「おいでやす不良少女団」
「うっそ、やば。これまじで私のことじゃん」
と、夢野久作『少女地獄』を読んで思わず叫んだ少女は、今この令和の時代にどれほどいるのだろう。
ま、あんまおらんやろ。※個人の感想です
しかし、夢野久作の時代、つまり『少女地獄』(『かきおろし探偵傑作叢書』第1)が刊行された昭和十一年(一九三六年)ではどうだったのだろう。
確かに大人たちの混乱ぶりしか見えない。どうやら『少女地獄』の姫草ユリ子はワープ・ドライブにより地球に舞い降りた異星人、というわけではなさそうだ。大人を困らせる子供はいつの時代にもいるものだが、当時は第二第三の姫草ユリ子がいても不思議ではない状況だった。では、他にはどんな「少女地獄」があったのかしら。
そんな興味が湧いたそこのあなた、面白い本がありまっせ。
そこで今日ご紹介したいのは、平山亜佐子さんによる『明治・大正・昭和 不良少女伝』(ちくま文庫)だ。ちなみに、上記の引用文も本書からである。
さてさて、それにしても不良とは一体なんぞよね。
なるほど、なるほど反抗期ね。
ただ、一般的な子供たちの反抗期がキャッチボール程度だとすると、不良の反抗期は「ハスハシャうんダァ○△×□!!!!」って叫びながら金属の塊を全身全霊で投げ飛ばすハンマー投げレベルやね。それ、ミット装着していても手首もっていかれてまうやん、みたいな。
こいつは大変だ(真顔)。
そんな不良少女、集団生活には馴染めないとはいえ、集団をつくることは嫌いではないらしい。
時は大正十三年、関東大震災の一年後、宮沢賢治の『春と修羅』が刊行された年。ハート団なる不良少女グループが、丸の内を跋扈していた。密淫売を盛んに行い、丸ビル内を出入りする青年を弄び、金品その他を奪い取っていたという。もはや、私の中で不良という域を越えている気がするのだが。
ハート団を率いるのは、ジャンダークおきみこと、林きみ子(一九)。
ジャンダークとはもちろんジャンヌ・ダルクのこと。え? 不良にジャンヌ・ダルク?
当時のジャンヌ・ダルクのイメージとはどういったものだったのだろう。
明治三四年刊行 勁林園主人 編『ジャンダーク』(東洋社)の冒頭によると
とある。
外面如菩薩内心如夜叉は、見た目は菩薩のように美しいのに内心は鬼、という意味だ。では、内心海月はなんだろう。海にうつる月のようにぼんやりしているということだろうか。それにしても、随分とおきみは見習い方を間違えたらしい。いや、別に本人が付けた訳じゃないだろうけどさ。
ジャンダークおきみ達による密淫売と強奪も凄まじいが、この頃の少女たちの暴挙は他にもある。女中見習いとして入った家で金を盗み、盗んだ金で人力車に乗り芝居見物に行く一八歳、十三歳にして強請る少女、短銃でイタリア人男性へ発砲する十六歳などなど。
これがカードバトルゲームなら、誰が激レアカードか私には判断しかねる。なかなかの強者揃いだ。
などと、ここにあげたのはごく一部。『明治・大正・昭和 不良少女伝』には、これ完全に小説のネタになりそうじゃんね、という話が盛りだくさんだ。創作のネタを探している方、ちょっと刺激が欲しい方、いま熱中するものがないのよねーって熱を求めているそこの少女! 自分でやったら犯罪だが、他人の、しかも過去の話を読むのはなんの罪も無い。
ささ、どうぞどうぞ、あなたも不良少女団へ、おいでやす。あくまでも本の中だけで、ね。
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