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スパークス・ブラザーズ (2021)

カルト的側面とポピュラーバンドとしての側面も持ち合わせた唯一無二の存在・スパークス。

スパークスだけだとハイコンテクストになりがちな要素を、エドガー・ライトが良い意味での大衆感覚を以て初めて見る人にも理解できるように落とし込んでいて、ものすごく見やすい。
夥しい数の過去のフィルムが作品の随所にインサートされるところをみても、かなりの映画/音楽ヲタクの彼らが相当意気投合したんだろうということが窺える。

バンドのイントロデュース的役割を担いつつも、マニアやファンへの目配せもバッチリ。
ベックやアレックス(Franz Ferdinand)、ジャック・アントノフ、ニック・ローズ(デュラン)&ジョン・テイラー(デュラン)(という紹介をされている笑。)といったスパークス影響下の人たちに加え、トッド・ラングレンやトニー・ヴィスコンティなどの大物アーティスト/プロデューサー陣、更にはスパークスの過去メンバーまでもインタビューに参加するなど、とにかく愛と熱量と情報量で溢れているのだ。

また、ドキュメンタリー作品にありがちな「全盛期に大部分の時間を割き、近年の活動はサラッとなぞるだけ」という形を取らず、可能な限り全キャリアを等しく扱おうとしていることも、愛を持って製作に取り組んでいることがヒシヒシと感じられる。

こんなにも音楽や映画に愛と熱量があって、それを形にできる能力と才能を持ち、更に堅実さと継続力をも持ち合わせた人間が兄弟として生まれたこと、
おまけにその二人がお互いをリスペクトする関係性を生まれてから現在に至るまでずっと続けられていること、これはもう奇跡を超えた何かであって、それをリアルタイムで味わえる我々はとても恵まれていると言わざるを得ない。

正直なところこのドキュメンタリー映画は、これから更に数百年かけて200枚くらいのアルバムを作る予定のスパークスにとっては、ほんの序章を取り扱っているに過ぎない。
だけども我々のような凡人が感動し、平伏し、心を揺さぶられるには、アルバム25枚分くらいでもう充分なものである。

だからこそメイル兄弟の揺るがぬ純真なる芸術への想いを、今作で一人でも多くの人間に目撃しておいて欲しい。まだギリギリ彼らの背中が見えている、今のうちに。

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