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【書評】本好きの人は必読の小説〜『店長がバカすぎて』(早見和真)

本屋大賞の発表が近づいてきました。この『店長がバカすぎて』も本屋大賞ノミネート作品です。作者は早見和真さん。

刺激的なタイトルですが、本書を読むと「このタイトルもねらいなのかも……」とニヤリとしてしまいます。

内容は全く違いますが、話題になった『頭に来てもアホとは戦うな!』を連想しました。

※書評一覧の目次はこちら

1、内容・あらすじ

主人公は谷原京子、28歳・独身。現在、零細書店・「武蔵野書店」吉祥寺本店の契約社員です。

本が大好きだが生活は楽ではなく、好きな本を買うこともままならず。

山本猛(やまもとたける)という名前にそぐわないバカ店長にイライラしながらも、文芸書の担当として、日々忙しく働いていました。

そんなある日、心の支えだったあこがれの先輩書店員、小柳真理さんが店を辞めることに。

小柳さんの退職を皮切りに、次々と京子に訪れる試練。果たして彼女は書店員としての仕事を全うできるのか──。

2、私の感想

「これは確かに書店員さんたちが本屋大賞に推すわ」と思いました。知られざる書店員の苦労がてんこ盛りに描かれているのです。

無茶な要求をしてくるお客さんとの闘い。希望する本をちっとも入れてくれない出版への不満。

出版業界の内情がよくわかります。全然知りませんでした。

そして「バカ店長」です。前半は京子がバカ店長に苦労する様子がユーモラスに(本人にとっては深刻に)描かれていて、声を出して笑ってしまいます。

「普通の会社や職場にも同じような人がいるよなあ」と思いながら読んでいましたが、この小説の本筋は「バカ店長との闘い」ではないことがだんだんわかってきます。

実はいろいろな伏線が張り巡らされていて、最終話近くでその伏線が一気に回収される緊迫の展開に。ミステリー要素も入っています。

この小説は、途中で止めずに一気読みすることをお勧めします。きっとその方がより楽しめます。

また、主人公・京子や登場人物たちの本に対する愛情が随所に書かれていて、本読みとしては大いに共感を抱きます。

私がこんなふうに日々の理不尽に耐えられるのは、当たり前だけど幸せになりたいからだ。好きな本たちに囲まれ、好きな物語を好きな作家から受け取って、愛すべきお客様の元へ大切にお届けする。

普段行っている書店の店員さんにお礼を言いたくなるような、そんな小説です。

ところで、読み終えてからもまだ謎がいくつか残されているような気がします。(ここから先はネタバレなので未読の方はご注意を)

読み終えて、もしおわかりの方がいれば教えていただきたいのですが、藤井さんが泣いた理由は何なのでしょうか。

もしかしたら私の理解力が不足しているのかもしれませんが、これはもしかして続編があるということなのでしょうか。

3、こんな人にオススメ

・本好きの人
これはもう言うまでもなく。全ての本好きの方へ。

・接客業に従事している人
書店業界以外でも、こういう変なお客さんはいるんでしょうね……という共感を抱けると思います。

・笑いたい人
全編通してかなり笑えます。私は作中に出てくる架空の書名がツボでした。

なお、早見和真さんといえば、高校野球を描いたこちらも名作です。『ひゃくはち』。そのうち書評を書きたいです。



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