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失敗することで、楽しさは何倍にもなるから挑戦してみる~お菓子作りを通じて~

 高校生の頃にお菓子作りにハマった。
 食いしん坊だからなのだろう。思い描くケーキを味わいたい欲求が高まりすぎて、自分で作ってみようと思った。
 最初にうまくいけばもう成功体験となって次も、と続いた。


 当時はネットなどないから、本屋でお菓子作りの本を探した。
 料理本をたくさん持っていた母に「どんな本を選べば良いんだろう」と聞き、「自分が作りたいと思うものが多く載っているのが良いと思う」という意見を参考に。
 お菓子作りにまったく何の知識もない初心者だったので、そんな私でも成功するお菓子作りが良い。失敗したくないから、懇切丁寧に説明があるものを。

 探し求めた結果、これに決まった。

以前も載せたことがあります

 今確認すると、1988年第四刷に発行されたものを購入している。
 ショートケーキも上手くいったけど、中でもバナナケーキが格別に上手にできた。
 どっしり重たいのに中はふんわりしていて、バナナの香りの広がりが良い。
 何度も作ったし、友人たちにも食べてもらった。
 他に印象的だったのは、作るのが大変でヘトヘトに疲れた栗饅頭や、バレンタインにやはり友達に配ったマーブルチョコのケーキ。いろいろな模様がかわいいクッキー。
 この本にはずいぶんお世話になった。
 ただお菓子作りはけっこうエネルギーを使う。
 社会人になり、結婚した頃にはほぼ作らなくなっていた。

 結婚してからはバレンタインになると、夫のためにマーブルチョコケーキやブラウニーなど作っていた。
 息子ができてからも続けていたけど、ある年、二人が大きなブラウニーを健気に食べ続けてくれている姿を見て、「なんか申し訳ないな。もうやめよう」と思った。自分が押しつけているだけと感じてしまって。
 毎年変わり映えしないし。労力の割に、自分が楽しいと思える気持ちやケーキの美味しさが上回っていないと感じた。


 ところで、私は25歳の頃にメニエール病を発症している。
 精神的に少しはりつめた後や、気候によるものなどで自律神経が乱されたところに睡眠不足が重なると、引き起こすらしい。
 私の場合は、気質的な特性プラスかなりの低血圧で、早起きが極端に苦手。早く寝たって早く起きるのはつらい。
 メニエールは「このまま油断していると来るぞ」とわかる時もあるけど、予兆なく朝起きたらグルグル回ってしまって起き上がれないことがある。
 翌日いっぱいくらいまで何もできない。

 息子が生まれてから睡眠不足が続くので、メニエールは頻発した。
 息子が大きくなってからも、幼稚園や学校で早起きしなければならなくて、やはり体がつらかった。昼寝をしてみても、せずに頑張ってみても、晩ご飯を作る頃には頭が膨張した感覚になって、台所に立つのがギリギリ。長い間、台所に立つだけで足腰も、心臓も、頭もしんどくてならなかった。
 どうにか台所に立つものだから、お菓子作りだなんて余力がない。

  普通は子供が幼稚園や小学校、中学校に入った辺りが節目で、自分の時間ができたとか、何かをやる気になったとか聞くけど、私の場合は息子が大学生になって、ようやく。
 ところがその頃には更年期症状が激しかった。
 そもそもこんな身体なもので、更年期で大ダメージを受けた私は、身体や生活のリズムを整えるのに何年もかかった。

 それから数年。52歳になった昨年後半くらいから、朝や晩のストレッチと筋トレと呼ぶには軽すぎるほどの軽い筋トレが習慣化してきて、散歩と呼ぶほどの短くて軽いウォーキングも続くようになってきた。
 その頃からほんの少しだけ何かを作りたい気持ちがわいてきて。
 少ないエネルギーで、根気がない私にも作れる物。

 「手抜き」「簡単」「すぐにできる」は目にとまりやすい。

 そこで、今はnoteをお休みしている方なのだけどーその方の書いている記事が目に入った。
 「簡単にできますよ」って書いている。
 ブルーベリーケーキ。

 「ブリティッシュベイクオフ」も触発してくる。 

 皆が、ちょっとした趣味の域を超えて、ベイクに特別長けているのはわかり、私にはできないと思う。それでもみんなプロではない。
 コンテストもの特有の、痛いほどの緊張感もないし、その後に何者かになるわけでもない。(その後のエピソードも、私はとっても好き。この番組に選ばれたからって、ベイクに関連した何者かにならなければいけないなんて、みんな思っていないマイペースさ)
 皆がベイクがただ大好きで、詳しくて、臨機応変で。それでも失敗もするし、何より全部が楽しそう。

