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2020年5月の記事一覧

聖水少女24

カクヨム

 しかし天花は如何なる手を用いて香織の尿問題を収めたのか。その点、母も気になるところであろうから、疑問を伺うのは自然な流れであった。

「でも、どうやって」

 やや不安な気配を匂わせそう問う。望むは懸念、疑念の払拭であろうが、天花の答はいまひとつ据わりが悪いものであった。

「それは言えません」

 出されたのは秘匿。母はますます訝しむ。

 もしかしたらでまかせ

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聖水少女23

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403

 食卓を挟んで対面する二人は初めて邂逅した日と同じ構図であった。

「あ、美味しいです」

 出された料理を摘み口に運んで咀嚼し飲み込んだあと天花は賛辞を述べたが特筆すべきは彼の箸使いで、その見事な手捌きは人様の宅に邪魔をしても恥ずかしくない作法である。以前に菓子を鯨飲していた人物とはとても思えな

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聖水少女21

カクヨム

 母は物陰からひっそりと香織を見ていた。
 何度か声をかけようとする素振りは見せたが動けず、娘の孤独を助けられずにいる。なんと言えばいいのか。香織は自分の声に耳を傾けてくれるのか。そんな不安が、彼女を怯えせたのだと思う。
 父は宅を出て行きしばらく経つ。どこぞ、馴染みの飲み屋にでも行き愚痴を零しているのだろう。寝床を決めているかは定かでないが、ご丁寧に着替えまで持っていったあたり帰宅は

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聖水少女20



https://note.com/kawatunaka/n/nae0353b19416

カクヨム

https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054894480403

 母と父の言い争う声が聞こえ出したのはそれからすぐだった。父が罵り、母が反するという事が延々と繰り返される不毛な時間が長く続き、終いには互いの欠点を論え激昂するという出口の見えない無益な傷つけ

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聖水少女19



https://note.com/kawatunaka/n/n6baf9bf09f97

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403

 変わらず部屋は暗く静かであった。
 香織は依然、布団の中で一日を過ごす生活を送っている。人として入浴と歯磨きは欠かせず不潔ではなかったが、櫛を入れない髪は乱れ、砥がれない爪は形が覚束ない。

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聖水少女18



https://note.com/kawatunaka/n/n1a1bf2c99109

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894480403

 母に言われた通り、天花はゆっくりと菓子を頬張り和かに笑う。

「いや、味わってみると確かに、大変美味しいです」

「そうでしょう。舶来物なんですよ」

 落ち着きを取り戻した母は笑顔を

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