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プラスミドゲート事件について #4

引き続き、『プラスミドゲート事件』についての記事を書いていきます。

Kevin McKernan氏の行った実験によって、「mRNAワクチンには多量のプラスミドが含まれている!」という衝撃の結果が示されたことが発端となり、その名が付けられた『プラスミドゲート事件』ですが、その後、少しずつ論点が変わってきました。

東京大学の新田剛先生は、正規のルートで入手したmRNAワクチンにプラスミドが含まれるかどうかを調べるための実験を行いました。
Twitter上では、その実験手法の正否について激しい議論が交わされているようですが、新田先生の実験手法を疑う人・否定する人は、『異端』であり、少数派です。少なくとも、現役の研究者ではないでしょう。

新田先生のとった方法は、私たち(普段プラスミドを扱ったり、DNAを定量したりする研究者)が考える一般的な方法です

新田先生は、一般的な方法で、mRNAワクチンに検出可能なプラスミドは含まれていなかったことを、(暫定的に)明らかにした訳ですが、事の発端となったKevin McKernan氏が、Twitterで、「彼(=新田先生)はプラスミドに着目していますが、私たちは『dsDNA』に焦点を当てており、プラスミドはほとんどないと考えています」という考えを明確にしました(5/4時点)。

He is focused on plasmids. We are focused on dsDNA and think there is very little plasmid. He’s focused where we know there is little DNA and ignoring the bulk of the problem.
We are very clear in our preprint that the linear to circular ratio is currently unknown.
訳)彼(=新田先生)はプラスミドに着目しています。私たちは『dsDNA』に焦点を当て、プラスミドはほとんどないと考えています。彼は、DNA(=プラスミドDNA)がほとんどないことが分かっているところに焦点を当て、問題の大部分を無視しているのです。
私たちはプレプリントで、直鎖状と環状の比率は現在のところ不明であることを明確にしました。

なるほど!mRNAワクチンにはプラスミドが(ほとんど)含まれていないのですね!!
これにより、『プラスミドゲート事件』の名前の由来となった「mRNAワクチンにプラスミドが多量に含まれているかどうか」という最初の論点には、決着が付いたように思います。(Twitterで、未だに「プラスミドガー!」と言っている人には、McKernan氏のこのツイートをバシッと貼り付けてやりましょう。)

では、次の論点に移ります。
Kevin McKernan氏の言う『dsDNA』とは一体何でしょう?

He is focused on plasmids. We are focused on dsDNA and think there is very little plasmid.
訳)訳)彼(=新田先生)はプラスミドに着目しています。私たちは『dsDNA』に焦点を当て、プラスミドはほとんどないと考えています。

dsDNAは、『二本鎖DNA(Double-stranded DNA)』を意味します。相補的な2本のDNA鎖の作る『二重らせん構造』のことは、知っている人も多いでしょう。

DNAの二重らせん構造(画像:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:DNA_Overview.png#/media/ファイル:DNA_Overview.png)

プラスミドもdsDNAから構成されます(正確には、環状のdsDNA)。
しかしながら、Kevin McKernan氏は、「mRNAワクチンには、プラスミドではないdsDNAが含まれている」と主張している訳です。どういうことでしょう?

ここで、mRNAワクチンの製造工程を解説したいと思います。
プラスミドからmRNAワクチンに含まれるRNAの合成は、4つのステップに分かれています。ステップ①と③が特に重要ですので、その2つに焦点を当てます。

① 制限酵素によるプラスミドの切断(リニアライゼーション)
② RNA合成
③ DNase Iによるプラスミドの分解
④ RNAの修飾

ステップ①「 制限酵素によるプラスミドの切断(リニアライゼーション)」
いきなり『リニアライゼーション』という難しい専門用語が出てきてしまいましたが、リニアライゼーション(Linearization)とは、dsRNAの特定の配列を認識して切断する酵素である『制限酵素』を用いて、環状のプラスミドを一本の線にすることを言います。

プラスミドのリニアライゼーション

RNA合成は、プラスミドに含まれる『T7プロモーター』と呼ばれる配列にT7 RNAポリメラーゼが結合するところから始まりますが、プラスミドが環状のままだと終点がありませんので、RNAポリメラーゼはプラスミド上をグルグルと回ることになってしまいます。

(画像:https://assets.thermofisher.com/TFS-Assets/LSG/manuals/MAN0012652_TranscriptAid_T7_High_Yield_Transcription_UG.pdf)

しかしながら、あらかじめプラスミドを制限酵素で切断して『終点』を作ってあげることで、そこでRNAポリメラーゼが脱落し、決められた長さのRNAだけを合成することができるようになります。

では、このステップ①に問題はないでしょうか?
匿名で送られてきたmRNAワクチンの信頼性に大きな不安はありますが、Kevin McKernan氏の解析結果を見てみましょう。(現状、これしか見るものがないので仕方ありません。)

