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誰かの人生を歩むのが幸せではないと気づかされる~「ドクターストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」~

 この興奮を周りの人たちに話さないと、頭の中がそれでいっぱいで他のことが何もできない! 
 いつもMCU(マーベルシネマティックユニバース)を観た後はそんな風に思って落ち着かない。
 観に行く前も、旅行前のように落ち着かない。
 そんなわけで前後一週間くらい落ち着かない。


 一昨年から、例の感染症のせいで軒並み映画が延期になり、MCUドラマをネット配信でたくさん観続けてMCU欲求を満たしてきた。ドラマはできれば観ておいた方が、その後の映画も楽しめる。(観ていなくても楽しめるはずなのは、終盤に書くつもり)
 「ワンダヴィジョン」ではもしかしてマルチバースが存在することをMCUで描くのかと話題になった。
 「ロキ」だって、1つの時間軸を保ち続けてきた存在が壊れたから、私のように理解に時間をかけてしまうタイプには「ロキ」を通じて、マルチバースの概念がよく伝わって良かった。
 「What if?」ではそのマルチバースが描かれ、ドクターストレンジが苦悩する様子やマルチバースではキャプテンアメリカがあの人だったり、ゾンビものまで出てきたり、様々な世界を楽しめた。
 今回の「ドクターストレンジ / マルチバース・オブ・マッドネス」の脚本を書いたマイケル・ウォルドロンは、ドラマ「ロキ」の脚本も務めたそうだ。「ロキ」の雰囲気含めてストーリーなど全部すごく好きだったので、彼が35歳とか度肝を抜かれる。

*ネタバレあります


 ドラマ「ワンダヴィジョン」では、愛するヴィジョンを失った「アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー」からの、ワンダの心が描かれた。
 両親も兄弟も恋人も失ったワンダが、深い心の傷を抱え、その苦しみがどんなに大きなものなのかを映像で観るのは辛かった。
 妄想から作ったのかと思われる子供たちが、マルチバースでは存在していて、ワンダは会いたいとの思いで、禁断の黒魔術に手を染めていく。

 何もかも失った自分は、幸せそうな誰かになって、その立場を手に入れることで幸せになれるのか。

 自分の傷は、そんな自分を受け容れて自分が自分を愛してあげることでしか癒せないんじゃないだろうか。


 今回はそんな風に、自分の思う「幸せ」とは何なのか、いったい誰を幸せにするのかと何度も問いかけている印象が残った。
 
 ドクターストレンジも恋人の喪失感を抱えている。
 1作目の序盤、失敗を怖がって成功する手術しかしないことが彼の象徴として描かれている。でも交通事故に遭って手先が動かせず、虚栄心のカタマリだった彼は恋人と破局を迎えてしまう。
 その後、あれやこれやあって指先も動くようになり、自分を犠牲にして何度でも失敗に立ち向かう。

 元々の性格から、どこか独善的で人を下に見てしまう彼だったけど、魔術師仲間のウォンや、アベンジャーズたちと出会い、仲間との関わりの中で大切な人を認識し、尊重し、それを言葉や行動に表せるようになっていく。

 今回は別の世界で、恋人だったクリスティーンと会って助け合い、自分が何を恐れて独善的になっていたのかを知る。
 自分のせいで妹を失い、それが原体験となってしまって、人を愛することを、そしてそれを言葉にすることを恐れたストレンジがいた。

 幸せとは。
 誰からも見てわかるものじゃなく、たくさん欠けた自分でも、自分で愛してやれるのが本当の幸せなんじゃないだろうか。
 ストレンジもそんな自分を受け容れられてさらに心が強くなったように感じた。

***

 MCUの世界は、マルチバースが開かれ、何でもアリになった。何でもアリだからこそ今後、映画としてまとめていくのは大変だろうなあと想像する。
 今回は特に昨年配信されたドラマを観ておくとよくわかり、観ておいて良かったと思ったけど、映画単体でも充分憶測しながら楽しめると思う。


 MCUにハマればハマるほど確かに全部観た方が一作一作に深みが出て面白い。あちこちに「あの時の……」が散りばめられているから。

 ただ一本の映画単体でも楽しめると思っている。
 単体で観ていると、他のも観たくなるようできているのも確かだけど。

 私は「ガーディアンズオブギャラクシー」1,2しか観ていない状態で「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」を観た。
 色んなヒーローが出てきて、「だれ……!!」の連続だったけど、何となく想像しながら観て楽しめたものだった。
 結末が衝撃的過ぎたので、どうにか希望を見出したくて「あれ観てみよう」「これ観てみよう」と始まり、「あれ」や「これ」を観ていると人物たちの意味ありげな背景が気になって好奇心に勝てず、結局全部観る羽目に。深追いすればするほど面白くなり、ヒーローが集まる「アベンジャーズ」シリーズも繰り返し観て確認してしまう。

 だけどMCU全部観ていないと楽しめないなんてこともないはずだ。

 全部を観ていないと、わからなくなっていくんじゃ。過去作を観ていない人を置いてけぼりにしてしまうんじゃ。なんて、知っている側の余計な心配かもしれない。
 いやこれから観ようか迷っている人も「過去作を全部観なくちゃならない」と心配しているにしてもね。
 今までのを観なくたって良いのだよ。

 私は漫画のマーベル原作はことごとく知らない。
 そこに関しては、先に知っておきたい欲もそれほどない。原作はああだったから、映画ではこういう意味らしいよ。映画にはこう生かされたらしいよ。と後から知るのは面白いのでネットで見かけると「へえ!」って楽しいけど。
 全部を知るのも面白いし、それこそが好きだという人たちも多いのだろうけど、そうじゃなくたって好きって言って良い。

 その映画単体を観て、あれこれ想像するのって昔から当たり前になかった?
 この人の背景ってこうなのかな。あのシーンて意味があったんだろうな。あのことについて知っている人にはわかるんだろうな。あれって「誰か」なんだろうな。って。

 今は何もかもわかっていないといけないんだろうか。
 想像力で観て、終わった後に観た人と話すのって映画の楽しみなんじゃないんだろうか。互いの知っている部分、知らない部分、違う解釈。

 マルチバースについてなんか、そもそも誰にもわからない。
 だからMCUに馴染みなくたって、観たくなったら「ドクターストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」をどうぞ観て楽しんでいただきたいなあ。
 なんか最近、MCUを全部知らないと入っていけない、みたいな意見を知るにつけ、ファン側がそんなにハードル高いものにするのは違うんじゃないかなあって思って。
 怖いシーン苦手な人はちょっと焦点を合わせないように気を付ければなんとかなるから!


#映画 #ドクターストレンジ /マルチバースオブマッドネス #感想 #ワンダヴィジョン #マルチバース #幸せ

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