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「メンやば本かじり」それでもなお編

 先日、近所のスーパーで自動ドアが開いた瞬間に

「ああ、タヒにたいわ」

 とわりと大きめの独り言をこぼしました、どうも、川勢です。

 みなさん、いかがお過ごしですか?

 メンタルがやばいみなさん、今日も救いを求めていませんか?

 そんなとき、ぜひとも読んでいただきたい本がある。

 それはケント・M・キースによる『それでもなお、人を愛しなさい』だ。

この世界は狂っているということをまず認める、そこから始めるのが最善です。

『それでもなお、人を愛しなさい』(早川書房)ケント・M・キース著大内博=訳

 ちょっと吹き出してしまったが、本書はまったくもって大真面目にこの言葉を語っている。そうなのだ。吹き出してしまった私がいかに愚鈍であるかということを知らしめすかのように「狂っている」ことを列挙する。

私たちは、まるで資源が永続するかのようにふるまい、資源を補おうとも、持続可能な未来を築こうともしていません。
核軍縮は進んだものの、いまだに何万個という核弾頭が地球に存在しています。これは地球上に存在する男性、女性、子どものすべてを三回か四回殺すに充分な数です。(…)
現在、地球上のすべての人が充分なカロリーを得られるだけの食物が生産されています。しかし、毎年、何十万という人々が餓死し、十億人以上の人々が深刻な栄養失調の状態にあります。

同上

 うああー申し訳ございませんでした!!

 そうですよね、まったくもってその通りですよね。おかしいやん、この世界。

 なのに、あたかも当たり前のように生きていたわ。あ、でもさ、間違いだらけの世界で平気で生きていられるのは、そもそも人間そのものが間違いだらけなんだから仕方がないんじゃない? ほら、可謬主義ってあるし。

 よっしゃ、解決。

 私たちは間違ったまま明日も生きていくのさ──って、違う! こういう短絡的な人間から脱却したくて救いを求めていたんや!

 おかしいことにはどこかで気づいているから、生きづらい世界だと感じたり、塞ぎ込んだりするわけで。気づかず生きているのではなく、気づいたけど間違ったジェットコースターから降りる方法を知らないだけなのである。自らの努力で方法を探し脱出した人も、いつか自動で止まってくれるのを待っている人も、「止まる方法はある」ということは知っている。

 気づいたなら行動すべきだという声が聞こえてきそうだが、何の知識もなく無理矢理素手でジェットコースターを止めようとしたら、そりゃもうホラーだ。大惨事だ。

 では、どうしたらいいのか。そこを本書が10ヵ条で示してくれる。

 まずは1条を紹介しよう。

1 人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。
  それでもなお、人を愛しなさい。

同上

 あっ、ごめんなさい、と謝ってしまったではないか、キース氏よ。私はまったくもって合理的でないし、理解力は脆弱だ。こんな私を愛せと言っている気になり慙愧に堪えない。なので、この部分は私に関してのみ自己反省となるが、「川勢に反省されましても」って感じなのだろうから、もう少しキース氏の言葉を引いてみよう。

チャールズ・シュルツの漫画『ピーナッツ』の主人公の一人、ルーシーが言ったことばがあります。「私、人類は大好きなんだけど、がまんできないのは人なのよ」

同上

『ピーナッツ』が世界中から愛される理由は、スヌーピーをはじめとするキャラクターの見た目の愛らしさもあるが、彼らの言葉にするりと共感できるのに、なかなか自力では捻り出すことのできない絶妙な表現力があるからだろう。

人は確かに一筋縄ではいきません。簡単には好きになれない人もいます。中には、あまりにも不合理で、わからず屋で、わがままで、がまんできないような人もいます。しかし、それでも、私たちはそういう人を愛すべきです。

同上

 なぜそういう人たちを愛すべきなのか。もしくは、すでに愛する人だとしてもがまんできない部分まで愛するべきなのか。本書は愛する価値がないと決めつけるのは悲劇だと語る。愛は価値があるないなどはなく、誰にでも欠点や短所はあるものだし、誘惑に負けることもある。それなのに、常に愛される価値を相手に求めるのは、厳しすぎるのではないか。欠点があっても、成長し、もっと良い人間になろうとする希望や願望の源は愛だと本書は示す。そもそも愛ありき、なのである。

与えるにしても、受けとるにしても、愛ほどすばらしい贈り物はないのですから。(…)愛を制限すれば、人生を制限することになります。

同上

 1条の最後を本書はこう締めくくる。
 

愛という贈り物を与えてください。受けとってください。そうすることによって得られる限りない意味を楽しんでください。

同上

 さて、次は一つ飛ばして3条。え、なんで飛ばすんやと思った方。ぜひ、『それでもなお、人を愛しなさい』を購入してください(早川書房さんの書籍が売れても川勢に一円も入ってきませんが、売れたらまた良書を出してもらえるのでぜひに)。

