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今回のおすすめ本 クセノポン『アナバシス 敵中横断6000キロ』


みなさんこんばんは📚
今回おすすめするのは、クセノポン『アナバシス 敵中横断6000キロ』という本です!

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アナバシスとは「上り」を意味する単語であり、転じて「進軍」を意味する単語となります。


巻一 サルデイスからクナクサまで(前四〇一年三月−九月)

 ペルシア王ダレイオス2世にはアルタクセルクセスとキュロスの兄弟があり、弟キュロスの方が優秀で若くしてアナトリア総督に就きます。兄が王位に就く(以下、大王と呼びます)と弟キュロスは謀反の志があるとして処刑されそうになりますが、母パリュサティスの嘆願により許されることとなり、アナトリア総督に再び就きます。キュロスは大王を討つために兵を密かに集め、実際に謀反を起こすことを考えます。キュロスは人徳があり、他民族(主にギリシア人)もキュロスに従うことになります。準備が整ったキュロスは他民族を駆逐する口実を作り挙兵を行いますが、この動向に違和感を覚えたティッサペルネスにより大王に報告され、対抗準備を始めます。
 キュロスはサルデイスから出発しますが、途中で兵士たちに支払う給料が足りない事態に遭遇したり、自分のもとから離れてギリシアに帰ろうとするものが出たりと、進軍に当たって困難に直面します。しかし、キュロスはその人徳を遺憾なく発揮し、兵士の心を掴むことに成功しました。軍隊の右翼にはメノン、左翼にはクレアルコス、中央はその他の指揮官が就きますが、メノンとクレアルコスの部隊が喧嘩を引き起こした際にはキュロスご仲裁に入るなど、一筋縄では行かない部隊構成になっています。
 クナクサに辿り着き、兵力で勝る大王が十日間戦いを挑んでこなかったことから、キュロスは王が戦う気がないと判断します。しかし、大王の軍勢は奇襲し、キュロスは対抗するものの討ち取られてしまいます。後方にいたギリシア兵たちはキュロスの戦死を知らずに自陣に戻っていきます。

巻ニ クナクサからザパタス河まで(前四〇一年九月−十月)

 キュロスの戦死を戦場から逃れてきたアリアイオスの使者によって告げられたギリシア軍は落胆することとなります。残されたギリシア人上層部はアリアイオスを王にしようと考えます。そこへ大王の使者であるパリノスが訪れます。大王の伝言としては、①大王の配下に加わること、②ギリシア軍が進軍もしくは退軍した場合は戦争をする(留まっている間のみ休戦)、というものでした。これに対し、ギリシア軍のクレアルコスは②の内容をそのまま大王にも返すように伝えています。
 クレアルコスは休戦の申し入れを受け入れ、大王の使者であるティッサペルネスによってギリシアまでの帰途を支援してもらえる算段がつきます。しかし、ティッサペルネスが自領へ帰るために準備をするといって戻ってから二十日も経ち、ギリシア兵には大王が攻めるために準備をしているのではないかという疑惑が募っていきます。そんな中ティッサペルネスは準備を整え引率することとなりますが、互いに不信を感じ一定の距離を取って行動しています。ティッサペルネスとクレアルコスは両陣の不信を払拭するために会談をし、翌日クレアルコスとともにギリシア兵の指揮官・隊長等二十人がティッサペルネスのもとへ来訪しに行きます。そこでティッサペルネスの策によって指揮官たちは逮捕され、隊長たちは斬殺されてしまいます。そしてともに来ていたギリシア兵やそこにいたギリシア人と目される人たちはペルシア兵によって皆殺しにされてしまうのでした。そして裏切り者には王にしようと考えていたアリアイオスがいたのでした。

巻三 ザパタス河からカルドゥコイ人の国まで(前四〇一年十月−十一月)

 本巻からは作者であるクセノポンが中心になっています。クセノポンが行ったことは、残された部隊から各隊長を選出し、部隊再編を行い大王の軍から逃げる算段をつけることでした。クセノポンは綿密に計画を立て、部隊を再編成することに成功しました。そこへアリアイオスと同様大王に寝返ったミトラダテスが訪れ、奸策を練っていることがわかりました。ギリシア軍が行軍しているとミトラダテスは攻撃をしてきますが、すぐに対策を講じて反撃に成功します。また、後日ティッサペルネスも攻撃してきますが撃退に成功します。その後もペルシア軍との交戦があり、山中に住むカルドゥコイ人(クルド族の先祖)の地域に進入し、そこから西方にあるアルメニアを目指すことにします。これはアルメニアが広大な土地であり、行軍するには便利だからでした。

巻四 カルドゥコイ人、アルメニア人、タオコイ人、カリュベス人、スキュテノイ人、マクロネス人、コルキス人等の国を経てトラペズスに到着するまで(前四〇一年十一月−前四〇〇年二月)

