かわわの

かわわ よのすけと申します。孤独とエルンスト・ルビッチとヘンリー・スレッサーと妻をさり…

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かわわ よのすけと申します。孤独とエルンスト・ルビッチとヘンリー・スレッサーと妻をさりげなく愛する、なんとなくショートショートライター志望の男性です。何卒笑ってお許しくださいますよう、深く御礼申し上げる次第でございます。

最近の記事

よの35 休みの前の日

私は不動産管理の仕事をしている。 わが社ではだいたい終業の30分前から片づけに入る。 終業時間は17時30分だ。 残業にならないよう上手く調整して終業時間ぴったりに帰るのだ。 そして現在の時刻は17時20分。 すでに調整時間内、秒読み体制だ。 残り9分。 残り7分。 5、4、3、2、1。 さあ帰宅だ。 そして明日は日曜日。休日だ。 休みの前の日の社内の雰囲気はすこぶるよい。 「おつかれ~」 「おつかれさん」 「おつかれさま~」 機嫌良くお互い声を掛けあうのだ。 帰路

    • よの34 黙買い

      久しぶりの休日の朝、妻と歩いて近くのパン屋に行った。 ドイツで修行をされた老夫婦が営む小さな店である。 こだわりのドイツパンが人気だ。 われわれはマスクをしながら、入口の消毒液で手を揉み、ドアを開けた。 ふと張り紙を見ると、「黙買いでお願いします」と書いてある。 われわれは顔を見合わせ、アイコンタクトでいこうというアイコンタクトをした。 中に入って妻がトレイとトングを持つ。 店内を見渡すと意外と品数が少ないことに気づいた。 どうする?と妻がアイコンタクトしてきた。 しょ

      • よの33 自称コーヒー好き その2

        コーヒー好きの私は最後のページを読み終え、ゆっくりと本を閉じた。じーんと込みあげてくる感動。閉じるのが惜しかった。 コーヒーを一口飲む。美味い。いい本を読み終えた後に飲むコーヒーは格別だ。 この本は2度目だったが、不思議と初めてかのような新鮮な気持ちで読めた。思いのほか内容を覚えていなかったのだ。おかげで同じ感動を再び味わうことができた。得した気分である。1冊で2度美味しいとはこのことだ。 私はコーヒーに黒砂糖を入れ味わいながら飲んだ。最初はブラックで、次に砂糖の塊を溶か

        • よの32 あ

          午前中、北村様と商談があった。 私は不動産会社の営業課長。 北村様は売主で取引が成立したのだ。 希望価格で売れてご満悦のはずの北村様だが、打ち合わせ中顔色ひとつ変えず淡々と話しを進めた。 実際、言葉数少なく表情の読みにくい北村様はやりにくい顧客のひとりであった。 無駄が嫌いで冗談が通じないタイプである。 北村様は端的に商談を済ませて帰り支度をしながら、 「この度はありがとうございます。希望通りになって本当に嬉しいです」 と本当に嬉しいのかどうか非常に分かりにくい表情で言

        よの35 休みの前の日

          よの31 洗濯干すやつ

          突然、名前が出てこないときがある。 この間も、妻が突然声をあげた。 「あの、あれ取ってくれる?あれ、なんだっけ、あれ」 「え?なに?あれって?」と私。 「あれ、あれ、なんだっけ、あの洗濯ばさみいっぱいついてる、名前ど忘れしちゃった」 「あれ?ああ、わかった、あれね」 私は妻の言葉と仕草からピンときた。 「あの、あれ、干すやつでしょ?」 「そうそう、干すやつ、あれなんて言ったっけ?なんかど忘れしちゃって」 「いつも使ってるあれでしょ。あれは・・、あれ?なんて言ったっけ。なん

          よの31 洗濯干すやつ

          よの30 沈黙のちから

          大好きなドラマがある。 毎週木曜日20時からの社会派ドラマ「カリスマ上司青田」。 はっきりいってハマっている。 主人公のダメ社員「山田」がカリスマ上司「青田」に導かれながら会社の新しいプロジェクトを次々と成功させていく、胸躍るサクセスストーリーである。 回を追うごとに面白くなってきて目が離せない。 夢中である。 特にカリスマ上司の青田がすごい。 口数が少ないのに説得力が半端ではない。 自分の思う方向へ自然と部下を導いていくのだ。 このドラマを見逃さないよう、私は毎週か

          よの30 沈黙のちから

          よの29 太麺と細麺どちらにしますか?

          とある手打ちラーメン店に入った。 台湾出身の店主が個人経営している小さな店だ。 注文を受けてから目の前で麺を手打ちしてくれるのだからラーメン好きにはたまらない。 麺はかん水(かん水とは、麺に腰を与え風味をよくする添加物のこと)を使わず小麦粉と塩とサラダ油のみで作る。伸ばして叩いてダイナミックに打つそれはまさに職人芸だ。 私は、台湾手打ちラーメンを注文した。 店主は注文を受け手打ちの準備に入る。 いよいよ職人芸が見れる。 すると店主は私を人情味あふれる笑顔で見て、 「太

          よの29 太麺と細麺どちらにしますか?