3 成功すれば、うその友だちと本物の敵を得ることになる。
  それでもなお、成功しなさい。

同上

 以前、Twitter(現X)にて、「クソリプがついた。自分も認知度があがったということか」とある有名な文筆家の先生が投稿していた。有名になると大変だな、こうやってクソリプにマジレスすることなく、いなしていかなければならないんだな、と思っていた。だが、本書の3条を読み、クソリプを投稿する人って「あなたは成功者なんですよ」という勲章をわざわざ贈りにいっている人なのでは、と思ってしまった。成功している人たちは、成功したらアンチに絡まれるから成功しなきゃよかったなんて思わず、もらった勲章のかたちにも色々あるんだなくらいで流す方法を会得しているのかもしれない。

 とはいえ、流せるクソリプ程度では済まない場合もあるだろう。 

成功すると本当の敵をもつことになるのです。あなたが成功したために成功できなかった人、あなたが勝ったために負けてしまった人、あなたをライバルとみなしていて、あなたに出世してほしくないと思っている人、誰であれ成功者を苦々しく思い、何とかして攻撃しよう、少なくとも恥をかかせる手段を見つけようとしている人などです。

同上

 ちなみに、私はまったく成功とは無縁だが、それでも攻撃してくる人はいる。本書では成功者の話としているが、成功とは関係なく攻撃されたときの精神安定方法として誰でも使えるのでは、と思ったので川勢と同じく成功者の部分は飛ばして読んでも大丈夫だと思われる。

このような敵に対処するための簡単な方法をいくつか紹介しましょう。第一に、彼らの行動をあなたへの個人攻撃と考えないことです。

同上

 そうなのである。相手は、攻撃されるお前だけが駄目な人間なんだと言ってくる。実は、私もまさか社会人になってそんなことを言われるとは、と思うような悪口を言われたことがある。その人は、「あんたは不要な人間だから、私がみんなの代わりに攻撃してあげてるのよ」みたいなことを言ってくる。だが、彼女は過去にも人を精神的に追い詰めた話があり(とはいえ、かなりのおおごとな話なので真偽のほどはわからない)、私に対する言葉は私以外にも投げていた可能性がある。
 悪口を言われ続けると、自分だけが特別駄目な人間に思えてくるが、実はそんなことはないのだ。攻撃してくる人は、あなたがいなければ他の誰かを攻撃している。無差別テロとほとんど同じだ。

 さて、こんな私の話はともかく。本書は二つ目の素晴らしい対処法も教えてくれる。

二番目はコツです。誰かがあなたを敵とみなしても、あなたはその人を敵とみなす必要はないということです。(…)心を開いて、攻撃してくる人を公平に扱いなさい。彼らの言うことに耳を傾け、適切であると思われるときには、彼らに目を向けるとよいでしょう。何かを学ぶことができるかもしれません。

同上

 ここも私の話で悪いのだが、私を攻撃してくる彼女はその反面、他の人には気づかいができている、と感じるときがある。そして、その気づかいは勉強になるな、私を嫌わない人のところでいつか使いたいな、と密かに思うこともある。こんなふうに思えたのは、本書と出会ったからだ。良書との出会いは大事だ。

 本書は最後に大切な言葉をくれる。

私たちがやることを誰も知らなくても、誰も評価してくれなくても、それは問題ではありません。そんなこととは無関係に、私たちは正しいことをしなければなりません。これは自分の問題であって、他人の問題ではないのです。これは私たち自身がどれだけ気にするかという問題であって、他の人がどれだけ気にするかという問題ではありません。

同上

 昨日、すごく久しぶりに「生きていたらきっと良いこともある」という言葉を耳にした。昔の私なら、そんな軽い言葉を言われましても。あなたはきっと幸せな人なんですね、くらいで心を閉ざしていただろう。だが、本書を読んでいた私は「生きていたらきっといつか良いことがある」と言える人は、きっといつかのために私なんかの何百倍、何千倍も努力し、ときには失敗もするがそこで諦めて腐らず学びを得て、百の苦しみの中のたった一粒の喜びを「良いこと」と喜んで受け入れられる人なのだと思った。

 さて、冒頭の私に戻ろう。スーパーにて自動でドアを開いてもらい、空調の効いた、なおかつお金を出せば(とはいえ僅かだが)新鮮な食べものを得られる環境にある私は、消費ばかりして「ああタヒにたい」とかほざいていたのだ。

 もう少し、私はやることがあるのではないか。ここまで無能で無価値な人間は私以外にいないが、もしあなたが駄目だと思ったとき、それがましてや他人から駄目だと言われたとき、まずは自分と向き合うために本書を開いてみるのはどうだろう。
あなたならきっと、自分の良い部分を見つけられるはず。


◾️書籍データ
『それでもなお、人を愛しなさい』(早川書房)ケント・M・キース 著 大内博=訳
難易度★★☆☆☆ 苦しいときに必要な言葉がぎっしり

たまに『◯◯の10ケ条』と冠する書籍で、10の言葉以外は、ほとんど何も書かれていない画面が白い書籍とは違い、本書はなぜその10ケ条が必要なのか筆者の体験も交えてかなり細かに説明してくれる。辛いときに何度も繰り返し読んで助けてもらっている書だ。


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