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【書評】最強を誇る殺し屋の家族愛~『AX』(伊坂幸太郎)

前回書評を書いた伊坂幸太郎さんの『マリアビートル』の続編『AX』です。「殺し屋シリーズ」の3冊めです。これまたテイストが違う傑作でした。

※書評一覧の目次はこちら

1、内容・あらすじ

今回の主人公は、殺し屋の中でも最強と言われる「兜(かぶと)」。表では「三宅」という本名を持ち、文房具メーカーに勤めています。

家族もいて、妻と高校生の息子の3人暮らし。最強の殺し屋のくせに、家では妻に一切頭が上がらない恐妻家です。もちろん家族は彼の仕事のことは全く知りません。

息子が生まれてから、彼は殺し屋を引退しようと決めたのですが、引退するためには莫大な金が必要だ、と仲介業者に言われます。その金を稼ぐために罪の意識を感じながら未だに裏の仕事を続けている、という不本意な状況にありました。

そんな時、別の「業者」と出会って対決したことをきっかけに、彼は何が何でも殺し屋を辞めることを決意します。

しかしそれは、彼や彼の家族に危害が及ぶかもしれない危険な道でした──。

2、私の感想

1作目の『グラスホッパー』、2作目の『マリアビートル』、と続けて読んでいくと、明らかに文章が読みやすくなっているのがわかります。

前半部分までは、兜の恐妻家ぶりがひたすら笑えます。最強と言われる殺し屋が妻には全くかなわない、というギャップが面白くて、楽しく読めます。

しかし、「きっとこのままでは終わらないんだろうな」と思っていたら、案の定でした。

半分を少し過ぎた辺りからでしょうか、徐々に事態が緊迫してきます。そしてある箇所で目が点に……。びっくりさせられます。

「えっ、そんなあっさり?」と思っていたら、話は後半に引き継がれ、前作同様、伏線大回収の後、ラストで物語が見事に着地。

前作は痛快なストーリーでしたが、今回は胸が痛くなるような、切ないお話でした。殺し屋シリーズで泣くとは思いませんでした。拍手。

ちなみに、この「殺し屋シリーズ」、まだ書かれそうな気がします。スズメバチが……。(これは読んだ人にしかわかりません)

3、こんな人にオススメ

・『グラスホッパー』『マリアビートル』を読んだ人
ここまで来たら読むしかありません。諦めて読みましょう。

・家族を持っている方
今回の話は間違いなく「家族愛」の話です。大切なことを教えてもらいました。

・ほっこりする話が好きな人
「殺し屋シリーズ」でほっこりもおかしいのですが、でもほっこりします。



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