 本巻では、ペルシア人だけでなくカルドゥコイ人等との交戦が記されており、行軍の難航がうかがえるものとなっています。主にケイリソポスとクセノポンが中心となって兵を鼓舞して回っている様子が描かれます。この両者は方針の違いがあると口論したりもしますが、基本的には協力して戦局を有利に進めています。途中で道案内をしてもらった村長に逃げ出され、本来なら三週間でトラペズスに到着するはずだったのが、廻り道をして一月半ばかり遅れることになります。黒海に近づき、山頂から海を見たギリシア兵たちが叫んだり泣きながら抱擁したりしている様が述べられていることから、ギリシア人にとっての海がいかに重要であったかがわかります。

巻五 トラペズスからコテュオラまで(前四〇〇年三月−五月)

 本巻冒頭では、レオンという人物が陸路ではなく海路で帰国したいと言い、他の兵士も同調します。これを聞いてケイリソポスは知り合いの水軍提督に船を調達してもらうよう頼んでくるといい、早急に出帆することが議決されます。クセノポンはケイリソポスが船を調達できなかったときのことを考えて現地(トラペズス)で船を入手することを提案しています。
 トラペズスに滞在している間、食糧を手軽に入手できなくなったため、トラペズス人が手痛い目に合わされていたドリライ人の領地を攻めて掠奪することとなります。ドリライ人の抵抗もあって本拠地を陥落させることはできませんでしたが、当初の予定だった食糧を確保することに成功しました。しかし、ケイリソポスは帰らず、船の数も揃わず、食糧も入手困難となったため、病人・女性・子ども・四十歳以上の者を船に乗せ、それ以外は陸路でギリシアを目指すことにします。コテュオラはシノペに帰属している町であり、シノペからの使者が訪れるまで市場を提供せず城壁内に傷病者を受け入れることはありませんでした。シノペの使者をクセノポンが説得させ、協力を取り付けることに成功します。そして今後の旅程について情報をもらうことができたのでした。結果としてはコテュオラからは海路を選ぶこととなります。
 本巻の後半ではクセノポンを陥れようとする人が複数現れますが、言葉で相手方の意見を挫いています。ソクラテスの弟子であることがうかがえる場面だと思います。

巻六 コテュオラからクリュソポリスまで(前四〇〇年五月−六月)

 本巻では、コテュオラから船を使って出航してからの旅程が記されます。なぜかしれっとケイリソポスが戻ってきています。シノペを経由してヘラクレイアに至った時、ヘラクレイアにリュコンとアゴシアスを派遣しますが、総指揮官ケイソリポスやクセノポンが考えていた伝言に威圧的な言葉を並べたためにヘラクレイアはギリシア兵を締め出してしまいました。これをスパルタ人ケイソリポスとアテナイ人クセノポンのせいにしたリュコン等アルカディア人・アカイア人は袂を分かつこととります。ここでギリシア部隊はアルカディア人、ケイリソポス、クセノポンの三つに分割してしまいました。その後別々に行軍していますが、アルカディア人がトラキア人との戦いで部隊の一部が戦死してしまいます。そこへクセノポンの軍が応援にかけつけたことでクセノポンとアルカディア人の軍は合流することができたのでした。
 カルぺ港ではなかなか出発の卦に吉が出なかったために滞在期間が長くなっています。その間にクレアンドロスと一悶着あり、最終的には賓客の契りを結びクリュソポリスに向けて出発することとなりました。

巻七 ビュザンティオン。トラキアのセウテス王の許でのこと。ギリシア軍、ペルガモンでティブロンの部隊に加わる(前四〇〇年十月−前三九九年三月)

 トラキア王セウテスがクセノポンに軍を貸して欲しいと頼んできます。理由としては、故国を取り戻したい(王権を取り返したい)というものでした。クセノポンは報酬を聞き、友誼を確認します。セウテスに打診される前にはアリスタルコスによって別の案が提示されていましたが、クセノポンはセウテスに味方しアリスタルコスと敵対することとなります。
 セウテスともに軍を進めたクセノポンでしたが、例の如くクセノポンを快く思わない者に嫌がらせを受けています。なんとか凌いでいたものの、セウテスが払うべき給料が滞っていることから、ギリシア兵士はクセノポンのせいだと思い、セウテスも給料をうるさく催促するクセノポンを邪険に扱うようになっていきます。二ヶ月経った頃に、スパルタ軍がティッサペルネスを討つことを決め、クセノポンの部隊を借りようと訪れます。セウテスや側近のヘラクレイデスは厄介払いができると考え、クセノポンを弾劾させるように仕向けます。ここでもクセノポンは自分の言動が正しいことであることを論説し、理解してもらうことに成功します。騙されるギリシア兵もどうかと思いますが、冷静に対処するクセノポンが強調されていますね(誇張ではないと思いますが)。この後にクセノポン達はスパルタ軍に雇われることとなります。
 ペルガモンに至っては占いの予言通りに財産を得ることにつながっています。そしてティッサペルネスとパルナバゾスに対して戦いに臨むところで本作は終わっています。


当時の社会を現在の価値観で判断するのは好ましいものではありませんが、作中には奴隷や掠奪が当然のものとして描かれていることから、嫌悪感を抱く人は多いかもしれないと感じます。また、行軍をする際や重要な行動を起こす際には占いに頼っていることも現在ではあまり馴染みがないものですね。


是非お手に取って読んでみてください☕

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