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ちょっとした違いは決して教えてくれないキミ

 音楽のタイトルって、ちゃんと覚えない。「〇〇(ミュージシャンの名前)の、ほら。アレ」とか言いながら、伝わるんじゃないかと思うフレーズを少し歌ってわかってもらおうとする。
 夫もそのタイプだけど、もっといい加減で歌詞を適当に作って歌っている。

 「ちがうよ。こうだよ」と笑いながら歌い直すと、夫は少し耳も遠くなっているから、さらにちがう歌詞になり、段々ちがう歌になっていくのを「ちがうよ~!」と笑い、「よくきこえないんだも~ん」と夫が笑い。二人でうひゃうひゃ笑っている。

 この前、両親の家に何泊かしていて、夫とリモートでしゃべっていたら「スマッシングパンプキンズの『Tonight, Tonight』とさ、他にも有名な曲があるでしょ」と言うので、「『1979』とかね」と応えたら、「そう! よくその数字覚えてたね」と言う。
 「えっ覚えてるよー好きだもん」と、いつもいい加減なくせにそこだけ覚えているからって得意げに言う。私は1971年生まれだから「8歳の頃だな」ってそんな風に覚えているだけ。(スマッシングパンプキンズのビリー・コーガンが12歳の頃の、個人的な想いが曲になっているそうだ。1990年代半ばの曲)

 夫はその数字を覚えてなくて、その日アレクサ(AI音声認識サービス)相手に苦戦したそうだ。

 「アレクサ、スマッシングパンプキンズの『イチキュウヨンニ』かけて」「アレクサ、スマッシングパンプキンズ『せんきゅうひゃくよんじゅうに』」「アレクサ、『ナインティーンフォーティトゥー』」「アレクサ、『ワンナインフォートゥー』」っていろいろ言ってみても出なくてさあ~。発音が悪いのかと思って言い直したり、区切ってゆっくりていねいに言ってみたり、必死だったんだよ。いろんな言い方してみた!

 そりゃあ数字ちがうから出ないよね。と笑い「スミマセン。その曲はアリマセン」て言われたんじゃない? それともアレクサのことだから、スマッシングパンプキンズの情報を言ってきた? とか話していたら、急にパソコンの向こうの夫が黙り、顔をあげて遠くを見るような目つきをしている。

 「どうしたの?」
 夫のその様子が怖くなって聞くと、「アレクサが反応してなんかしゃべってる」。

 アレクサって知りたいこと教えてくれるけど、必要ない情報まで延々伝えてきて止まらなくなる時もある。ずっとしゃべってるからもう良いと思うけど「終わって」だけ言っても終わらない。ちゃんと「アレクサ、終わって」と話しかけないと終わってくれない。

 だけどアレクサにしたら、めっちゃ盛り上がって話し続けているのに話の腰を折るんですね、って雰囲気にならなくもない。だって「アレクサ、終わって」って言うと急にシーンとなるんだもの。めっちゃ盛り上がってたのに。
 なので時々いたたまれなくなって私は「アレクサ、ありがとう」とも声をかける。するとたいへんすがすがしい声で「どういたしまして! またいつでもどうぞ」みたいに言ってくれる。

 アレクサはすごい情報量なのに、こちらの言いたいことが伝わらないとポンコツに思えてちょっとかわいい。少しでもちがうと「わかりません」て言うし。その辺、頑なよね。
 あとアレクサってお笑い芸人、あんまり知らないのよねー。夫や私の方が知ってると思う!


読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。