ベルファスト (2021)
北アイルランドをめぐる紛争に揺れるベルファストが舞台。
この北アイルランド問題は現代まで解決しきれておらず非常に根深いものなのだが、本作では歴史の経緯や今何が起こっているのかといったところには細かく触れられない。
何が原因でそうなって、何故いがみ合っているのかも読み取れず、よく分からないままに日常が壊れていく。
歴史的事件が起きても、その渦中にいる人々にとってはそれも日常の延長であり、生活の一部である。
英愛の長い紛争の歴史も、わずか9歳のバディには知ったことではないし、それはバディの親にとってもそうで、更に言うと祖父母だってあまり変わらない。
彼らはバディよりちょっとばかし現実と向き合う時間が長かっただけで、「サァ今日も朝から晩までこの問題と向き合わなくては…」と常に頭を悩ませているわけではない。
故に今作はあくまで「ベルファストという街の日常」を描いた物語である。
「チキ・チキ・バン・バン」を観るバディたちが空飛ぶ車の描写に驚愕するのは、私たちが…例えばUSJのスパイダーマンやハリー・ポッターの3D映像を観てキャーと叫んでいるのと変わらない。
窓ガラスが割れても車が爆発しても、生活がある以上、笑いはあるし、恋もするし、勉強も娯楽もある。
だからこそ、そんな当たり前の日常が何か訳の分からないものに侵されていくのはとてもやるせないし、決してあってはならないことだと改めて思える。
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