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「けっこんしよう」って子供に言われた思い出

 いつの時代も、親が、まだ幼い自分の子供に求婚される話は聞く。
 そういう記事を読んだり、話を聞いたりしていると、息子にも言われたなあと思い出し、昔の日記を探ってみる。

 そこには、忘れていたやり取りもあって、懐かしく笑いながら読んだ。

***

 息子が、人生ゲームにハマってしまった時期があった。
 途中で「結婚」のマスがあって、そこに来ると、相方として別の色の人形を車に乗せることになっている。

 何十回やってきただろう。
 何十回もスタートからゴールまで行き、ある日。「母さん、結婚て何?」と聞いてきた。

  ……えっ。今さら?

 4歳の子供にも分かる程度に説明すると、「なるほど」と考え込んだ。
 息子なりに理解をしようとブツブツ言っている。

 しばらくすると、「ひらめいた」風にキラキラの目で「じゃあ、父さんと母さん、結婚してみたら?」と提案してきた。こりゃ名案だなあって顔で、私をのぞきこんでいる。

 わはは! 父さんと母さんは結婚してるんだよ〜!

 私は一人、お腹を抱えて笑い転げてしまった。

 すると数週間後、「〇〇(本人の名前)と母さんとで結婚するっていうのはどうかい?」と聞いてきた。

 おお。とうとうそういうことを言い出したんだなと思ったけど。 

 何でそんな上から。どうかい? って言われても。 

 「〇〇はまだ小さいからね。大きくなってから結婚したら?」と言ってみた。

  まだまだ泳がせてみよう。息子はどんな風な結論に到達するのだろう。

 すると数日後、「じゃあボクが大きくなったら、母さんと結婚しようかなあ」なんて言っている。めっちゃ日々考えているのだろうか。もう頭の中、結婚でいっぱいなのかってくらい、あれやこれや日をまたいで提案してくる。

 「まあーありがとう。でも○○が大きくなった頃には、お母さんはおばあちゃんだわ〜」と言うと。
 
 「じゃあさあ、おばあちゃんになったお母さんと、大きくなってお父さんになったボクとで結婚するっていうのはできないの?」

 いやいや。順番とかさ……いや色々おかしいでしょ。でも放っておいても、そのうち気づくなり、からかわれるなりして、路線変更を余儀なくされるのだ。そうでなくても、自然に好きな子というのができるだろうし。と思っていた。そのうち落ち着くでしょと。

 でも息子は「大きくなったら、お母さんと結婚するんダ〜」と周りに宣言し始め。あまりに頻繁に言うようになると、泳がせておくのも恥ずかしくなってきた。
 なので、「お母さん、二人の人とは結婚できないんだよねぇ〜」とモテて仕方ない人みたいな台詞を言ってみた。そうしたら、息子は考えこむ表情をして黙った。

 「二人と結婚できない? お母さんはお父さんと結婚しているから、僕とはできないの? 結婚て、好きな人と一緒に暮らすことじゃないの?」

 おそらく彼の頭の中はこんな感じだったのだろう。

 私の最初の、足りない説明が、息子を考え込ませてしまっているのかもしれない。黙っていた息子の表情は、険しくなった。4歳児のそれとは思えない深いシワを眉間に寄せ……。
 しかしすぐに、「よくわからないから、お母さんの言っていることは流そう」と思ったみたいだ。

 あっ。今。流したな! ……の瞬間がわかるくらいに、パッと表情が切り替わった。

 さらにその数日後。息子がいきなり私の両ほっぺたを、ぎゅっと挟んで、口にブチューッとしてきた。「うおっ!」と顔を離し、笑いながら「口にチュウしたければ、結婚相手にね」と、ここのところ考察に余念がない息子に言ってみた。
 親子でも口にチュウ、って私には、赤ちゃんの間だけ。それも虫歯が移らないように気をつけて、という感覚なので。
 すると息子はキョトンとした顔で、「相手って何?」と言う。「結婚する人といっぱいチュウしな」と言い直すと、またほんの少し思いつめた顔になってしまった。

 「結婚する人? お母さんじゃないのか? そう言えばこの前も、お母さんは僕と結婚できないと言っていたな」

 彼の頭の中は、またこんな感じだろう。

 その後も「結婚ていつからいつまでなの?」と聞いてきたり、お父さんとお母さんは前から結婚していて、それがずっと続いていると気づいたりしたらしい。
 そして自分はそこに割って入って結婚することはできないらしいとも。

 そうやって「お母さんとは結婚できない」と知った息子。

 ちょっとハートブレイクかしら。と思いきや、今度は「僕は誰と結婚して暮らすんだろう」と、幼稚園児としては不要な心配をし始めてしまった。
 そして内科で、鉢合わせた同じクラスの女の子に、大声で求婚していた。なんと適当で、なんと衝動的な……。
 そのお母さまと話したことはなく、少し距離のある場所からお互いに目が合ったけど、苦笑いされたので軽く謝っておいた。幸いそのお母さまも私と同様、子供のことだからと放っておいてくれていた。
 そしてその女の子は、待合室のアニメに夢中で、息子の求婚を大いに聞き流していた。

 息子よ、ガンバレ。

***

 と思ってからもう15年ほど経った。多分息子は求婚したことも忘れているだろうから、その話はしないけど、とんと色気のある話も聞かない。好きなアイドルとかタレントとかも言わない。好みとか私は全然知らない。そもそもいるのだろうか。どんな子が好きって、自分で少しはわかっているのか。


 大丈夫ですか。


 優しく面白くて、母さんより身体が丈夫な人と結婚できると良いね! ってちょっと心配な母さんだよ。


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