          よの28 研修中

          あるコーヒー専門店に入った。 チェーン店だが、豆と焙煎にこだわり、注文後に一杯ずつドリップしてくれる。種類も豊富だ。 コーヒーだけでなく、器やテーブル、音楽にもこだわりを感じる。サイドメニューでもケーキとピザ、特にチーズの種類と素材にこだわっているようだ。 メニューを開くと、聞いたことのない銘柄がたくさん書かれている。なじみのない専門用語で解説されているので、違いがよくわからない。いかにも専門店ですという感じだ。 「ご注文お決まりでしょうか」 若い女性店員に声を掛けら

          よの28 研修中

          よの27 あーびっくりした

          私の場合よくあることなのだが。 誰もいないと思って ひとりで事務所内で仕事をしている時に、 ふと人が現れると、思わずわーっと声を上げてしまうことがある。 こちらとしては全く予想していなかったので、 「あーびっくりした!」と、 思わず大声を出してしまうのだ。 脅かすなよ。心臓が止まるかと思ったよと。 ところが相手は、 驚いた私の大声に逆に驚いて、 「うわ、びっくりした!」となる。 そしてお互い 「いや~びっくりした~」となるのだ。 この場合、どちらのせいになるのだろ

          よの27 あーびっくりした

          よの26 申し訳ございません

          部屋探しで妻と、とある不動産会社に入った。 「いらっしゃいませ。本日はお部屋をお探しですね?ありがとうございます。こちらでお待ちください」 受付に案内され席で待っていると、 隣の席から「申し訳ございません」 という声が聞こえてきた。 なにやら男性客が声を荒げながら店員に文句言っている。ちょっとしたミスをなじっているようだ。 クレーマーかな。 私は思わず妻と顔を見合わせ、 ちょっと大人げないねと耳打ちした。 平謝りの店員。 男は怒りを抑えきれないといった表情。 ふ

          よの26 申し訳ございません

          よの25 霊感がある

          会社の同僚、荒島しず子の部屋探しに たまたま付き合わされるはめになった。 候補の物件は3つ。 私はドライバーとして駆り出された。 3つの物件のうち、一番最後に見た部屋が一番条件が良かった。家賃も場所も設備も文句ない。 しかし。 荒島しず子は部屋の一点を見つめ、顔を歪めながら、この部屋は駄目とつぶやいた。 え、なんで?と言いかけたその時、彼女は、 「わたし、そういうの感じる人なの」と言った。 え?そういうのって・・。 もしかして、荒島ってそういう人だったの? 当然

          よの25 霊感がある

          よの24 私がこの仕事を選んだわけは

          私がこの仕事を選んだわけは、幼い頃からの夢でも憧れの誰かの影響でも、なんでもない。好きだからでもやりがいを求めたからでも全くない。 お恥ずかしい話、数々の面接にことごとく落とされて、最後にかろうじて採用されたから、だけなのである。 それがたまたま不動産会社だったということである。 三十過ぎてもフリーターだった私を採用してくれた唯一の会社。 そういう意味では非常に感謝をしている。 もっとも入社してからは、不動産のふの字も知らず、そもそも社会人としてまともに働いたこともな

          よの24 私がこの仕事を選んだわけは

          よの23 あうんの呼吸

          他人からみて我慢できそうに思えることが当人にとっては我慢できないということがある。 分かってもらえない我慢はよけいに辛かったりする。 山崎さんは一年上の先輩で、私はいつも彼とチームを組んで仕事をしている。 ところが、山崎さんとは、いつもなにかタイミングが合わないというか、常に山崎さんが半テンポ遅れているような気がして、それがなにか妙に気になってしまうのだ。 これが息が合わないということなのだろうか。 他の人と組んだときはなんでもない。 そしてもちろん山崎さんが仕事が出来

          よの23 あうんの呼吸

          よの22 じゃんけんで負けた方が

          普段苦もなくやっていることが突然めんどうくさくなってしまうことがある。 なぜだか理由はわからない。 でも一度めんどうくさいと思ってしまうと、なかなかエンジンがかからないものだ。 ただただ、めんどうくさいだけなのだ。 そんな時でも、一度エンジンが掛かりさえすれば、あとは案外スムーズにいく。 何かスターターの役目さえあればいいのだ。 我が家(といっても妻と2人暮らしだが)では、そんな時、こう相手に持ちかける。 「ねぇ、じゃんけんで負けたほうがやらない?」 めんどうくさく

          よの22 じゃんけんで負けた方が

          よの21 無駄遣い

          妻との論争は皮むき器から始まった。 私はベランダで干し柿を作るため、独りネットで便利な皮むき器を探していた。 いろいろと物色の結果、自分のなかでは結局普通のピーラーでいいんじゃないか、となった。 我が家には3年前に買った赤色のピーラーが眠っている。当時私がデパートで、グットデザイン賞に引かれて買ったが、使いづらくて全く使っていない。 当時、妻になんでこんな使いづらいの買ってきたのよ、とさんざん怒られた。妻は京セラのセラミックのピーラーを買いたいと思っていたらしい。 試

          よの21 無駄遣い

          よの20 とはいえ

          5年振りに友人と偶然ばったり遭遇した。 友人といっても、それほど親しかったわけではない。 以前同じ職場で隣の課だった、知ってはいるという程度の関係。 そんな微妙な間柄の友人と、プライベートで、しかもちょっとレアな場所で、しかも5年ぶりに偶然逢った。 私は妻と二人。 友人は奥さんと2,3歳くらいのお嬢さんの三人。 友人と私は目が合い、お互い思わず小さく 「あ・・」と声を出した。 一瞬、間があったが、 「あれあれあれ。どうして?」 「いやいやいや。久しぶり!」 二人

          よの20 とはいえ