当日に彼の上司の命令でパリへ飛ばされました。当時、この上司の上司が、犯人の青年の親御さんだったのです。なので、事件の処理はめちゃくちゃ大変だった、という話を少しだけ聞いているので、なんだかこの事件は、日本人でも起こしたというショッキングなものだから使われるのでしょうが、その文字を見るたびに、当事者では無いですが、なんだか複雑な気がします。

これはヒントだったのか?というところ。

再読すれば、「ああ、ここは完全にトリックだな」とわかるところもありますが、ただ一箇所、稔の回想で、幼い彼が実母のスカートの中を覗き込む描写があります。
その時母親がはいていた下着を「腰まであるズロース」という表現にしているんです。
男性は読み流すかもですけど、女性なら「ん?ズ、ズロース?いつの時代?」って引っかかると思うんです。
実際、私は再読時ではなく、最初に読んだ時に「ん?九十年代ってズロースって普通だったっけ」とモヤっとしました。
普通に下着の股の部分って書けなくもないと思うし、パンティでもいいですよ。でもズロースって、かなり時代を匂わせる(下着なだけに)特殊な単語のような気がします。(実際、うちのばあちゃんがズロースって使ってました)
なので、雅子の下着ならパンティ、パンツ、または下着と表現されたかもしれませんが、実母を指す、わざとノスタルジーを感じさせるようなズロースという単語を選んだのかな、とも思いました。

まとめ:九十年代ならではの良質なミステリー。

私は叙述トリックはあまり読まないのですが、最後の裏切りは、そこにものすごいカタルシスを感じますね。
久々にドキドキしました。
騙されたのに、嬉しい。悔しいけど、興奮する。
その、最高のラストシーンに向けて、作者さんはいろんな角度からキャラクターを見つめ、全力で考察して動かしていく。
脱稿した時の瞬間の開放感と、寂しさ。創作って、すごいです。
それを、書き手の自分もわかるからこそ、ちょっとした違和感が拭いきれませんでした。
ぜひぜひ、この作品でもっとたくさんの人が裏切られてほしいです。

ちなみに、この時代はケータイもないし、防犯カメラも皆無と言っていいので、こういった連続殺人は今よりも書きやすかったと思います。










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