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【書評】犬が見届けてきたそれぞれの時代の青春~『犬がいた季節』(伊吹有喜)

『雲を紡ぐ』で知名度が上がった伊吹有喜さんの作品です。『犬がいた季節』。本屋大賞ノミネート作品。私はこの本が今年の本屋大賞だと勝手に予想しています。それくらいにいい小説でした。

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1、内容・あらすじ

物語は昭和63年から始まります。舞台となるのは三重県四日市市にある八稜高校、通称「八高」。

ある日、捨てられた子犬が八高に迷い込みます。美術部の生徒たちは子犬に部員と同じ「コーシロー」という名前を付け、部室で飼うことにします。

以来、「コーシローの世話をする会」が設立され、世話は下の世代に代々受け継がれることに。コーシローは校内を自由に駆けめぐり、多感で悩み多き高校生たちの日々を見つめます。

昭和から平成へと時代が移り変わり、コーシローも老い、高校生だった生徒たちも大人になっていきます。

そして令和元年、八高創立100周年の記念式典が行われ、かつて八高にいた人たちが皆戻ってきます──。

2、私の感想

郷愁の念を大いに起こさせる作品で、何だか泣けて泣けて仕方がありませんでした。最終話などはもう胸が詰まります。きっと私と同じような人がいると思います。

昭和63年から平成までのそれぞれの時代の八高生たちが描かれるのですが、時代は違っても変わらない、進路や恋や人生の問題にぶつかって悩む姿が、かつての自分と重なって感情を揺さぶられます。

そしてこの小説のいいところは、犬のコーシローの存在です。八高生たちを見守るコーシローは、ときどき口に出しては言えない彼らの思いを感じ取って代弁します。

そして最終話「犬がいた季節」で、今までの全ての話が繋がり、大団円を迎えます。

この最終話が素晴らしい。「あの人は今」のような話が次から次と。昔の同級生に会うような懐かしさを感じます。タイトルの由来もここで出てきます。

時は巡り巡ってここに戻ってきたのだなあ……と胸が熱くなりました。

人生に対して肯定的な思いを抱けるような、そんな小説です。

そしてついに作中に「令和」が出てきた小説としても印象的な作品でした。小説世界もいよいよ令和なのですね。

3、こんな人におススメ

・犬が好きな人
とにかくコーシローが健気で愛らしくて……。犬好きの方なら絶対にオススメです。

・三重県にゆかりのある方
土地勘のある人ならより楽しめると思います。八高の場所は「近鉄富田山駅の隣」だそうです。グランドから線路が見える設定になっています。

・昭和から平成にかけて青春時代を過ごした人
昭和、平成初期ネタ満載で、それだけで40代以上は読んでいて楽しいかと。

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