A limitation of this study is the unknown provenance of the vaccine vials under study. These vials were sent to us anonymously in the mail without cold packs.
訳)今回の研究における限界として、研究対象となったmRNAワクチンのバイアルの出所が不明であることが挙げられます。これらのバイアルは、保冷剤なしで匿名で郵便で送られてきたものです。

https://osf.io/b9t7m/

mRNAワクチンに含まれる『RNAの長さ』を解析した結果を見ると、mRNAワクチンには、ある一定の長さのRNAが多く含まれていることが分かります。その長さは、おおよそスパイクタンパク質をコードするmRNAとして適切な長さです。

(画像:https://anandamide.substack.com/p/pfizer-and-moderna-bivalent-vaccines)

RNAポリメラーゼが、プラスミド上をグルグルと回ってできたような、おかしな長さのRNAは見当たりません。
したがって、ステップ①「 制限酵素によるプラスミドの切断(リニアライゼーション)」には問題がない、と言えるでしょう。

このことは、mRNAワクチンの製造工程において、mRNAワクチンに混入する可能性のあるDNAは、『環状のプラスミド』ではなく、『切断されて一本の線になったdsDNA』であることを意味します。(これが重要!!!)
その点、Kevin McKernan氏の「プラスミドよりdsDNA!」という主張に同意しますが、「そもそも『プラスミドゲート事件』の発端はあなたでしょう!?」と、複雑な気持ちになります。何だかなぁ…、という感じですね。

We are focused on dsDNA and think there is very little plasmid.
訳)私たちは『dsDNA』に焦点を当て、プラスミドはほとんどないと考えています。


追記)大事な追記のため、記事の途中に入れました。
下の図の青色の「?」で示した、少ないながらもメジャーなものとは長さの異なるRNAの存在が気になっている(「これが人体に悪さをしている!」と考える)人たちがいるようです。

確かに気になりますが、その『異常な長さのRNA』の影響を考察・議論する前に、特定の長さのRNAの位置を示す『Ladder』のバンド(縞模様)を見てください(下図一番上)。
Ladderは、目盛りの役割をし、決まった長さのRNAの存在を示すはずですが、それが一本の綺麗な線ではなく、輪郭がぼやけてしまっています。特に、右端の2本の線は薄く、右側が大きくぼやけていることが、はっきりと分かります。

Kevin McKernan氏は、Ladderの結果をグラフ化していないので、想像するしかありませんが、おそらく、この製品を販売している企業側が示している下の図のような『鋭くピシッとしたピーク』にはなっていないでしょう。

RNA Ladderの製品情報より。
(画像:https://www.chem-agilent.com/contents.php?id=1006593)

したがって、Kevin McKernan氏の行った解析には、何か「バンドがぼんやりとみえてしまう(特に右側)」というような技術的な問題(不具合?)があり、実際には存在しないRNAが見えてしまっている可能性が考えられます。この解析結果が「絶対的に正しい!」とするのではなく、技術的な問題点を認めた上で考察して欲しいと思います。(追記、終わり。)


そして、ステップ②「RNA合成」にも、特に問題はないように思います。
mRNAワクチンのためのRNA合成には、ウリジン(UTP)ではなく、『N1-メチルシュードウリジン(N1-Me-pUTP)』が使われますが、決まった長さのRNAが合成されています。したがって、N1-メチルシュードウリジンという(反ワクチンの言うところの)『異物』が入ることによって、RNA合成が途中で止まってしまうということはないようです。

#5に続く。

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※ この記事は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。
※ この記事に特定の個人や団体を貶める意図はありません。
※ 文責は、全て翡翠個人にあります。
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おまけ)

醤油とは関係ない

ヤマサ醤油には、『製薬会社』としての顔があることを3年前に記事で紹介しました。

反ワクチンの記憶力には限界があるのか、使い古されたネタが忘れた頃に持ち出され、再び話題になることがよくありますね。笑
頭のアップデートをお願いしたいところです。

最近、手に付いた菌(常在菌?)を使って作った『発酵シロップ』を提供していたホテルに、保健所の指導が入ったというニュースがありました。

手の菌の中には、黄色ブドウ球菌もいますから、そういった方法で作られた食品は、食中毒を引き起こす可能性があります。

ツイートに関連して、ヤマサ醤油の不買を宣言・呼び掛けるツイートも見かけました。

そのうち、彼らは、醤油などの他の発酵食品も手に付いた菌などを使って自作するようになるのでしょうか?

もちろん、自分たちだけで楽しむ分には良いのかもしれませんが、ホテル・飲食店などでそれを提供するとなると、また問題となるでしょうね。
そして、「黄色ブドウ球菌は、実は『良い菌』だから、それを隠すために国・保健所が営業妨害している!」などと言い始めたら、もうそれは手の施しようがありません。それをあり得なくはないと思ってしまう程に、今の反ワクチン界隈は、見ていて危ういものがあります。

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