「メンやば本かじり」失わないと手に入らない編
メンタルがやばいとき、自分は何もかも失った気分になる。
この世界から受け入れられていない、価値のない存在に思える。
そんなときは、自分よりももっと、想像もできないほど何もかも失った話を読むといい。
今回は茶番劇もなくさくっと進むよ。まあ、それだけ情緒不安定ってことやね。
というわけで、今日紹介したい書籍は、失うことの大切さを教えてくれる恒川光太郎氏による『夜市』だ。
夜市を知らせるのは、蝙蝠だ。しかも風にのって多くの商人が現れるらしい。
この部分だけで、夜市が非日常的な「何か」であることがわかる。
夜市は誰でも入れるわけでなく、しかもある条件を満たさないと出ることもできない。
こんな市場へ訪れることになるのは──。
大学二年生のいずみは、高校時代の同級生である裕司のアパートへ向かっていた。
裕司が高校を中退してからそれきり会っていなかったが、去年いずみがバイトをしているレストランにたまたま裕司が訪れ、そこから連絡をとるようになっていった。
ある日裕司が、一人暮らしをしているアパートへ来ないかといずみを誘う。あまり深く考えずに承諾するいずみ。裕司に対して、特別な感謝はないものの、異性としての魅力を感じないわけでもなかった。
もしかすると、二人でお酒を飲んでいい雰囲気になるかもしれない。そんなことを考え、裕司の部屋のベルを鳴らす。
出迎えてくれた裕司は、心なしか暗い。しかも、お酒を飲むどころか、コーヒーを出し彼はこんなことを口にする。
甘いカクテルでも飲んで部屋でまったりと過ごすいずみの想像はことごとく外れ、しかも市場に出かけようと裕司はいうのだ。
こうして、二人はアパートからタクシーに乗り、岬にある公園の駐車場で下車する。
人気のない駐車場に連れて行かれたら、私だったらかなり不安になりそうだ。
もちろん、いずみもそうだった。
どんなものでも手に入る市場。それはもう人間の領域を超えている。
店の雰囲気も普通でないなら、売っているものもまた然り。
老化を遅らせる薬や、体が鱗で覆われている鳥、世界中の草を置く店──。ただし、どれも有料だ。
こんな夜市に、裕司は以前訪れたことがあるという。
小学生のとき、彼は夜市を訪れていた。そして幼い裕司の目にとまった品は、子どものお小遣いなんかでは到底買える品ではなかった。
どうしても欲しい。でも買えない。
このとき、裕司は弟を連れていた──。
本書は市場の話だが、手に入れることではなく、失うことがテーマになっていると私は感じた。
失ったあと、いったい人はどう行動するのか。
失ったもののことなど忘れるか、失ったものを求め、そこに固執するあまり、また違ったものまで失うか。
あるいは、失ったものを忘れることなく、失った時間やおもいを糧にし、失ったことも、今後また失うことをも受け止められるだけの自分になっているか。
私はどうするだろう。
あなたは、どうですか?
まずは『夜市』を読んで、失ったものへの向き合い方を考えてみませんか。
◾️書籍データ
『夜市』(角川文庫)恒川光太郎 著
難易度★☆☆☆☆
角川から出た新シリーズ100分間で楽しむ名作小説。字が大きく、ゆっくり読んでも100分で読了できてしまう。普段読書をしない方でも、楽しんでもらえるシリーズ。
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