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並走する電車で友達と

 小学生から社会人まで、何度も引っ越しているけどいつだって関西の阪急沿線に住んでいて、阪急電車のお世話になった。

 鉄道に詳しいわけでもないけれど、私はあずき色の阪急電車が今も大好き。
 小学校一年生で帰国した時、学校の宿題だった絵日記に、「はんきゅうでんしゃにのりました」と書いたのを覚えている。
 何度も、母に「なんていう電車だった?」と確認しながら。

 それからも随分とお世話になる。小学生の間は塾へ行く時。中学生以降は学校通う時。バイトや仕事に行く時。
 友達と。バッタリ会った父や兄と。買い物で梅田や三宮へ母と。甲子園球場へ行くのに阪神電車に乗り換えるまでの間。
 そして主に一人で。

 中学生以降は、よく本を読んでいたし、ウォークマンに好きな曲を集めたテープを聴くことも多かった。
 眠ってしまい、最寄りの駅で飛び起きて、慌てて下りたことも時々あったなあ。
 だけど、景色を眺めてボーッとしていることも割と多かった。立ったまま考え事。座ったまま考え事。

 薄いベージュの車内のカラーに深い緑のシート。座り心地は、ふかっとやわらか。
 平日昼間の阪急電車はわりと空いていてゆったり座れる。


 友人たちは西宮から三宮駅が最寄りの子が多く神戸方面なのだけど、宝塚駅と大阪梅田駅の間に住んでいた私にとっては神戸は二度乗り換えがあって徒歩含めると1時間半ほどかかってしまう。梅田までは40分かかるけど乗り換えなしで行けるので、友人たちと会う時は梅田で待ち合わせてくれたものだった。

 友人と梅田でブラブラしてお喋りして。また近いうちにすぐ会えるのに、「じゃあバイバイ」とほんの少しの別れがたしの気持ちで電車に乗る。

 でも梅田って、ヘッダーの写真みたいに一列に並んでいる(写真、お借りしました。ありがとうございます)。そして梅田駅からは神戸線、宝塚線、京都線が出ていて、同時刻に発車することがよくある。

 各々電車に乗り、発車する。名残惜しい気持ちで外を眺めていたら、神戸方面の電車が並走している。なんなら反対側に京都方面のも並走していたりする。
 そうしてドア近くに立っている私から、同じように立っている友人が見えて気分が高揚する。
 目が合って、わあ。また会えたね! まだお別れじゃなかったね! なんて互いにはにかみながら嬉しそうに手を振る。
 うふふ。

 そのうちどちらかのスピードが先に上がって追い越していく。ああ今度こそお別れ~とか思うと遅れていた方の電車のスピードが上がってまた友人が見える。また互いにニコニコになって嬉しそうに手を振る。


 さっきも見たわー!

 って多分互いの心の中でツッコミを入れるから笑いそうになるけど、電車の中では一人でいるわけで、何とか口をふさいで笑いをこらえる。
 すると向こうも笑いをこらえているのが見える。

 ……苦しい。

 苦しい。って思ったまま互いが見えたまま、並走する。

 もう良いから。

 別れがたしとかもうどうでも良いから。
 明日とか来週とか来月とか、とにかく近々会えるんだからと急に冷めたことを思ってもう恥ずかしくなる。

 そうしてようやくどちらかの電車がほんの少しスピードを上げて先に行く。
 ああ苦しかった。
 下がった目尻を何とか元に戻してぎこちなく笑顔を真顔にする。姿勢を正す。

 こんなことが梅田で別れるとかなりの頻度であった。
 友達と互いの電車から手を振るのは楽しくもあり恥ずかしくもあり、でもほんのちょっと嬉しい気持ちの方が勝っていたなあ。

 どちらの電車も次の十三駅で止まるんだけどね。そこではもう互いに見えない。

 大好きな阪急電車での、今となっては懐かしくて好きな思い出の風景。


※3年ほど前に電車について書いた記事の一部から文章を抜粋しました。

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読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。