見出し画像

家族で映画を分かち合う思い出~兄の映画好きを思い出す~

 その分野で王道の物でも、堂々と「好き!」って言いたいよね。
 夫とよくそんな風に話す。

 私はそれほどたくさん観るわけではないけど映画が好きなので、ベタな物も、誰もが良いとは言ってくれないシブい物も、心動かされたら好き! と言いたい。
 身近な人がどんな映画が好きか知るのって面白い。
 趣味が似ている人って少ないもので。ネットだと仲間は見つかりやすくなっているけど。それでも「この人、映画が好きなんだ」とわかっても、好みのかぶる映画が少なくてビックリしたり、自分の観ている数の少なさに「好きって言って良いのかな」とちょっとためらってしまったり。
 やっと好みが似ている人が見つかる喜びは、感情を分かち合える喜びなんだろう。私は怖いのや残酷なシーンが中心のもの、ハラハラ緊迫シーンが多いもの、間を充分に持たせた情緒のあるもの以外は割と節操なく何でも観る。そういうのも観なくはないけど、積極的ではないだけで、あれも好きーこれも好きーと言っちゃう方だ。

***

 兄が20歳前後の頃に映画にハマって、よく一緒に観た。
 1990年頃、映画のビデオテープを店舗で借りるレンタルビデオ店は流行していた。兄は借りてくると、母や私を誘って一緒にリビングで観た。
 兄とは当時ほとんど喋らなかったので、そういう時間を共有するのは珍しく、好きなタイプの映画じゃなくても時間があれば付き合った。

 チャップリンやヒッチコックなど、当時から考えても、もっと古い白黒映画を兄はよく借りてきて、家族で観てはお腹を抱えて大笑いしたり、怖がったり。
 兄は私が繊細さんなのを感じているようで、そういう私の部分を嫌っていた。でもヒッチコックの映画を観ながら静かに怖がっている私に対してだけは「甘えやがって」「猫被るなよ」って顔をしないで、「怖いね」とちゃんとこっちを見て安心させてくれた。
 父も古い時代の映画を観れると喜んでいて、両親の若い頃に流行った映画なども家族で観て楽しんだものだった。

 しかし兄は次第にそれだけでは物足りなくなっていき、ウディ・アレンが監督する映画にハマっていった。ウディ・アレンの映画が好きなんて言うと、当時ちょっと気難しいカッコいい趣味なんて思われたんじゃないかな。
でも次々観せられると、クセを感じるウディ・アレン節。しかも観ながら挟まれる兄の解説付き。映画に対して、オシャレな好みとかシブい趣味とかを目的としていない母や私は「もうわかったから」って食傷気味になったものだった。

 「お兄ちゃんは、ああいう映画が好きだった」と夫に話しながらふと思い出した。

 いや待てよ。

 「そう言えば『パルプフィクションが面白かった! 座りっぱなし含めて三回観た』とか言ってたわ」。

 当時は指定席でなく、観終わると必ず劇場を出ないといけないわけではなかった。そのまま繰り返して観るとか、確認したい序盤だけもう一度観て途中で抜ける、とかもできた。「パルプフィクション」とは、映画好きな映画として、けっこうベタな方ではないか。

 さらに思い出した風景。
 兄は、シルベスター・スタローンの「ランボー3」をいたく気に入ったようだった。観終わって帰宅後、実演交えながらストーリーや説明を2時間も話し続けた。
 「2時間だよ。聞く側もヘトヘトだよ」
夫に話すと
 「ほぼ上映時間分!」
と笑う。ほんとだよー! と笑ったけど、調べたら上映時間は101分だった。

 兄の熱弁&熱演の方が上回ってるやん。


 今も兄は映画が好きみたいで、兄の子供にもそれは受け継がれている様子。


 さて。我が息子はどうかと言えば。

 ある程度は好きみたいだけど、自分で探して観るほどではなさそう。MCU(マーベルシネマティックユニバース)作品も全部は追わなくても良いみたい。私がのめり込むきっかけは、息子と話を共有したくて頑張ったからなのに、今や立場は逆転。
 「これ観ない?」としつこく言ってしまうと「観せたいんだね」と苦笑いされる。
 押しつけはいけないわ。ごめんごめん。と我に返る。

 今は同じ画面を観ながら分かち合わなくてはいけない、なんて無理する必要がない。情報はあらゆるところから自分好みのものが手に入る。
 息子に強要はしたくない。

 でもネットもなく家族の誰かがテレビ画面で映画を観るって言ったら、一緒に観る機会が多かった時代。互いにどの映画が好きと話すと、好みのタイプやその人の傾向、趣味がもっとわかりやすかった気がするんだよな。好きな映画じゃなくてもその内容を知っていたり。クセの強さも王道も、分かち合う楽しさもあったり。

 今はちょっとだけ、本当にちょっとだけなんだけど、寂しい。

#エッセイ #好きなこと #共有 #分かち合う #思い出 #映画 #画面 #少し寂しい #映画にまつわる思い出


読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。