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よの5 なにか忘れたような気がする

なにか忘れたような気がする。
そんなときは往々にしてその時は気づかないが、後でやっぱり忘れていたと分かる。

不動産売買の決済を午前10時に控えて、なにか忘れたような気がするのだ。
いまいちど必要書類を念入りに確認してみるがやっぱり問題なさそうだ。

不動産売買の決済とは、不動産の売買代金支払いと所有権移転をする、売買においては最も重大な日である。
万が一書類が一つでも足りないと決済ができなくなる。
決済ができないと不履行で一大事に至る恐れもある。
金額が金額だけに緊張感も大きいのだ。

そんな私は不動産会社のしがない一社員で、場数もそれなりに踏んでいるつもりだが、それでもなにか忘れたような気がするのだ。

何度も確認しつくた書類だが、もう一度だけ確認してみる。
しかし、やっぱり問題はなさそうだ。

もしかして、お客様が忘れものをしてくるかもしれないということなのかもしれない。以前売主が実印を忘れて長時間全員で待機したり、直前に権利書がないと電話があり凍りついたことがある。
すぐさまお客様に電話をしてみたが、やっぱり何も問題なさそうだった。


一抹の不安と緊張感を持ちながら、私は決済に向かった。

しかしながら。
売主も買主も全く遅れることなく全員が開始30分前に集合し、決済はスタートした。
進行役の司法書士が手際よく双方の書類の確認をする。
忘れものや抜けも全くなく、すべてが順調に進んだ。
そして。
振込手続きから何から何までスピーディーに進み、終始円満で笑い声が絶えない中、決済は終わった。

何事もなかったと、私は思った。

いや、何事もなくて良かった。
私はほっと息を撫で下ろした。


私は仕事を終えて自宅に帰った。

そして。
服を脱ごうと、ズボンに手をかけようとして、
はっと気づいた。

あ、ベルトをするのを忘れていた。


やっぱり。
やっぱりそうか。

一抹の不安の原因がわかって心の底から喜びがこみあげてきた。

私の勘は間違っていなかった。
そして。

ベルトでよかったと。


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