 「私も作ったことあるよ!」「これ、難しいんだよね」「これは手間がかかるんだよ」「こんな時間じゃ無理なのに」「そこ計算しないとダメなんだ」「これを失敗と呼ぶのか」「中まで美味しいんだって」「上手だなあ」

 放送を観ながら夫と話していると、自分も作りたくなってきた。
 簡単な物からで良い。始めてみたい。うまくいかなくても、「ブリティッシュベイクオフ」のベイカーたちみたいに試行錯誤して楽しみたい。

 いくら簡単でも私の体力エネルギーだと、なかなか取りかかれないだろう。
 そう思い、今年に入って間もなく、元気な時をねらって作ってみた。

 それから7回、そのnoterさんの紹介してくれたブルーベリーケーキを作っている。
 うち5回くらいはいまいち納得がいかなかった。簡単なのに。簡単だからこそ、自由度も高くて。大成功が何なのかよくわからなくて。

 でも高校生の頃に買った本のように、レシピが懇切丁寧ではないから、自分で調整するしかない。

 最初は完成したものが正しいのかわからなくて、もう一度焼いてみる。さらに次は焼く前の小麦粉の厚さを変えてみたり、 器の大きさを変えてみたり、温度を調整してみたり。

 結局最初に焼いた物は成功と言って良いものだとわかった。

 7回目。
 帰省して6回目も食べた息子が言った。
 「これが食卓に出てくると、やったー! って思うんだよ」

 ふだん、あまり美味しいとか自分から言ってくれない息子が。

 そっか。
 それでじゅうぶん成功だ。

 ヘッダーに載せてみたのは何回目だっけな。ザクザクした食感の小麦粉とは言え、ちょっと硬めにできちゃったんじゃなかったっけな。まあまあだったから写真に残したままのもの。
 でもうまくいかなかったのではと思っても、次はここを調整してみよう、ここを工夫してみようと考えるのが楽しくて。
 あれからブルーベリーチーズケーキ、ブルーベリーパウンドケーキ、バナナケーキと挑戦している。
 どれも「これで成功なのかな。そうなんだろうね……」っていまいち納得できていない。ネットで検索して「簡単な」をキーワードに、必要最小限の材料でできる物にしているからなのかもしれない。

 ネットで検索して出てくるレシピは今後も参考にするだろうけど、さらにやる気を出した私は、新しく本を買おうと書店に行った。お菓子作りの本なんて、もう何十年も買っていない。
 それでも新しい本がほしかった。
 だって高校生の時に買った本は縦書きだ。

この通りに作ると、まちがいなく
美味しくできあがる

 今となってはちょっと読みにくい。
 老眼がつらいから本当は「ちょっと」じゃなくて、年齢的にはすごく読みにくい。

 使う道具も全体的に少し古いのよね。

粉ふるいは昔、裏ごし器で代用していた。
めっちゃ疲れるのよこれ

 作り方に関しては、さすがにこの本ほどていねいじゃなくて良い。自分で考えたい。

 本屋に入って、お菓子作りの本のコーナーを見つけ棚を眺める。
 興味のある物を手に取ってパラパラめくりながら、すでに頭の中でお菓子作りが始まる。要するに妄想なのだけど。
 母が35年ほど前に教えてくれたように「作りたいと思うものが多く載っている」ものにしよう。

 これに決めた。どれも美味しそうで全部作ってみたい!
 試行錯誤が良いなんて言いながら、けっこうていねいな説明のものを選んだ。ていねいだけど以前の本のように、入門者用ってほどじゃあない。初心者用くらいかな。考える余地はありそうだし、頻繁に作っているわけではない私にとってほど良い。
 そして一番は、開いて写真を見た時のワクワクがうれしい。ああおいしそう。ああ楽しみ!

 ブルーベリーケーキへの小さな挑戦が、試行錯誤につながって、次のケーキ、また次の挑戦へと私を導く。

 作りたい気持ちは、それが小さな物だとしても、私にとって挑戦そのもの。
 そして失敗は、次にどこを改善するかのポイントとなる。
 最初から失敗しないように注意するより、どこを改善すれば上手くいくかを考えるのが面白いから、失敗って悪くない。また挑戦してまた失敗したって、改善点を考え直して、その次の挑戦をすれば良い。

 高校生や大学生の頃、お菓子作りに失敗のなかった私には気が付きもしなかった楽しさを、今しみじみ味わっている。



読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。